VSブラウヴォルフ

 こちらに向かってくるブラウ君を見ながら、首切り君を構える。


 なんで戦うことになったのかは未だに良く分かってないけど……やるからには、全力でやってやろう。


 そうと決まれば、ブラウ君をしっかりと観察。


 ブラウ君の初手は、突撃からの刺突。威力重視のチャージ攻撃。

 

 踏み込みの力強さ、こちらに向かってくるスピード。どちらも俺を優に上回る。


 分かっちゃいたが、ステータスでは完全に負けてるなっ!



「オラァ! 死ねェ!!」


「やーなこった!」



 突き出された槍の穂先を半身になって避け、ついでに首切り君を絡ませる。


 ステータスが及ばないなら、兎に角真っ向からの突撃は避けるべき……てことで、ブラウ君の攻撃をするり、と受け流す。


 突進の勢いにこちらから力を加えてやれば……ほら、たたらを踏んだ。すぐには動けないだろ?


 隙を見せたなっ! 喰らえっ!



「【闇矢ダーク・アロー】!」



 掲げた掌から、三本の黒い矢が放たれ、ブラウ君を強襲する。


 スキルレベルが上がったことにより本数が増えた【闇矢ダーク・アロー】は、ブラウ君を囲うような軌道を描く。


 これで、少しでもダメージを……。



「ハッ、なんだこの貧弱な攻撃はッ!!」



 と思ったのだけれど、ブラウ君は槍を振り回して矢を弾いてしまう。


 むぅ、自分から戦いを仕掛けてきただけあって、このくらいは簡単に凌がれるか……。


 とりあえず、魔法の対処で足を止めた隙を突いて、距離を取る。


 ステータス的に、近接戦闘は分が悪そうだ。敏捷と筋力では大きく負けているだろう。


 見るからに軽装な防具からして、ブラウ君はまず間違いなく近接戦特化。相手の土俵でやすやすと戦ってやる道理は無し。


 なら、取るべき戦法は……。



「おら、どうした! こんなチンケな魔法で俺を倒せると……」


「《飛行》」



 まず、空を飛びます。



「あっ、オイこらテメェ!!」



 次に、地面にいるブラウ君を見下ろしながら、手を翳します。


 そして、覚えたばかりの魔法スキルを並列発動!


 翳した手に浮かび上がるのは、三種の魔弾。



「【火矢ファイア・アロー】! 【雷弾サンダー・バレット】! 【重力弾グラビティ・バレット】!」



 俺の魔法が地上のブラウ君へと降り注いだ。



「ひ、卑怯だぞテメェ!!」



 そう言いつつも、ブラウ君の動きは見事だった。


 炎の矢は薙いだ槍で散らされ、雷の銃弾を首を逸らして躱す。


 最後に放った【重力弾グラビティ・バレット】もバックステップで回避され、砂埃を上げるに終わった。



「くそっ、こっちにゃ遠距離攻撃がねぇってのに……! オイこら! 降りてこぉい!! その大鎌は飾りかぁ!!」



 切羽詰まった叫びが聞こえるが……はっはっは、知らんなぁ。


 戦いでは高所を取った方が大体勝つ。そして、勝負に置いて勝つための行為は全て正当化されるんだよ。


 なんか昔の偉い人もそう言ってた気がする。多分、きっと、メイビー。


 よし、クールタイムが終わった【闇矢ダーク・アロー】も追加だ。二発を正面から、一発は背中側に回り込むように放つ。


 だが、ブラウ君はこれをサイドステップで見事に避ける。


 ううむ、これはあまり良くないな。


 優れた機動力から生まれる回避能力は舌を巻くレベルだ。苦し紛れに放ってみた【闇球撃ダーク・ボール】も効果範囲を見切られて回避されている。


 俺の持つ遠距離攻撃の手段は今まで使った魔法と【ブーメラン・サイズ】のみだ。とてもじゃないが、適当に放ってブラウ君に当たるとは思えない。


 単発魔法の弾数が増えて、弾幕みたいにできれば数の暴力でどうにか出来るんだけど……残念ながらスキルレベルはクソ雑魚もいいところ。最初から使ってる闇魔法以外は聞いて驚け堂々の『1』だ。


 今もちょくちょく魔法を放ってるけど……うん、当たらない。全然命中してないわ。


 悲鳴やら怒号やら「クソがぁ!!」とかを響かせながらも、その動きに翳りはない。……叫ばない方が楽だと思うんだけど、アレかな? 癖とかなのかな?


 

「うーん、駄目かー。さて、どうするかなー?」


「何をごちゃごちゃ言ってやがるテメェ! 降りてきて正々堂々戦いやが「【闇矢だーく・あろー】~」どおわっ!? ひ、人がしゃべってる最中に魔法を撃つなぁ!!」


「あはは、がんばれがんばれ」


「クッソぉ……! いちいち癪に障るなァ……!!」


「ブラウ君、ブラウ君」


「アァ!!?」


「そんなに叫んで疲れないの?」


「誰のせいで叫んでると思ってやがるッ!! このクソがぁああああああああ!!!」



 わー、元気だなー。


 無視すればいいのに、律儀なのか何なのかしっかりと反応してくれるブラウ君。


 こういうのをなんて言うんだっけか。叩くと鳴る玩具、だっけ?


 そんなことを考えていると、ブラウ君がギロリ、とこちらを睨みつけてきた。


 

「なんかすげぇムカつくこと考えてやがるなこの野郎……! つーか、どんだけ魔法撃っても無駄だってことは分かってんだろ!! さっさと降りてきやがれ!! すぐに串刺しにしてやるからよぉ!!」



 槍を俺の方に突き付け、そう叫ぶ。


 ふむ。まぁ、そうだな。このまま魔法を撃ち続けても、いたずらにMPを消費するだけ。


 良い作戦だと思ったのだが……やっぱり、そう簡単にはいきませんか。


 

「分かった。すぐにそっちに行ってやるよ」



 地上にいるブラウ君を見据え、背中の翼に力を籠める。


 加速を念じながら、大きく空を叩き――――一気に急降下ッ!


 

「ハッ、真正面から来たところで……!」



 ブラウ君が槍を構えて滑空する俺を待ち構える。


 こんな単調な攻撃、複数の魔法にも余裕で対応するブラウ君には通用しないだろう。


 なので、小細工を一つ。


 

「【重力弾グラビティ・バレット】」


 

 手元に生み出すは重力場の銃弾。


 俺の持つ単発魔法の中で、最も威力と『ノックバック』の強いこの魔法を……放つっ!



「破れかぶれか? 当たるかよそんな魔法……!!」



 知ってるよ。分かってる。


 それは、当てるための魔法・・・・・・・・じゃない。


 俺が放った魔弾は、待ち構えるブラウ君……ではなく、その足元に着弾。



「何ッ!?」



 ブラウ君の驚いたような声。


 それと同時に。 


 ――――砂埃が盛大に舞った。



「テ、テメェ!? まさか――――」



 ブラウ君が俺の狙いに気付いたようだけど、ちょっと遅いな。


 もうもうと立ち込める砂埃で、視界は最悪。俺の姿なんて、見えてないだろう?


 小細工、成功。今の魔法は攻撃じゃなくて、ブラウ君の視界を塞ぐためのモノだったってワケだ。


 それによって生まれた大きな隙。それを無駄にはしない。


 《飛行》スキルを切って、地面に足を付ける。


 体勢を低くし、滑空の勢いはそのままに、砂埃の中へと突っ込んだ。


 そして――――。



「【ザッパー】!!」


「ぐぉう!!?」



 ――――ザシュッ!!


 深紅の大鎌を、一閃。ブラウ君の胴体を切り上げた。


 飛び散る真紅のエフェクト。ぶっ飛ぶブラウ君。


 どしゃぁあ!! と受け身も取れず背中から地面に落ちた彼へ、俺は首切り君を突き付ける。



「それじゃ、お望み通り――地上ココで第二ラウンドと行こうか?」


 

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