お人好しイケメンヴァンパイアが無垢な銀髪美少女を拾ったら…

紅真理(クマリ)

第1話 白い月

(くだらない…くだらない…くだらない…


生きていることなんて…何の意味があるんだ?

そんな宝石を手に入れて何になる?

着飾って何が楽しい?


分からない。生きている幸せや本当の意味など人間に分かるものか。

ほんの数十年しか生きられない人間などに…

千年以上生きている、このヴァンパイアの俺だって分からないというのに…)



正装に身を包み、にこやかに頭を下げながらデュランは思う。

目の前にいるのはリトス国のアリシア・ウォード公爵夫人。デュランが用意した宝飾の美しさに、うっとりしている。


デュランは宝石の原石仕入れから加工・販売などを手掛けていた。彼が仕入れて来る珍しい宝石は貴族の憧れの的だった。


「では、これと…これを。私と娘用に、いただこうかしら」


「畏まりました。いつも、ありがとうございます」


顔を上げ娘を見る。18歳の娘・ケイティはデュランに見つめられ顔を赤くする。

デュランは25歳。漆黒の髪に金色の瞳の超絶イケメンだった。


「お似合いになると思いますよ。お嬢様の美しさを更に引き立たせることでしょう」


デュランにこう言われて好きにならない女性はいない。ただ、これは仕事を円滑にする為だけに言っている。そこに気持ちなどありはしない。

デュランは手続きなどを終えて屋敷を後にしようとする。すると、ケイティから声をかけられる。


「あのデュラン様。今度よろしければお茶でもご一緒に…」


まただ…どの屋敷に行っても声をかけられる。面倒くさい。美しい金色の瞳がキリっと光り、フワッと一気に間合いを詰めケイティの耳に囁く。


「俺はヴァンパイアだ。それでもいいのか?」


ケイティは顔を青くしバッと体を離す。デュランはニヤッと笑うと


「誰にも言うなよ。言ったら後悔することになるぞ」


と言って優雅に立ち去る。残されたケイティは恐怖と悲しみで呆然としていた。


久しぶりにやってしまった…デュランは先程のケイティのことを思い出す。デュランは何も冷徹人間…いや冷徹ヴァンパイアではない。普段ならああいう場合は面倒くさくても丁重にお断りしているのだが最近は何となく気が立っていた。


***


「おっ、デュラン。お帰り~どうだった?」


「ああ、俺が行って売れない理由ないだろ?」


自信満々に答えるデュラン。


「流石だ。いつもありがとな」


そう答えるのは、デュランの隣の家に住んでいる仕事のパートナー。貴金属加工職人のアイザックだ。歳は40代で短髪の赤髪。良く笑う気さくな奴で、人間嫌いなデュランは珍しく彼のことが気に入っていた。

そしてデュランが加工した宝石をアイザックに装飾してもらい、それをデュランが売りに行くという感じだった。


お金のことなど興味がないデュランは儲けのほとんどをアイザックに渡していた。

お金はただ持っていも意味がない。本当はお金を使ったことで得られる嬉しさや喜びという感情を手に入れる為なのだから。しかしデュランはもう何百年もその感情を忘れてしまっていたのだ。


アイザックの家は子供たちが沢山いるので、破格な報酬はとても助かっているようだった。代わりに衣食住のことをアイザックの奥さんや娘に手伝ってもらっている。


そして、アイザックの大きい子供たちもデュランの仕事を手伝っていた。デュランと一緒に仕入れや販売について行くこともあり、いつデュランが居なくなってもアイザック家が困らないように面倒を見ていた。


いつここを離れるか分からない…デュランが急に居なくなったらアイザック家も困るだろう。


というのもヴァンパイアは迫害されてきた。気の遠くなるような年月の中で、血を吸うという行為が人間を食べるというような誤解をされ、謂れのない罵声や嫌がらせを体験したこともあった。そして見た目も若いままで年も取らない。長く同じ場所にいることはヴァンパイアとバレてしまうので出来なかった。


