九八四一死神~無知の母に殺される~

南無阿彌 まみむ

第1話

泣いたってダメだー!息子の命はあと1週間だからな」

「うぉーっん!うぉーっん」


多満子たまこは、高校生の息子に憑いた死神にすがって泣いていた。多満子たまこは丸々と太った腕で溢れる涙を拭った。1年前も主人を亡くしたばかりだったのに。


この死神、方向音痴でそそっかしいのです。多満子に『ふとし君の家はどこですか?』と尋ねてきた。「どなた様ですか?」と聞く。「いや、それは言えん」「わたす、母親ですよ?そんなら家を教えないですよ」と言うと、「そうか 母親なら個人情報とかはないな。死神だ」という訳だ。



絶望の淵に立たされた多満子は、赤ちゃんの頃、ふとしに歌った子守り歌を口ずさんでいた。


 ね 〰️ぇ〰️むぅう〰️れぇ〰️へっ

 ね 〰️ぇ〰️むぅ うっ〰️〰️れ〰️ひ

は〰️は〰️のぅ グッ…むぅ〰️ネヘ〰️え〰️ニィ


「ヒーッ!止めろー!俺を殺す気か!」


「死神様 1週間の命なんですから母親らしいことさせてください」


「お前は自分の歌がどれだけヒドイかわかってるのか?俺様ぐらいだぞ我慢できるのは。息子の寿命が縮んでもいいのか?」


「そ そんな!それなら 音楽教室に歌を習いに行ってもいいですか?」

「そうしてくれ」


 ーー次の日


「死神様 駅前の教室に行きました。それで頼んでみましたが…。『こんなにヒドイ音痴は聞いたことがない。よくみても最低半年は掛かる』と言われました。」


「…いやいや あと1週間も聞けねえよ」


 ね 〰️ぇ〰️むぅう〰️れぇ〰️ひ



「ウワーッ!止めてくれ!…お おい。話がある。じゃあ あと1週間だけ寿命を伸ばしてやる代わりにやって欲しいことがある。だから歌は止めてくれ!」


「ハイッ!なんでもしますから死神様!」

「お前の得意なものはなんだ?」

「はい、おもてなしが上手で、料理なんかは美味しいと言ってもらえます。」


「そうか!俺は100年以上もおふくろの味と言うものを食ったことがねぇんだ。料理上手らしいなら、お前に作って欲しいんだが!」


「頑張ります!死神様。じゃあ約束ですよ!」


次の日から、多満子は、自慢の腕を披露した。

おふくろの味と言えば…肉ジャガだ。それから次に脂っこい中華だ。まずは酢豚と肉じゃがだわね。多満子は今まで以上に目一杯中華鍋を揺すっている。二の腕の肉が、180度くらい揺れ動く様は、まるで腕にエイが住み着いているようだ。


甘めの濃い味付けは多満子の家の家伝だ。肉じゃがはたっぷりと甘い汁を吸っていて、酢豚は野菜も肉も油でテカテカだ。カラフルで彩りもいい。熱々を提供するように、時間設定もしている。いつも出来たてだ。


「どうぞ 食べてみてください死神様」

死神はゴクリと唾を呑んだ。

 ひと口 ジャガイモを頬張った。

「う うまい!これがおふくろの味ってやつか。最高のおもてなしですわ」死神は泣いて喜んだ。ご飯を三杯もおかわりした。


デザートは特製あんこ入り白玉を乗せ、メロンとアイスとカステラの5段に重ねた、カラフルスイートビッグチョコレートパフェだ。高さは50㎝はある。ふとしの大好物だった。多満子は、また涙した。それも死神はペロリと平らげた。


ふとしちゃん、あなたもうお粥しか、たべられないのね。可哀想に。私もお粥にしますね。せめてもの人参と大根を入れて、野菜サラダを添えて。質素に食べた。


次の日は、特大エビの天ぷらと鯛のお頭活きづくり。いくら丼を添えて。

次の日は、生卵10個に、うに入り濃厚ソースのカルボナーラ、巨大チーズ入りフォアグラ乗せハンバーグに脂っこい中華の定番焼き餃子。

多満子は息子の命を伸ばすため、いつもより高級食材を使っていた。


「う うまい!お お母さん。なんちゃって」

「死神様 そんなに喜んでくれてありがとうございます。しかもお母さんなんて…」


「いやいや 一度お母さんと言ってみたかったんだ。家族ってのを知らんから」


「いいですとも。今からお母さんと呼んで下さい…ところで明日で1週間立ちますが…その…」


「いや、もう1週間だけ伸ばしてやるから、またうまい料理を頼むよ。お母さん!」


「は はい!もっともっとうまい料理作ります」


 その1週間後、また寿命は引き延ばしてくれた。


気がつけば一年が過ぎていた。


その頃には、お皿はタライに変わり、食後のデザートのプリンはバケツになっていた。


死神は、お相撲さんみたいな、体型になっていましたが、友達みたいに仲良くなり、死神の名前も知っていました。


ただ、死神に沢山のご馳走を与えたので、金も無くなり多満子とふとしは毎日、野草入りお粥などの質素な食生活のため、ガリガリに近い体型になっていた。


その頃から、死神の体に異常が現れてきた。オシッコが近くなり目がかすむようになっていた。


ある日、一向に死者を連れてこない死神の様子を見に主任がやって来た。


「おい 主任だが、何をしている まだか!」


ちょうど 美術学校に通い出した息子は、学園祭当日、自分の顔にペイントして死神の洋服を着ていたところだった。


学校の主任?「もうすぐ終わります。」息子はバスの時間に間に合わないと焦っていた。


「ノートは?」

「何度も書き直したから、破きました。」

「しょうがないな。じゃあ俺のノートを使うからいい!死神の名前は?」

九八四一くやよいちだよ」と息子は教えた。


 多満子に『よいち』の部屋を尋ねると、多満子は丁寧に案内して差し上げた。

 主任は奥の部屋に行くと、よいちを見た。

“あと一週間だな。”


 目の前にいる200キロもあるだろう巨漢の男の前に行き、顔と名前を確認した。

「名前は?」

九八四一くやよいちだ。何回も聞くなよ。前にも教えたろ」死神は目が見えなくなっていた。

 丸々と太った顔は縞スイカを横向きにしたように伸びきっていた。


“ほざくのも今日までだ。”


 主任は死者の名前と病名をデスノートに書き入れた。糖尿病っと。確認書に主任は署名した。


「お前も明日には来いよ!まだまだ訪問するとこあるからな!」と息子にいい放って足早に去っていった。


 次の日 死神の姿は消えていた。



 その後、健康と寿命を取り戻した家族は、200才になっても死なない身体になっていた。もっか世界一ギネス更新中である。




【おしまい】






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九八四一死神~無知の母に殺される~ 南無阿彌 まみむ @sizukagozen

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