心配性1
沙綾は私達三人の中で一番しっかりしている。常識的で、頼りになる。思考が子供っぽい私とおっとりしている雪穂をいつも引っ張ってくれる。でも時々、誰かを心配すると突拍子もない行動をとることがあった。
「ねえ雪穂、最近藤谷さんとは会ってる?」
三人で集まるなり、開口一番そう言った沙綾の表情を見た時から、これは何かあるぞと予感がしていた。
「会ってるよ~。急にどうしたの、沙綾ちゃん」
「うーん、雪穂に言うかどうか迷うな……いやでも、言っておいた方が良いかも、うん」
私と雪穂がなんだろうと顔を見合わせている間に一人で納得する沙綾。
「私、見ちゃったんだよね。藤谷さんが女の子と腕組んで歩いてるところ」
藤谷さんとは、藤谷亮介さん……雪穂の彼氏で現在大学生。私達の二つ歳上で、雪穂とは高校生の時雪穂のお兄さんを通して知り合ったそうだ。
私は会ったことはないけれど、雪穂のお兄さんは沙綾にシスコンと呼ばれるほど雪穂のことを溺愛している。そのお兄さんに認められるほどの人なのだから、よっぽど誠実な人なのだろうと思っていた。
神妙な顔の沙綾とは裏腹に、雪穂は至って落ち着いた様子だ。
「沙綾ちゃん、心配してくれてありがとう。でもね、私は亮介さんのこと信じてる。もちろん、沙綾ちゃんの見間違いとも思ってないよ」
「だったら――」
「きっと、何か理由があると思うの。でもそれは、私は亮介さんには聞かない。だから沙綾ちゃんも気にしないで大丈夫だよ」
穏やかな口調で諭すように言うと、雪穂は微笑む。それでも沙綾は納得がいかないようで、ぽつりと呟いた。
「そんな……はっきりさせた方が絶対いいよ……」
そして――それから数日後の土曜日。私達は休日だけど、藤谷さんは大学で講義があるらしい。
その大学の正門から少し離れた木陰に私達三人は立っていた。
「沙綾、やっぱり止めようよ。雪穂本人が気が進まなそうにしてるし」
浮かない表情の雪穂を見ながら言うと、
「二人が嫌なら、私一人でやるよ。これは雪穂のためなの、疑わしいことはちゃんと確かめとかないと」
沙綾は頑なだった。こういう時の沙綾は一度決めたらやり遂げるまで譲らない。それは私達を思ってが故なのだろうけれど、沙綾の心配性は時々こんな風に暴走する。
「あっ、藤谷さん出てきたよ」
そう言うやいなや、沙綾は私達二人の腕をとって追いかけ始めた。
本屋やファミリーレストランなどが並ぶ通りを、こっそりと歩いて行く。こっそりといっても、ただついていっているだけで藤谷さんが振り返ったら一巻の終わりだ。
本屋の前を通り過ぎようとしたところで、聞き覚えのある声に呼び止められる。
「あれっ……三人共どうしたの、こんなところで」
声の主は、遥香ちゃんだった。本屋の袋を手に提げ、不思議そうに私達を見ている。状況を遥香ちゃんに説明しようとすると、沙綾はそれを遮るように早口で、
「今立ち止まってる暇ないから遥香ちゃんにも来てもらって、その間に説明よろしく」
それだけ言うと、前を向いて進んでいってしまう。そんな沙綾の様子に遥香ちゃんは首をかしげながらも着いてきてくれて、私は改めて一部始終を説明した。
「雪穂本人が良いって言ってるなら、そこまでしなくてもいいのにね」
私が苦笑しながら言うと、遥香ちゃんは穏やかに微笑む。
「きっと、それだけ友達思いなんだね」
遥香ちゃんとはあれから連絡先は交換したけど、こうして学校のない休日に会うのは初めてだ。二人共私服で、それは小学生の頃と変わらないのに、私の隣には当時よりも大人びた遥香ちゃんがいる。不思議な気持ちになりながらも沙綾について話し続けていると、
「来た、あの子だよ」
沙綾の声に前方を見る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます