ヤベー奴らのヤベーところ 上
「つ、疲れた……」
ぐったりと石畳の上に膝をついて項垂れる。
言い争いを続けるアカちゃんとアリアンロッドさんを何とか宥めようとすること十数分。
あの手この手で二人の気を収める事に始終して、精神的にズタボロになりながらもあの地獄絵図を終息させることが出来た。
媚びを売ったり、かわい子ぶったりと盛大にマヤってみせて……うん、思い出したくないな。
なんか必死になっているうちに、アカちゃんには夜にVRじゃないゲームを一緒にやろうと約束させられたし、アリアンロッドさんとは一緒にスクショを撮ることになった。
身売り? ははっ、言わないでください……。
はい、やめやめ。切り替えていこう。いつまでも落ち込んでたら話が進まん。
『orz』な体勢から立ち上がった俺は、アカちゃんと微妙に距離を取って立っているアリアンロッドさんに話しかける。
「……それで、この後は何処に行くんですか? アリアンロッドさん。装備を見てくれると言っていましたが……」
「……ヴェータちゃん、わたしは?」
「あー、うん。アカちゃんもだったな。二人がそれぞれ案内してくれるんですか?」
すすっ、と近づいてくるアカちゃんを適当にあしらいつつ、アリアンロッドさんに尋ねる。
アリアンロッドさんはアカちゃんに視線を向ける。
「暁さん、ヴェンデッタ様に案内するのは『彼女』で間違いないですか?」
「……ん。服に関して、あの子以上の職人は知らない」
アリアンロッドさんに頷きを返すアカちゃん。
なんだか、2人の間で共通認識があるようだ。
「それでは、ヴェンデッタさん。これからとあるプレイヤーの元を訪ねるのですが……確か、ヴェンデッタさんはまだドライの町にたどり着いていませんでしたよね?」
「あっ、はい。というか、この町以外に行ったことがないです」
「……あのでかいスライム人形を倒してるから、ツヴァイの町には行ける。だから、それ以降のフィールドボスを一体、討伐する必要がある」
「あれ? それじゃあ、すぐにはいけないのか?」
アインス周辺のフィールドのボスを倒せば、ツヴァイの町へ。ツヴァイ周辺のフィールドのボスを倒せばドライの町へ……と言ったように、次の町に行くには対応したフィールドを突破する必要がある。
ドライの町に行くためにはツヴァイの町周辺の『亜人窟の蒼樹林』、『餓鬼獣の赤荒野』、『魂迷の廃墓地』のどれかのボスを倒さなくてはいけないと言うことだ。
なお、俺が今日レベル上げ兼戦闘訓練を行っていたのが『亜人窟の蒼樹林』だったりする。
亜人系の魔物が多く生息し、鬱蒼と茂る木々の中から突然襲い掛かってくることがあり、あまり人気のないフィールド……と、攻略ウィキに書いてあった。
一応、適正レベルには達しているため、突破すること自体は出来るだろうが……それだと、時間がかかりすぎてしまうのではないだろうか?
俺が首を傾げていると、アリアンロッドさんとアカちゃんは全く同時に得意げな表情を浮かべた。
「ご心配なく! ボスの相手は私がするので、問題ありませんわ!」
「……わたしが速攻で片付けるから問題ない」
「「…………あ??」」
「流れるようにメンチ切り合わないで!? ほら、とりあえず出発しましょう!?」
ああもう、なんでこうすぐに喧嘩になっちゃうかなぁ!?
