第二話 運命の女 ~Femme fatale~ ⑧

 エリザス地方にある大きな湖ジェラールメ湖の畔に佇むワインと水の都のペルージュの街は迷路のように張り巡らされた運河によって街が形成されております。

その運河によって街のエリアが明確に分けられ、多くの市民が行き交い賑やかで活気あふれる店が軒並み連なっている市場の1番街、それに続くファッションエリアの5番街、穏やかな川の流れに沿うようにテラスを設けるカフェーなどの飲食店の2番街、子供たちの声がこだまする文教地区の7番街、そしてさまざまな人が生活をする住居がたくさん立ち並ぶ9番街…と数えればきりがない程のエリアがにぎやかに存在しております。

ペルージュは王都・パラディスに次ぐローザタニア第2の都市として、またワインの産地としても有名であるため隣国のナルキッス大国を始めとする様々な国とも交易があり街には様々な国の人々の往来があります。

そして交易が盛んであるかゆえ、安価な賃金で働いている出稼ぎの外国人労働者などがこの街には多く存在します。

広大な1番街の市場から少し歩くと荷物を運ぶ運河の要の港がある3番街が広がります。ここでは他国から仕入れた品物を卸したりする問屋やそれを運ぶ運送業の人々が今日も威勢よく働いております。そして荷物を運ぶための労働者として、出稼ぎの外国人たちが多く働いているエリアでもあります。


「今日の品物はなんだ?」


湖の畔の港にはたくさんの船が停まっておりました。皆、午前中に余所で仕入れた品物を持って帰ってきて商品の仕分けをしているところでしょうか、多くの人々が大きな船から運搬用の小さなゴンドラへと積み荷を移動させております。

大きな抱えた中年の男が、マスタード色のゴンドラに乗って積み荷を整理している肌の浅黒い青年に話しかけました。


「おお、酒屋の旦那!今日はカジャから仕入れた向こうの国の地酒だ!それに乾燥肉もあるぜ」

「どれ…ふむ…なんだか不思議な香りだな…まぁいい、それを店に運んでおいてくれ!」

「りょーかい!」


青年はゴンドラを漕いで運河に乗ってその場をあとにしていきました。すると酒屋の主人はまた別の青年に声を掛けます。


「やぁリー、お前さんところは今日は何を持って帰ってきてくれた?」

「今日は『蒼龍国』の名産のスパイスと…『アルージャ』の水煙草です」

「そうか!じゃあそれも運んどいてくれ!」

「あい」


リーと呼ばれた色白で長い黒髪を後ろで束ねた、涼しげな眼もとの青年はにっこりと愛想よく微笑むと先ほどの青年と同様ゆっくりとゴンドラを動かして運河に乗っていきました。

積み荷を運ぶ人たちや商人、店の主人たちの声が響き渡る港から少し離れると、運河は細かい枝のように分かれていきます。リーは行き交うゴンドラを縫うように進んでいき、先ほどの酒屋の主人の店に仕入れた荷物を降ろすと再びゴンドラを漕いでドンドンと奥へ進んでいきました。

3番街の中心から外れたレヴィ通りに面した運河に出ると、リーは辺りをキョロキョロと見回してす…っと路地に回り込んで静かにゴンドラを停めました。そして大きな麻の袋を担いでゴンドラから降りると、古びた建物のカフェーの中へと入っていきました。

歩くたびにギシギシと音のするカフェーの中に入り、入り口付近の昼間っからワインを飲んでいる近くの作業所の男性たちの集団を通り抜けて厚手のカーテンに覆われた扉を開いて奥の方へと進むと東の国の楽器の音でしょうか…弦楽器の音が奏でられ、薄暗い部屋の中では西の国の強いお香の香りが充満しておりました。

薄いジョーゼットのカーテンで仕切られた小部屋には寝転がる様なソファー席がいくつか置かれてあり、少し身なりの良い格好をし顔を仮面で隠している男女がソファーでお酒を煽るように飲みふけっていたり、どこか甘い香りのする水煙草の煙をたっぷり吸って吐いた後、紅潮した頬を寄せ合って睦みあっていたりと…入り口付近の健全な飲食店とは異なった様子でした。

