再出発!明日から本気出す!

 理不尽な理由でパーティーから追放された盗賊シフ、己の選択に後悔しつつあったが、酒を呑んでいたらどうでもよくなってきた。盗賊シフの新しい冒険が始まる。


 ***


「えっ、じゃあお前……今日も酒飲んでたのか?」

「ビビったね、酩酊してたら一日が終わってたよ」

「アンタ金は大丈夫なの?破産して死になさいよ!」

「金っていうのは未来のことを考えなければいくらでも用意出来るんだよ!!」

「おま……お前マジかよ!!」


 シフがパーティーを追放されてから数日後、今日も今日とてノミオスの酒場は大賑わいである。

 シフは貯蓄を切り崩しながら、連日、開店から閉店まで酒場に入り浸っていた。

「やっぱり、アレだね……皆が冒険しごとしてる間にダラダラ酒飲むのは最高だね」

「どんどん追放されるのも当然なカスポイントを稼いでくなぁ、お前は」

「えへへ……」

「褒めてないわよ、で、いつまでそんな生活を続けるつもり?」

「どうしよっかなぁ、みんなが真面目に働いてると思うと酒が美味しくて美味しくてしょうがないからなぁ」

 満面の笑みでシフが酒を口に運ぶ。

 そんなシフにリキ達は呆れ顔である。


「お前なぁ、後悔しても遅いんだからな」

「甘いなぁリキ君……アタシはとっくに後悔しているよ!そんな中でも楽しみを見つけて、他者に対して比較的優位に立とうとする!それがアタシの人生だよ!!」

「死になさいよ……」

「さて、餓死と冒険中の死、どっちの可能性が高いかな……?ククク……」

「お前、本当に俺達の仲間だったのかよ」

「もちろん、いいや、パーティーから離れてもアタシは君たちのことを大好きでいるよ!」

「うっ、うるさいわね……バカじゃないの……虚空の大地に肉体を撒かれてしまえ!!」

 ツンが顔を赤らめ呪いの言葉を吐く。

 汚言の呪いが無かったとしても、同じような言葉を言っていたのだろうな、とリキは思った。


「無知蒙昧にして矮小なる人間か……」

 その時、暗黒冥炎獣デスヘルケルベロスのポチが帰還した。

 他のテーブルを回っては、客に供物を要求して回る恐るべき魔獣である。

 今日も他の冒険者に頭を撫でられたり、ソーセージや枝豆を貰ってきたのだ。

「ちょっとポチ!太るから他の客から料理貰っちゃダメって言ってるじゃない!バカじゃないの!?」

「哀れな人間よ……我を人間の作った法で縛ることが出来ると思うなよ……!!さぁ、餌の時間だ……我に人間の絶望を与えるが良い……!!」

「そんだけ食ってるなら、今日の餌は与えられねーわ」

「ぐ……ぐおおおお!!!愚かな人間よ!!その選択を後悔するなよ!!哀れな人間!矮小なる人間!我は空腹だぞ!!」

 激しく尻尾を振りながら、ポチはツンとシフに食事を要求する。


「何言ってんのよ、今夜はご飯抜きよ、餓えて死になさい」

「そういうことだからねぇ、ごめんね」

「その選択を後悔するなよ人間ども!!」

 切なそうで目でポチがシフ達を見た。

 その瞳は僅かに潤んでいる。


「で、アンタいつ戻ってくるのよ」

「戻る?」

 ツンの言葉に、しょんぼりとしたポチの頭をかくように撫でながらシフが応じた。

「今更戻ってきてと言われても、もう遅いんだよねぇ……」

「今更もなにも、まだ一週間も経ってねぇだろ」

「と言っても、アタシにもプライドってものがあるんだよねぇ」

「どこらへんにあるのよ、ないでしょ」

「パーティー追放の道を志した以上、アタシだってそう簡単に元のパーティーに戻ろうだなんて思わないよ!ちゃんとビッグになるのアタシは!そして君たちがアタシに助けを求めるの!おわかり?」

「おわからねぇんだよな」

「わからないわよ」

「グルル……」

 ポチが右前足を前に出した。

 ポチが出した前足を軽く握りながら、シフはさらに続ける。


「あくまでもこれは充電期間……そう、アタシだって自分の間違いを察しているんだよ」

「どの間違いだ?一個一個ちゃんと整理していった方がいいぞ」

「アタシは誰かに自分の才能を見出してもらうのを待ってた!!でも違うんだよねぇ……自分で積極的に能力をアピールしていくべきだったんだよ!!新しいパーティーだって自分で作っていく!!積極性の無さ、それがアタシの間違いだったんだね」


「一日中酒飲んでるよりはマシね」

「とりあえずは自分の能力をアピールして、どんな間抜けがこんな優秀で可愛い子を追放したんだ!!アホなのか!?って周りに言わせてみせるよ」

「性格面の問題があったんだろうなって言われるだけだろうが……」

「明日からきっちりと始めていくよ、私のアピールをねぇ!!」

「まぁ、頑張れ……」

「うん、頑張る!!」


 シフが時計に目をやると、夜の12時を回っていた。

 暦の上では既に、明日になっている。


「なったわね、明日に」

 死刑宣告をするかのように、ツンが重々しく告げる。

 しばらく奇妙な沈黙があって、その後やたらに明るい声でシフが言った。


「明日からやるよ!!私の想定した明日と違って、なんかキリが悪いからね!!」

「お前の明日が見えねぇよ」

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