RF:夜のレシピ

安心して歩けるのはいつだって夜道だ。


女の夜歩きは怖い、危ないだと言われても、安心して歩けるのは夜道だった。


街灯が道を示す世界では、いつだって軽やかに足が運ぶ。例えば、クルリと一回転してみたところで気づく人は少ない。


鼻歌を歌ったところで「誰が」とすぐに突き止めることは出来ないだろうし、私がどんな顔をしていても正しく認めることは難しい。


月のある夜も、月のない夜も好きだった。オリオン座が光る空も、星座がわからない空も好きだった。


それは、いつまで経っても変わらない。


普通に生きていられた時も、鬱と言われた時も、そこから少しずつ成長している今も、変わらない。


何せ、自分の姿形さえ溶け込んでしまいそうなこの時間が好きだから。強気に引いたアイライン、気分を高めたくて選んだリップ。それらをクレンジングする前に闇に溶かす時間が好きだから。


だから、だろう。今日も私は鼻歌を歌いながら上機嫌に歩を進める。普段は恥ずかしくて聞けない、熱烈な応援歌なんかを聞いて。決意を固めて、よしやるぞと意気込んで。


ーーまあ、そんな決意は大体寝て起きたら消えてる弱いものだけど。


そんな不確定で不安定で幻想のような、夜の時間。


明日にはゆるやかに消える決意を固めながら、上機嫌に歩くのだ。


今日の私をふやかしながら明日へのちょっとした決意を固めて、ベッドで眠りで溶かして作り直す。


さあ、明日の私はどういう形になるだろう?


……今日よりはまともであればいいな。

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