リーはそんなものには見向きもせずに慣れた足取りで店の中を進んでいき奥まったソファー席の方へと向かって行きました。


「ジャック…寝ているの?」

「…寝てねぇよ…」


リーがソファーをヒョイっと覗いてそう声を掛けると、亜麻色の髪をツンツン逆立てたジャックと呼ばれた華奢な少年がソファーにダラッと寝っころがったままめんどくさそうに答えました。


「ロバートがいないからってだらけていたら怒られるよ?」

「うるせーな…」


リーにも聞こえるような大きな溜息をつくと頭をボリボリと掻き肌蹴ていたシャツを戻してゆっくりと起き上がりました。


「…今日の仕入れ品、ロバートに渡しておいてもらえる?」

「…あぁ」


リーは持っていた麻袋をジャックに渡すとスッと踵を返して店を静かに出て行きました。

そしてゴンドラに戻ろうと裏口のドアを開けた時に、入れ違いに一台の大きな馬車がお店の前に到着してその中からこの3番街の雰囲気とは少し系統の違う一人の紳士と美しく着飾られた宝石のように光り輝く華やかな少女が降り立ちました。


「さぁ着いたよシャルロット!ここが私の言っていた『マントゥール』だよ」

「ここが…『マントゥール』」


年季の入った紺色の屋根に鈍いゴールドの文字で書かれた『マントゥール』の看板を見つめながらシャルロット様は呟かれました。


「シャル、ここは少しばかり治安が悪いから君はお顔を少し隠そうか。私のこのストールを巻こう」


ドミニク様は首に巻いていらした少し光沢のあるシルバーのストールをシャルロット様のお顔を隠す様にかけられました。


「ありがとう、叔父様」

「さぁ…じゃあ入ろうか。いつもは地味な格好に変装しているんだけれど今日は勢いに任せてきたから派手な格好のままになってしまったから目立ってしまう」

「ムッシュー!」


二人が人目に付く前にさっさとお店に入ろうとしたその時、リーはにこやかにドミニク様に声を掛けました。ドミニク様はドキッと一瞬驚かれプルプルと不安げに振り返るとそこには柳のような瞳をさらに細めた顔なじみのあるリーが立っておりました。


「リー!」

「こんにちはムッシュー。こんな時間に来られるなんて珍しいですね」

「今日は急にジャンヌに会いたくなってしまってね…」


気心が知れたリーが話しかけてきたのでふぅ…と安堵の溜息をつかれてドミニク様はホッとした表情になり安心して喋りだしました。


「そうですか…今日はマスターはまだいらっしゃいませんでしたが、ジャックは店内で店番をしていましたよ」

「そうか。君は?もう帰るのかい?」

「えぇ…まだ配達が残っておりますので…では失礼します」


ちらっとリーはドミニク様の横でストールをグルグルとお顔が隠れるくらい大きく巻いているシャルロット様の方視線を送られ、ペコッと二人に会釈をすると静かに去っていきました。


「…何だか涼しげな人ね」

「あぁ、彼かい?リーっと言ってね、彼は確か『蒼龍国』出身だよ。白い肌に黒い髪と瞳が綺麗だよね。彼は出稼ぎの外国人で、この街で貿易会社の仕入れた荷物を運搬する仕事をしているよ」

「…『蒼龍国』?」

「海の向こうの東のユリラシア大陸の国の一つだね。大きな青い龍が作った国という伝説があるよ」

「へぇ…」


おそらく頭の中で地図を描いて蒼龍国の国の場所を想像しているようにも思えましたが、いまいちちゃんとした場所がはっきりと把握できずにぽやーんとした感じで宙を見つめて考えているシャルロット様をご覧になってドミニク様は少し呆れたように笑われました。


「あれだね、シャル…私が言うのも何だけともう少しお勉強した方がいいかもね」

「…酷いわ叔父様」

「あぁっ!ごめんシャルっ!さ…っ!気を取り直して中に入ろうっ!」


遠まわしにおバカと言われ凹んだシャルロット様を見てしまった…っ!と慌てたドミニク様はゴメンっと即座に一言謝られて、シャルロット様の手を取りギィ…っと古い木の軋む音が大きく鳴るドアを開けて『マントゥール』のお店の中に入っていかれました。


