衣装屋ニャルニャル
「……は? え? ますたー、よね? え? でも、こっちにもますたーがいて……え?」
・は? は?
・これは分身の術! つまり……ニンジャ!
・アイエエエ! ニンジャ!? ニンジャナンデ!!?
・新旧両衣装が同時に見れるとかお得では?
・スクショ保存しました
・二人もいるのか……じゃあ、片方は俺が貰っていきますね
ローザネーラが、困惑したような声を上げる。
その気持ちはよくわかる。俺だって今絶賛混乱中だ。
自分のそっくりさん……というか、まったく見分けがつかない分身じみたモノが現れたのだ。驚いて当然だろう。
つーか、本当に誰? もしかしてドッペルゲンガーとかそういう類のモンスター? なら、さっさと討伐しないと……。
「にゃははははっ! いい反応じゃねん! いやー、そのビックリした顔を見るために、頑張ったかいがあったんじゃよ……って、なんでいきなり武器を取り出してるのかにゃ?」
「いや、殺さないとと思って……」
「こ、怖いにゃ!? この子、可愛い顔してセリフが物騒過ぎるんじゃけど!? ノー! 暴力はんたーい!」
俺が若干震える手で振り上げた大鎌を見て、俺の偽物は慌てたように胸の前でバッテンを作る。
というか、声もそっくりなのな。喋り方が全く違うおかげで、見間違えることは無さそうだけど……。
とりあえずモンスターではないっぽいので、取り出した首切り君にはインベントリにおかえり願った。ごめんよ、活躍の機会は後で上げるからな。いっぱい敵の血を吸わせてやるからな。
俺が首切り君をしまったのを見て、俺の偽物は大げさなくらいため息を吐いて汗をぬぐう仕草をした。
なんか、いちいち動きがわざとらしいというか、コメディチックな感じがするヤツだな。
「……すがたかたちはまねできても、ますたーのおかしなところはまねできないのね。てきとみたらすぐにくびをとろうとするなんて、ますたーくらいしかしないもの。もうこれで、まちがえるしんぱいはないわね」
「ローザネーラ? なんか言ったか?」
「な、なにもいってないわ!」
……まぁいい。今回はスルーすることにしよう。
で、だ。
「結局、誰なんだお前? というか、どうやって俺の姿になっているんだよ」
目の前で「にゃははー」と気の抜けた笑みを浮かべている俺の偽物に、胡乱気な視線を向ける。
「……ニャルニャル、いい加減にその幻影術をとけ」
目の前の偽物が口を開くよりも早く言葉を発したのは、アカちゃんだった。
振り返って彼女を見てみると、「非常に鬱陶しい」という感情を隠そうともしないしかめっ面で俺の偽物を見ていた。
アカちゃんの言葉に、偽物はべそをかくようなふりをしつつ、くねくねと気色の悪い動きでアカちゃんとの距離を詰めた。
「えぇえ! そんにゃ~! 夜なべして作った折角の幻影なんじゃよ~。というか、なかなか会心の出来だとおもうんじゃけど、どうかにゃ? 暁ちゃん」
「……おまけにおまけして、5点。ヴェータちゃんはもっとずっと、圧倒的に可愛い」
「それって、何点満点かにゃ?」
「……100点」
「にゃぁああ~~~~!? 赤点どころの話じゃないんじゃよぉ~~~~! ぬがぁ~~! ショックなんじゃよぉ~~~~!!」
「……やっぱり、3点」
「さらに下がったぁ!?」
なんだか愉快なやり取りが始まったんだが……しかし、自分と同じ姿をしたヤツが知り合いと話しているところを見ると、脳がバグりそうになるな。
二人の話に出てきた幻影術ってのが、俺に変身しているスキルの名前なのかな? なんだか、聞き覚えがあるような……なんだったかなぁ。
俺と同じようにアカちゃんと偽物の話を聞いていたローザネーラは、何かに納得したようにこくりと頷く。
「あぁ、げんえいのつかいてだったのね。わたしの《こうまがん》でもみやぶれないなんて、なかなかやるじゃない……じゃくたいかちゅうだけど」
そう言って、キッと悔し気に俺を睨んでくるローザネーラ。ごめんて……ちゃんとレベル上げ頑張るから、そんなに怒らないでくれ。
ああ、そうか。思い出した、ローザネーラのスキルにたしか、《幻奏術》ってのがあったな。それと同系統のスキルなのか。
しかし、なんでわざわざそんなことを……?
「はぁ……あれほどふざけるなと言っておきましたのに……。申し訳ございません、ヴェンデッタ様。驚きましたでしょう?」
「アリアさん……はい、まぁ。てことは、あの俺の姿をしているのが?」
「はい。この『衣装屋カオス』の店主にして、本日、ヴェンデッタ様の防具を作成していただくプレイヤーのニャルニャルですわ」
「ニャルニャル」
「にゃるにゃる?」
俺とローザネーラは、アリアさんから聞いた名前をおうむ返しにし、互いに顔を見合わせる。
そして、そろって俺の偽物――ニャルニャルに視線を向けた。
アカちゃんに絡んでは邪険に扱われていたニャルニャルは、俺たちの視線に気づくと、にゃはっとした笑顔を向けてきた。にゃはっとした表情ってなんだと思うが、そうとしか言いようのない絶妙な笑顔だった。俺が絶対にやらないような表情だ。
「おおっと、今日のメインゲストにご挨拶がまだじゃったねん! にゃははっ、こんにちはー、はじめましてー、おひさしぶりー! ある時は紅い女、ある時は美貌の神父、そしてある時は新鋭既出の配信者!」
くるくると踊るように動き回っていたニャルニャルは、こちらに背中を向け、顔だけ振り向きながら手で目元を隠すポーズで止まる。
そして、唯一隠れていない口元に、ニンマリと大きく弧を描いた。
「千差万別正体不明っ! その仮面の下は……」
くるり、と一回転し、俺たちに正面を向けたときにはもう、その姿は変わっていた。
白とピンクが混ざり合った髪を、アシンメトリーのツインテールに結び、シルクハットをかぶってシニカルに笑う少女。
伸びた前髪が左目を隠し、琥珀色の輝く右目にはモノクルが嵌まっている。
肌は滑らかなチョコレート色、背は俺よりも若干高いくらい。
フリルシャツの上に燕尾服を羽織り、下はショートパンツに編み上げブーツ。大胆にさらされた太ももが眩しかった。
片足を上げ、広げた片手を差し出すようにこちらに向け、もう片方の手を隠れた左目の前で横ピース。
ばっちりとポーズを決めたニャルニャルは、
「至高の美少女店主にして、天才衣装屋! ニャルニャルちゃんなのでしたっ! にゃはっ☆」
サーカスの前口上のように高らかに名乗りを上げた。
……うわぁ。なんというか、うわぁ。
うん、間違いなくあの悪趣味な外見をした店舗のオーナーだと分かる自己紹介だった。
色々ツッコミたいことがありすぎて、言葉に詰まるから一つだけ。
「「
俺とローザネーラは、口をそろえて、なんとかその言葉だけをひねり出すのだった。
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