冷気のような声

「え?ちょっ…いたい、いたい」


後ろではエヴァンズ様がミカリーナの右手をひねり上げていました。


「できることなら貴方になど触れたくもないのですが、仕事なので仕方ありません。暴れるような事があれば、さらに右手はひねり上げますのでご用心ください」


さっきまでの微笑みが見間違いかのように冷たーい冷気のような声が聞こえてきました。


周りの若いご令嬢方は「キャー」と黄色い声援を上げておられますが、きっとミカリーナの腕は痛いと思いますわ…


「ちょっと離して!ジョージア様、お願いします。助けて下さい」



あら、また悲劇のヒロインが戻っていらっしゃったわ。とてもお忙しい方でいらっしゃいますのね。



「ねぇ、そこのお嬢さん」


「お嬢さんだなんて…ジョージア様、どうかミカリーナと…」



「口にも出したくないのでお嬢さんと言っているんですよ。「は……?」さっきからジョージア様ジョージア様と誰の許可を得て私の名前を呼んでいるの?下位の者は王族に許可を得るまで口を開いてはいけない。シャロン嬢のように親しくさせて頂いている方ならいざ知らず、初見のあなたのような人になぜ名前を呼ばれなければならない。こんな初歩中の初歩の礼儀すらなっていない奴の名前なんて口にも出したくないね。


それだけではなく、許可なく身体に触れようとする?気でも狂っているんじゃないか?エヴァンズ、絶対にその女離すなよ」



「はっ、畏まりました。  しかし、あまり私も触っていたくないのですが…」



「縄にでも縛って、兵にしっかりと管理させておけばいい。じゃないとそのうち『こんなに触れていたんだから責任取って』とでも言われそうで恐ろしい」



「それはなんと恐ろしい…それではお言葉通り」



そういうとほんとに縄で拘束され、まるで散歩でもするかのように兵に持たれてしまっています。大変不謹慎ではありますが、この光景…ちょっと笑ってしまいそうになります。



「なっ、どうして私が縄で縛られなきゃいけないの!私はカシミール侯爵の娘よ!こんな仕打ち許されないわ!お父様、お母様助けてください」



「「あっ…」」


今までのやり取りを目の前で見ていたお父様とお義母様。ミカリーナの声でやっと正気を取り戻したようだけどもうこの状況。どうしようもないのではないのかしら。元々ちゃんとした教育を行わなかった親の不始末でもあるもの。

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