「…今日もカモがネギを背負ってきたね」


その一連のやりとりの様子を、ゴンドラに乗りこみゆっくりとした手で漕いでいるリーがジッと遠くから見つめておりました。フフフ…と軽く笑いながら大きな独り言を呟くと再びゴンドラを漕ぎ始めました。

やがてゴンドラは大きな運河に出ると、そのまま川の流れに乗っていきリーの姿は早いスピードで遠くの街へと流れて行ったのでした。


・・・・・・・・


 「やぁジャック!」

「…なんだ旦那か…。今日はいつもより早い時間じゃねぇか」


『マントゥール』の中へ入り受付でパスを見せて案内され、奥の厚手のカーテンに覆われた扉を開いて中に入るとドミニク様はぐるっと薄暗い店内の中を見渡しました。そして奥のソファー席から亜麻色のツンツンとした毛先がチラッと見えたのを確認すると一目散にそちらへと歩いて行かれ、朗らかにお声を掛けました。

シャルロット様は初めて目の当たりにする少し異様なお店の雰囲気に面食らっておりましたが、お客たちはそんなドミニク様に一切関心を持たず、変わらずに訳の分からない会話を楽しんだり、睦み合ったりと自分たちの世界におりました。シャルロット様は少し異様なこのお店の中に戸惑っておりましたが、誰も自分たちの方に一切興味を持たない感じに少し安堵してドミニク様の後を早足でついて行きました。

ジャックと呼ばれた少年はソファーの背に頭を載せた状態のままダルそうに振り返り、ドミニク様のお姿をチラッと見てくわえ煙草の煙がユラユラとくゆらかしてこれまたダルそうに返事を返しました。しかしそんなジャックに構わずドミニク様はがばっとジャックの手を取り先程とは一転今にも泣き出しそうな声で懇願し始めました。


「何だか急にジャンヌに会いたくなったんだよっ!頼む、彼女に会う手配をしてくれっ!」

「…前金で5万ルリカだ」

「分かったっ!」


ドミニク様はジャケットの内ポケットから財布を取り出すと、1万ルリカ紙幣を5枚、5万ルリカをスッと差出しました。


「…確かに受け取ったぜ、旦那」


お金を確認するとジャックはニヤッと煙草を咥えたまま口角を上げて笑い、無造作にポケットにお金をねじ込みました。


「じゃあ早速、ジャンヌに会わせてくれ!」

「まぁ待ちなよ旦那。せっかちだなぁ。そんながっついたら女に嫌われちまうぜ?えっと…ジャンヌは今日は5時まで仕事なんだけど今日は特別に呼び出してきてやるよ。場所はそうだなぁ…今日は多分『ルピナス』が空いているはずだから案内するよ」

「恩に着るよジャック!」

「じゃあ早速移動しようぜ…って旦那、さっきから気になっていたんだけど横にいる小娘は何?」


煙草を一息大きく吸い、灰皿にねじ込んで消してソファーからゆっくりと立ち上がるとジャックはチラッとストールを大きくお顔を隠す様に巻いて一言も喋らずにお二人の様子を見ているシャルロット様を横目で見て親指で指さしました。


「あ…彼女は…そうっ!僕の知り合いのお嬢さんだよ!なぁロッティー!ちょっと社会勉強のために一緒に歩いているんだっ!な、ロッティーっ!」

「えっ!?」

「シャルっ!君の正体がバレると大変だから今君は僕の僕の知り合いのお嬢さんのロッティーと言うことでっ!頼むよっ!」


慌てたドミニク様がシャルロット様の肩をバンバンと叩いて大きな声で笑って何か誤魔化そうとしました。シャルロット様は呼ばれたことの無い愛称でいきなり呼ばれて驚きましたが、すぐさまドミニク様がこそっとシャルロット様に耳打ちされてお願いッと懇願されました。


「えっと…あ、ハイ…私田舎の方の娘で…ちょっと遊んでみたくて知り合いのこの方にお願いしてみたのっ!ロッティーよ!宜しくねっ!!」

「ふーん…まぁどうでもいいけど…」


シャルロット様が手を差しだして握手をしようとされましたが、ジャックはそれをフイッと無視してスタスタと店の裏口の方へと歩き出しました。


「んな…っ!」


無視されたことに怒ってジャックに文句を言おうとしましたが、ドミニク様にまぁまぁ…となだめられたシャルロット様はまだまだ怒りが収まらない様子でしたが仕方なしにジャックの後に続いて裏口の方へと行きました。