その中で身に着けた処世術は『人当たりよく、人付き合いは広げず、孤独過ぎても衣食住が面倒くさくなるので程々に』…だった。


不老不死のヴァンパイアが死ねるのは首を落とすくらいしかないらしい。日光を浴びても胸に杭を打たれてもダメ。食事はとらなくても死なないが動くことが出来なくなるので必要最低限は食べる。


では、なぜ血を吸うのかというと魔力補充の為だ。血もほんの僅かでいい。血を媒体にして、人が持っている感情…エネルギーのようなものを吸う。それによって魔力を使い瞬間移動や記憶の操作などが出来る。


ただ、これも必ず必要なわけではないので、ごくたまにで良かったのだ。長い年月の間には懇意にしている女性からもらうこともあったが…近頃ではもう何もかもが面倒くさいと思うようになり見た目はイケメンなのに、中身はすっかりお爺ちゃんのようになることもあった。


***


久しぶりに原石の採掘・仕入れに行く。今日は1人だ。街からそんなに離れていない場所でも未開の地が結構ある。天然石は川が大きく曲がっている内側にあることが多い。アイザック家の子供たちも来れそうな河原周辺を探す。町の方に進みながら探索していると森の中が異様に明るく見える所があった。普段は行きもしないような場所だが何となく気になったので向かってみる。


大きめの草や低木をかき分けて進むと開けた場所に出た。見上げると珍しく明るい青空に、白く輝く大きな満月があった。視線を地に戻すとデュランは驚き目を見開く。そこはまるで遺跡の跡地のようだった。人工的に建てられた石の柱は朽ち果てていて、蔦や草で覆われている。大きい岩が点在していて周りからは見えないようになっているようだった。


(こんな所があったなんて…)


デュランはゆっくり歩みながら見渡す。すると真ん中辺りに平たい長い石があり光がさしている。そして何とその上に1人の少女が両手をお腹で組み横たわっていた。白銀の綺麗な髪に白い肌、目を閉じていても分かる美しい顔立ち。ゆったりとした白いワンピースを着ている。身体全体が光で輝き、まるで眠れるお姫様のようだ。


(天使…か?死んでないよな?)


とデュランは確認する。

規則正しい呼吸が聞こえ寝ているだけだと分かり安心するデュラン。


(こんな所に少女が横たわってるって…。…不自然じゃね!?どう見ても変でしょコレ!えっ罠?罠なの?)


急に怖くなり周りをキョロキョロするが誰もいない。何だか物凄く面倒くさそうなことに巻き込まれそうで、見て見ぬふりをして去ろうとする。しかし、数歩進んでは戻り、また進んではを繰り返していると…はぁ~!と長い溜息をつき戻るデュラン。


(見捨てられない…)


デュランは自分では全く気付いていないが実はお人よしヴァンパイアなのだった。

とりあえず声をかける。


「おい!お前、大丈夫か?起きろ!」


すると、ゆっくりと目が開けられる。その瞳は大きくアメジストのような紫色で綺麗だった。その紫色に何故か心を惹かれる。歳は15歳ぐらい。目を開けた彼女は間違いなく美少女だった。デュランは驚き顔を赤くする。が、我に返り声をかける。


「お前、大丈夫か?何でこんな所にいるんだ?名前は?」


少女は不思議そうな顔で黙ってデュランを見つめる。そして、ゆっくり起き上がると


「おまえ…って何?」


と、ゆったりと儚げな感じのする声で聞いてきた。


「は?おまえはお前だよ」


「おまえはおまえ…」


ボソッと繰り返す少女。記憶喪失なんだろうか?顔立ちからして貴族令嬢っぽいが、この辺の貴族はほとんど知っている。一体誰なんだ?とデュランは頭を悩ませた。


「とりあえず、お前も街まで連れて行ってやる。一緒に来い」


と言ってデュランは歩き出すが、立ったまま動かない少女。デュランは仕方なく手を繋ぎ再び歩き出した。










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