十一話:ミミズさん
朝ー!
起きると、もうすっかり昇った太陽が空の上で笑っていた。
ここのところ僕と太陽の早起き対決は太陽が連勝中!
さすが太陽だよね!僕もがんばらないと!
寝床から降りて、伸び~からの深呼吸。
早起きな太陽の光で温められたハルサキ草達の香りが胸いっぱいに入ってきて、
うん! いい気持ち!
すこし頭を下げて、ハナサキ草の近くでもう一度深呼吸。
丸くてすこし長い花びらは、夜は閉じているけれど、今は空に向かって目いっぱい開いている。
やっぱり、朝の香りの方が僕は好きだなー。
『おはよう、若葉』
あ、エルピおはよう!
『今日も、元気だね』
うん! 今日も元気!エルピは?
『うーん、ボクは、そこそこ、かな』
わー! あいまい!
『若葉も、そういう時、あるでしょ?』
? 僕はいつも元気だよ!
『……まあ、若葉は、そうだよね』
うん!
朝ごはんのかぼちゃコロッケを食べたあと、いつものように大きな石のうしろにまわって、今日の分の線を一つたす。
地面に描かれた線はたくさんすぎて、正直、もうなん日かわからないのはエルピにはないしょ。
『若葉が三回、消しちゃった分、も入れると……ひゃく、七十か、八十くらい? 大体、六ヶ月だよ、たぶん』
そうなんだ! エルピすごい! ……って、エルピにはないしょだよ!
『はいはい』
あぶないあぶない。
それにしても、百八十だって!
あっという間だね!
『そうだね。でも、特に何かしたりは、しないんでしょ?』
特に?
じゃあ、今日は泉で身体強化の練習をしよう!
今日もがんばるぞー! おー!
『おーって、それは
いつものように歩いて泉に向かう。
泉へとまっすぐつながっているこの道は、僕が毎日歩いているからか、赤べえや人だと通りにくいと思うけれど、僕ひとりなら簡単に通れるくらいの隙間が出来ている。
これって、けもの道っていうんだよね。
知っているよ!
背の高い草でできたトンネルをくぐっていると、草のこすれる音とはべつの音がする。
なにかの鳴き声かな?
声はだんだんと増えていって、なんだか騒がしくなってきた。
どうやら、声は上からしているみたい。
飛んでいるのかな?
じゃあ、たまに飛んでいる鳥さん達かも。
トンネルを抜けて、足を止めずに空を見上げると、たくさんのなにかの影が枝葉の間から見えた。
大きな鳥さんにしては、体がしっかりしているような……あ、あれってもしかして
『グリフォン、かな。赤べえが言っていたし』
やっぱり?
僕もそう思ったんだー。
ここからじゃ群れ全体を見ることは出来ないけれど、二十から二十五くらいいるのかな?
空を飛ぶグリフォン達は、その場でとまってはどこかに向かって鳴き声を上げて移動、またとまっては鳴き声を上げて移動を繰り返していた。
あ、風の魔法を撃っている。
じゃあ、威嚇していたのかな?
『襲われている、みたいだね』
なにに?
『魔力感知で、見えない?』
見てみる! ちょっとまってね!
日々の練習のおかげで、すっかり身についた魔力感知の範囲を広げる。
広い範囲をながーく見ていると、まだ頭がぐるんぐるんしてきちゃうけれど、いつでも出来るようにはなったんだー。
魔力感知で見えたグリフォン達が思っていたよりもたくさんの群れだったことに驚いて、その次にグリフォン達が威嚇している方向――森の外でグリフォン達に向かって大きな口を開いた生き物が見えてまた驚いた。
み、みみみ、ミミズさんが……立っているー!!
ミミズさんはとっても太くてとっても大きい。
森の外を目で見たことはないけれど、みんないつも地面から体を出して、大きな口をうぼ~って開けながらひなたぼっこしているのは、魔力感知で知っているんだ。
今日もひなたぼっこしているんだと思っていたけれど、まさか立っていたなんて!
すごくびっくり!
これは赤べえ達に教えないと!
『若葉、そろそろ前見ないと、また木にぶつかる、よ』
あ、うん!
魔力感知の範囲を元にもどして前を向く。
突然、太陽が厚い雲で遮られたように、辺りが暗くなった。
空からギャッって音。
見れば、空を隠すように大きななにかがいた。
それは僕が寝床にしている大きな樹と同じくらい大きい。
どこかへ移動しているように動いているけれど、すっごく長いのか尻尾がいつまでたっても見えない。
強い風が吹いて、周りの木や僕の毛を激しく揺らした。
これってもしかして、ミミズさんのお腹?
『そうだろう、ね』
お、おお、おおおお……
『わ、若葉?』
おっきいねー!
どうやって飛んでいるんだろう!
『うーん、大きな魔力の動き、は無いから、魔法で飛んでいる、訳じゃないみたい。少し遠くにあるご飯を、少しだけ首を伸ばして取った感じ、なんじゃないかな』
はへー!
すごいんだねー!
『そうだね』
あいてっ。
下あごになにかがぶつかって、思わずうしろに転がる。
見れば、普通の木が僕の前に立っていた。
上を向いたまま歩いていたから、木にぶつかちゃったみたい。
『大丈夫? 怪我はない?』
うん! 大丈夫だよエルピ!
ってあれ? 明るい……?
僕の上を通り過ぎたのか、ミミズさんがいなくなった空から、日の光が森の中を照らしていた。
尻尾までまだまだありそうだったのに不思議だね。
もしかして、尻尾までずっとあの太さなのかな?
『さあ?』
まあいっか!
泉にいこう!
気を取りなおして泉へと向かう。
一度だけ、遠くでどーんって音が聞こえた。
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