 

・・・・・・・・


 「…今日もあの旦那来たなぁ」

「あれ…メルヴェイユの坊ちゃんだろ?可哀想に今日も金取られていたな」

「カモにされているとも分からずに馬鹿だな」

「何で恋人と会うのに弟に仲介されて金取られるんだよ!普通に考えておかしいだろ!」

「本当だよなぁ。てかそれって恋人って言えんのか?」

「おいおい…それは言っちゃいけないぜ」

「恋人を金で買っているって思わねぇあたり馬鹿だよなぁ!」

「まぁ俺たちには関係ないんだ、放っておこうぜ」


三人が遠ざかった後、入り口近くのカウンターでワインを飲んでいた、筋肉隆々の肉体労働者であろう男性二人が馬鹿にしたように笑いだしました。


「本人がそれでいいならいいんじゃねぇか?」


洗い終わった皿を拭いたり、空いているテーブルの上を掃除したりしながら一部始終を見ていた、カウンターの中に居た中年の店主もククク…っと喉の奥で笑い出しました。


「マスターもひでぇよな。見て見ぬふりだろ?」

「俺は表側の店の雇われ店長だからな。面倒なことには巻き込まれたくねぇ」

「まぁな。俺たちは5万ルリカを稼ぐのも一苦労ってのに、あっち側のやつらは湯水のごとくすぐにスッと出しやがる!頭の弱い馬鹿な金持ちなんか子悪党どもに騙されて身ぐるみ剥がされちまえばいいっ!」

「ホントだぜ!金を持っていても頭が悪けりゃ終わりだな!」

「まぁそう言う馬鹿たちのお蔭で俺たちは甘い蜜を吸わせてもらっているんだ」

「店長も悪だなぁ」

「へっ。こうでもしなきゃ安月給の俺たちは生きていけないんだ。お互い持ちつ持たれつ…ってやつさ」

「そうだな!所詮世の中なんて綺麗ごとだけでは生きて行けねぇんだ!まぁせいぜいボラせてもらおうぜっ!!」


三人はガハハッと笑い出し、ドミニク様をひとしきりバカにしながらワインをグイッと飲み干しました。そして安いワインをもう一杯お代わりをして働いた後の身体の渇きを潤していたのでした。


・・・・・・・・


 「失礼します。陛下、ロベール様、ご報告がございます。残念なことにあのバカドミニク様自らマフィアの懐に入って行かれました」

「えっ!?」

「どういうことじゃ!?」

「あ…はい、『ラ・ベール』の店の場所を確認しようと厩舎の近くにいた使用人に確認いたしましたところ、ドミニク様とシャルロット様は『ラ・ベール』ではなくマフィアのいる『マントゥール』というお店に向かわれたご様子です」

「…どういうことだ?叔父上はジャンヌに会いに行ったのではないのか?」

「これも使用人に聞いた話ですが…どうやらドミニク様はジャンヌと会うときは弟のジャックに仲介してもらっているようで…まぁ簡単に言うとジャンヌに会う際お金を払って会わせてもらているみたいです。そしてその仲介役の二人がいるのが、その『マントゥール』というお店の様です」

「バカ息子…」


物凄い勢いで厩舎から戻ってきたヴィンセントはノックも早々、返事がある前にティールームのドアを開けて早口でウィリアム様とロベール公爵に報告を申し上げました。ヴィンセントの報告を聞くやいなや、せっかく少し立ち直っていたロベール公爵は泣きそうな声で呟くと再び膝から崩れ落ちて頭を抱えて天を仰いで呆れておりました。