ここまで来ると、この二人って気が合ってるんじゃないのかと思えてくる。
睨み合うアリアンロッドさんとアカちゃんを引き離し、俺は大きくため息を吐くのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――――『餓鬼獣の赤荒野』。
ツヴァイの町を超えた先には、赤茶けた大地が広がっている。
乾燥した風に砂が舞い、視界のいたるところにごつごつした岩が転がっていた。
アリアンロッドさんによれば、ツヴァイ周辺のフィールドの中で一番出てくる魔物が強いのがここらしい。
その代わりボスのいるエリアまでほぼ一本道で、戦闘を短縮できるなら移動にかかる時間は一番短いとはアカちゃんの談である。
したり顔で語っていたアリアンロッドさんの話にアカちゃんが割り込む形で解説役を乗っ取ったせいで、また喧嘩になりかけた。懲りない……。
「このフィールドで注意すべき魔物は『スナッチ・モンキー』ですわね。敏捷が無駄に高く、こちらを煽るような機動でアイテムを掠め取っていく畜生ですの。見つけ次第速攻でひき肉にすると良いですわよ」
「なんだか私怨の籠った紹介だな……。分かった、気を付けるよ」
「……アリアンロッド、前にボス対策アイテムを全部盗まれてた。切り抜き動画にもなってる。……無様」
「そこの性悪狐? 今、なんとおっしゃいまして?」
「……勝てる相手だからって油断慢心するとか、髪型と一緒で頭が悪い……って」
「より酷くなってますわ!? きぃー! やっぱりムカつきますわね、この極悪狐! あったまきましたわ! そこになおりなさい!!」
「……だが断る」
「はい、そこまで。アリアさん、落ち着いて。アカちゃんはあんまり煽りすぎない」
そんな感じで談笑(?)しながら、ごつごつした道を歩いていく。
なお、アリアンロッドさん……アリアさんへの呼び方と口調については、本人たっての希望でこうなっている。
正直、恐れ多い思いが強いのだが、『他人行儀な感じがして嫌ですわ』と悲しそうに言われてしまったら……ねぇ?
顔が良い、というのは一種の兵器だろう。あんな顔されて断れる男がいるはずない。
まったく、美人は得とはよく言ったものだ。
「…………ちょっと、きんちょうかんがなさすぎじゃない?」
ぼそり、と呟いたのは、俺の隣を歩いていたローザネーラだ。
確かに、アリアさんやアカちゃんと話をして、二人の激突を止めて……と、魔物がいつ襲ってくるかもわからないフィールドを進んでいるにしては、呑気が過ぎるというモノ。
本来なら武器を片手に周囲を警戒しながら進むのが正しいのだろうが、首狩り君はインベントリでお留守番中だ。
俺は苦笑を浮かべながら、ローザネーラの言葉に応じる。
「まぁ、それはそうなんだけど……アレを見てると、どうしても気を抜いちゃうと言うか。警戒するのが馬鹿らしくなるというか……」
ちらり、と視線を向けるのは、俺たちの背後を歩くメイさんだ。
俺の視線に気づいたメイさんは、にこやかに微笑み胸の前で小さく手を振り――――もう片方の手を残像が出来るほど素早く動かし、『何か』を投げ放つ。
『ギャアア!』と耳障りな叫び声が突然聞こえ、そちらに視線を向けると……今しがた通り過ぎた大岩の影からこちらを伺っていた猿に似た魔物が、額に『銀食器のナイフ』を生やして消えていくところだった。
……まぁ、このように。
俺たちが朗らかに談笑(?)しながら道中を進めているのは、メイさんが現れる魔物をことごとく殲滅してくれているおかげだったりする。
『露払いはお任せを。主の道行きを快適なモノにするのもメイドの務めですので』とのこと。
最初は手伝わなくていいのかな? と気掛かりだったのだが、そんなものはすぐに杞憂だと一蹴された。
メイさんは魔物が俺たちの視界に入る前に何処からともなく取り出した銀食器を投擲し、その全てを急所に当てて一撃で屠っているのだ。あまりに鮮やかな手際に、思わず拍手が出たほどである。
これは俺が下手に手を出すと余計な時間を食ってしまうと気づくのに時間はかからなかった。
いやもう、本当に凄い。何がどうなっているのかさっぱりだ。どうやったら背後から忍び寄ってくる魔物をノールックで仕留められるんです?
俺と同じようにメイさんが魔物を倒しているところを見ていたローザネーラと顔を見合わせ、同時に天を仰いだ。
「……メイドって、すごいなぁ」
「……めいどって、すごいわねぇ」
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