その4.たわけた歌、およびスーパーマンの息子


 突然ですが、スパイダーマンが好きです。トビー・マグワイア版のスパイダーマン一作目が小学校に入学する前に上映していて、食い入るように見ていた覚えがあります。とはいは、映画こそちゃんと見ていますが、アニメのほとんどは未視聴で、また、漫画は数冊程度しか所持していません。ファンを名乗るには程遠いです。


 大分有名になりましたが、1978年に東映によるスパイダーマン(以下、東映版)が放送されていました。


 舞台は日本だし、主人公も日本人。あのコスチューム以外は全てオリジナル。ついでに剣を抜けば敵を瞬殺する巨大ロボも登場します(制作ストーリーを見てみると、後の戦隊ヒーローに登場するロボット達の系譜につながっていくそうです)。


 それで、劇中に「スパイダーマン・ヴギ」という曲が登場します。一見ただのスパイダーマン応援ソングですが、敵側が製造したアンドロイドの罠だったのです。ギターのアンプの中に蜘蛛だけが嫌う超音波が仕込まれており、この曲が周囲で流れるとスパイダーマンは悶え苦しむので、その間にやっつけてしまおうという作戦です。


 劇中ではこの計画を実行していたモンスター教授を、女幹部・アマゾネスが「こんなたわけた歌を聴いている場合ではございませんぞ!」と叱咤していました。それくらいコミカルな曲ではあります。


 しかし作戦は功を奏し、スパイダーマンは苦しみ、それとは裏腹に周囲の人はただ楽しんで踊り、レコードも快進撃の販売数を誇り、街にはこの曲が溢れてゆく……そんなストーリーです。敵のアンドロイドとはいえ、大ヒット中のアイドルを手にかけるスパイダーマンはどのような心境だったのでしょうか。


 それで、なんですが。


 「ヴギ」と名を打っている通り、この曲はブギの形式でノりやすいテンポとリズム隊、ほどよいブルースリフで構成されています。歌詞をとっぱらって聞いてしまえば、あの時代に流行っていたポップソングの一つと呼べそうなほど完成度が高いです。


 そんな曲がスパイダーマンで流れていたのです。


 振り返ってみると、スパイダーマンの初登場は1962年であり、現在でも大活躍中の長寿なキャラクターです。その膨大な歴史故、いろんな変遷があったのでしょう。もちろんこの現実の世界でもそうだったわけで。


 初登場の1962年といえば、かのボブ・ディランが自分の名を冠したファーストアルバムをようやく出したばかりです。大名曲「風に吹かれて(原題:Blowin' In The Wind)」すら、音源でリリースされていない時代です。そこから東映版放送の1978年までの間に以下のようなことが起こっているわけです。


・ビートルズの結成と解散が起こった。

・ワシントン大行進が開かれ、キング牧師が「私には夢がある!(I have a dream!)」と演説した。

・アポロ11号が打ち上げられ、人類が初めて月に降り立った。

・マイクロソフトが設立した。


 もちろん上記以外の出来事もありますが、激動の時代すぎます。東映版の放送が始まった1978年は、クイーンが7作目のアルバム「Jazz」を発表しています(『Don’t Stop Me Now』が収録されている作品で、放送中には同曲がシングルカットもされています)。


 最近、よくその激動の時代を生き残れたのは何故と考えます。初登場からほぼ変わらない完成度の高いコスチュームや蜘蛛の糸を紡いで戦う戦闘スタイルなどなど、いろいろあります。が、やっぱり一番の理由は等身大のヒーローというところではないでしょうか。


 元々大人しかいなかったアメコミに若者が参入したというのはやはり大きな出来事です(もちろん、それ以前にもバットマンのサイドキックとしてロビンがいたわけですが)。読者はピーターの活躍を見て、それが大人の悩みではなく、今現在成長中の若者の悩みだからこそ「分かるー!」と、一種の親近感を抱くわけです。大人になれば子供以上に悩みが細分化するけど、若者であればまだ悩みの共通点が似通うことも、一つの理由ではないでしょうか。「こういう悩みは、自分一人ではないんだな」とスパイダーマンが代弁してくれるからこそ、スパイダーマンは長く生き残っているのだと思います。


 スパイダーマンではなく、スーパーマンの息子ですが、つい最近、彼が同性愛者であることが物議を醸しました。人それぞれで反応は違うと思いますが、僕はありだと思います。アメコミを読んでいれば「なんだ、いつものパターンか」となるだろうし、誰かの拠り所になれるから、あのキスシーンはあるべきだと思います。実際、同性愛者である自身に悩んでいた人がそのシーンを見て、「あ、自分は肯定されてもいいんだな」と感じた、という記事も目にしました。


 このようにスーパーマンの息子やスパイダーマンのように、「誰かが私を肯定してくれている」という要素は大切だと思います。もっといえば、問題にすら上がらなくなるのが一番大切だと思います。まだまだ道のりは長いですが、無理ではないと思います。彼らが長く愛されているのが何よりの証拠です。


 で、なんの話だっけとなったわけですが、本稿は東映版の話です。脱線が過ぎました。


 東映版は放送終了後にカルト的な人気を博し、そして現在では広く認知され2022年公開予定の『Sider-verse』の二作目に出演予定だとか。ぜひ、あのセリフを劇場にて聴きたいですね。


 荒波に揉まれながらもスパイダーマン。近日公開予定の「No Way Home」が楽しみです。






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