「お爺様、しっかりなさってください!」

「おぉウィル…ワシはもうダメじゃ…もうこのメルヴェイユ家は終わりじゃ…」

「お爺様っ!」

「そしてまぁ案の定姫様もご一緒なんですよねぇ」

「シャル…!」


ウィリアム様もあぁ…っと頭を抱えて一瞬天を仰がれましたが、ヴィンセントは気にせずに淡々と報告を続けました。


「今バルトにロバート・グルーバーについて詳しく調べてもらってます。もう少ししたら報告が…あ、ちょうど着た。ちょっと失礼いたします」


ヴィンセントの手に持っていた通信機がヴィーヴィーと震え、ウィリアム様とロベール公爵に一言詫びると通信ボタンを押して通信機に出ました。


「もしもし、何か分かりました?」


お二人にも聞こえるように通信機から出る音声を大きくするとロベール公爵とウィリアム様は身を乗り出して耳を傾けられました。


「お疲れ様です!えっと…ロバート・グルーバーについてですが―――…まだ調査中ではありますが中間報告させていただきます。ラドガ大国出身の45の男です。20年ほど前の16の時に就労目的でローザタニアにやって来たようです。その後は職を転々としていたようですが、その後30の時に『崑崙』のローザタニア支社に御用聞きとして入社、以来恐ろしいスピードで出世して今や支社長にまでなっております」

「…移民ですか」

「はい、当時の入国手続きに関しまして不正がなかったか調査中です」

「それで?次は?」

「あ、ハイ、『崑崙』についてですが、こちらに出している登記上は完全に貿易会社ですね。蒼龍国のスパイスやお茶やお酒などウチに輸出したりしてます。ウチでは数社と取引の記録がありますね。決算報告書の方では特に問題はなさそうでした。ただ…中央卸売市場からは強引な取引でかなり評判悪いですね。過去に数回、脅迫じみ手法での取引で取り締まられています。報告によりますと強面の男たちによる暴力での恐喝が数件ありました」

「ほぅ…」

「そして『スカーレットシャーク』はペルージュの街でのさばっている集団ですね。移民の子が主なメンバーで10代の子供たちが中心となった10人ほどのグループだそうです。大きな犯罪は今の所ないようですが、主に貴族やブルジョワ階級への恐喝、暴行、窃盗などで何回か警察沙汰になっていますね。あ、ちょっと新しい情報が着ました。『スカーレットシャーク』のメンバーでボビーと言う18の青年がいるのですが…彼は3か月前ペルージュの精肉加工製品社長の男への暴行の罪で警察に逮捕されています。まず『崑崙』のスパイスの仕入れの際に法外な値段設定に腹が立った社長とひと悶着あり、その後このボビーと言う男が夜間に社長宅に侵入、そして暴行をしたとの報告です」

「…へぇ」

「ボビーは他に半年前は『崑崙』と揉めたお茶屋の主人の家への放火、同じく揉めた食品加工会社の社長宅への侵入や住居破損、…またペルージュの卸売市場の責任者への暴行や恐喝を自白しています」

「何でこんなに分かりやすい繋がりなんでしょうかねぇ」

「今のところは以上です」

「引き続き調査を続行してください。また何か分かり次第報告するように」

「はいっ!」


ピッと通信機の通話を切ると、ヴィンセントはロベール公爵とウィリアム様の方をチラッと見ました。何やら考えている面持ちのウィリアム様、何だかもう何も言えない表情で威厳がどこかに消えてしまったロベール公爵といった感じでお二人はソファーに座っておりました。


「まぁ何とも分かりやすい繋がりでしたね。これは恐喝を元にロバート・グルーバーを逮捕、もしくは国外追放出来るかも知れません」

「うん…だが単純そうに見せて肝心な証拠は残していないかも知れない…」

「まぁそうですね。…となるとここはやはりあの人の出番ですね」

「私も同じことを考えていたよ…」


ウィリアム様とヴィンセントは考えていたことが一致したと分かるとお互いフッと笑いあいました。


「では早速連絡を取って見ましょう」


少し嬉しそうな表情のウィリアム様を見てこちらもどこか嬉しそうなヴィンセントは通信機のボタンをいじり出しました。何が何だか分からないままのロベール公爵でしたが、そんな二人の様子をご覧になって少し安堵の表情をしていらっしゃいましたが相変わらずオロオロしたままでした。

そして静かなティーサロンの部屋の中には通信機の呼び出しコールが鳴り出しましたが、今度は鳴り出して2秒も立たないうちに止まりました。

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