広い世界の片隅で、僕と君は恋を終える。

鈴響聖夜

プロローグ

「天国ってあると思う?」


 屋上のフェンスにもたれかかって、彼女は唐突に尋ねてきた。

 ぼくは少し考えた後


「無い」


 と冷たく言い放った。

 彼女は少し俯いて


「そうだよね」


 と呟いた。

 彼女はまた尋ねた。


「じゃあ死んだらどこに行くのかな?」


 僕はまた少し考え


「分からない」


 と言った。

 すると彼女は


「そっか」


 と言った。

 更に彼女は


「憐が死んでも忘れないでいられるかな」


 と呟いた。


「別に忘れていい」


 僕が初めて本心をうち開けた瞬間だった。

 彼女は少し驚いて


「忘れないよ。絶対に」


 と宣言してくれた。

 でもひねくれた僕は、その言葉が嘘だと思った。

 僕の事なんてすぐに忘れる。

 でも言えなかった。

 それを言ってしまうのは流石に野暮だと分かったから。

 だから代わりに


「ありがとう」


 と言っておいた。

 彼女は少し含羞はにかんで笑った。


 これは僕と彼女の、かなしい恋物語だ。

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