日記推進管理局って?

末吉 達也

第1話 これから始まる物語

 「今日から日記を書き初めてごらん?」と幼い私に伝えた母親はすでにこの世にはいなかった。

小さな事でも、毎日続けたらきっと良い事があると言われてきたが…今では抜け出せない沼にはまっている状態である。

誰か私を沼から出して欲しいけど…抜け出すには死を覚悟するか?又は、この地雷の上に足を乗せてもらい代わってもらうしかないのだぁ。


そういえば、あれは、いつの頃だったかなぁ…


日記を付ける事を習慣にしてから私の周囲には不幸な出来事が起り負のスパイラルが始まったんだったなぁ。



両親は幼い頃に離婚して小さな飲食店を母親が1人で切り盛りしていたが全てが順調であった。

駅前に開業し朝早くから営業していた事もあり、タクシーの運転手や建築現場に行く前のドカタの兄ちゃん達のたまり場となっていた。


「いらっしゃい。」

「腹減ったなぁ。女将さん、今日のおすすめは何かなぁ…鯵の一夜干しかぁ。美味そうだなぁ。」

「やっぱり、朝は和食すよねぇ?」

「だなぁ。おすすめ定食で良いかぁ?」

「うぃ~すぅ。あざぁ~すぅ。鯵好きすぅ。」

「たくぅ。言葉遣いぐらい直せって…。まぁ、良いかぁ。朝飯、おごるから、解ってるよなぁ。」

「うぃ~すぅ。頑張ります。」

「女将さん、おすすめのアジ定食2 つねぇ。」

「はい、アジ定食2つ。はい、喜んで。」

「えぇ!女将さんが厨房にも入るですか?」

「すごいすねぇ?」

「大丈夫よぉ。慣れているからねぇ。それに、作り置きしているし、温めるだけだから。」

「はい、出来ましたよぉ。」

「うめぇ~。最高!」

「本当だなぁ。最高だなぁ。鯵の一夜干し。」

「有難うございます。昨日、お客さんから分けてもらってねぇ。静岡の出張の帰りに鯵の一夜干しをお土産にもらってねぇ。」

「そりゃあ、女将さんは綺麗ですからねぇ。お土産を上げたくなるのが解るなぁ。」

「もぅ、お世辞がうまい事。」

「女将さん、ごちそうさま。」

「はい、有難うございました。」


「はぁ。疲れた。」

「助かるよぉ。朝早くから営業しているからうれしいよぉ。」

「そうですかぁ…有り難うございます。それにしても、久しぶりだねぇ?」

「そうなんですよぉ。昨日は、新潟、今日はこれから仙台ですよぉ。」

「大変だねぇ?無理をしないでねぇ。」

「有難うございます。女将さんが綺麗でペッぴんさんで、いつも元気をもらっていますよぉ。」

「やだぁ。もぅ、うれしい事を言ってくれて、うれしいわぁ。今日はメンチカツをサービスしますねぇ?」

「良いんですかぁ?いつも、悪いですねぇ?それにしても、ワンコイン500円で採算取れているんですか?赤字経営なんじゃないですか?」

「心配しなくても、大丈夫だよぉ。採算は取れているし、寧ろ、儲けさせてもらっていますよぉ。」

「タクシーの常連さんや建築現場に行くドカタの兄ちゃん達、昼間はサラリーマンなどに助けてもらっていますよぉ。それに、近くの農家の人や型落ちの野菜など廃棄する野菜をくれたり、商店街の人が余った肉や魚などを提供してくれて助かっているんですよぉ。」

「なるほどなぁ。みんなの協力がなければ出来ない事だなぁ。」

「ですよぉ。本当に有り難い事ですよぉ。」

「そう言えば、あきちゃんは元気なのかい?しばらく見てないけど…この時間だと幼稚園だなぁ。残念だなぁ。」

「実は、最近、幼稚園でイジメにあっているみたいでしばらく休ませているんですよぉ。」

「そっかぁ。でも、理由があるから逢えないよなぁ。久しぶりに元気な顔を拝みたいと思っていたけど…残念だなぁ。」

「ちょっと、待ってて下さい。あき?あきちゃん?」

「どうしたのぉ…。幼稚園には行きたくないよぉ。」

「そうじゃないわよぉ。テルさんが久しぶりに来たのよぉ。」

「えぇ!本当にトラックの運転手のテルさんがぁ?今、降りて来る!待ってて!!」

「テルさん!来てくれたんだぁ?わぁーい!」

「久しぶりだなぁ。しばらく、見ないうちに大きくなったなぁ。」

「そうかなぁ。エヘェ。うれしいなぁ。」

「そう言えば、聞いたぞぉ。幼稚園を休んでいるんだってなぁ?」

「そうなんだぁ。実はうちの店を馬鹿にされて…悔しくて。安い!まずい!くさいって…」

「なるほどなぁ。でもなぁ。安くてうまい。そして、おじちゃんたちのオアシスだけどなぁ。確かに、この店はホテルのような敷居が高くはないし見た目も良くない。でもなぁ…無くてはだめ何だよぉ。灯りが着いているだけでほっとするというかぁ…俺達の天国さぁ。」

「もぅ、テルさんたら?有難うございます。」

「そうなんだぁ。テルさんから言われるとうれしいなぁ。有難う。」

「よしゃ!あきが元気になるように久しぶりに肩車だぁ。」

「えぇ!本当に!うれしいなぁ。わぁーい!」

「すいませんねぇ…いつも。」

「お母さん、あきねぇ、明日から幼稚園に行く。」

「本当に?大丈夫なのぉ?」

「うん、大丈夫。」

「あぁ、そうそう。そう言えば、途中で横断歩道を渡れない婆ちゃんを見かけてなぁ。」

「テルさんの事だから一緒に渡ったんでしょ?違う?」

「参ったなぁ。女将さんには筒抜けだなぁ。こりゃ、一本取られたなぁ。」

「そうなんだよぉ。そしたらさぁ。こんな分厚い2冊の日記帳をもらってさぁ…実は困っていてなぁ。ちょっと待っていてなぁ。」


「待たせたねぇ。実はこれなんだけど…」

「あらぁ、素敵ねぇ?」

「だよなぁ。俺には合わないよなぁ。だから…良かったら女将さんもらってもらえないかなぁ。」

「えぇ?私に…。でも、私には日記帳を書く程の時間もないから遠慮しておきます。すごくうれしいけど…」

「だよなぁ。」

「良いなぁ。すごい素敵な日記帳だなぁ。お姫様が持っていそうだなぁ。あき、欲しいなぁ…。」

「あなたは無理よぉ…。それに文字はかけるのぉ?」

「まだ、書けないよぉ。」

「実はなぁ。この日記帳は口で喋っだ事が文字になるんだよぉ。」

「えぇ?本当に?あり得ないよぉ。この時代にはそんな技術はないわよぉ。」

「だよなぁ。最初は狐にでも騙されたと思って半信半疑で信用しなかったら、ばーちゃんが「今日は、天気が良かった。」と喋り始めると日記帳に文字が浮かび上がって喋った言葉が文字になったのさぁ。」

「あり得ないわよぉ。それにそんな日記帳があったら欲しい人も多いでしょ?」

「だよなぁ。だから、受け取ったみたけどしばらくしてから怖くなってなぁ。返そうと思ってなぁ…後を追ったけど見つからなくなってなぁ。それで持ってきたんだよぉ。」

「そうなんだ…。せっかくだから、見てみたいなぁ。」

「わかったよぉ。でもなぁ…流石に誰かに見られるのは良くないから一度、店を閉めてもらって良いかなぁ?」

「そうねぇ。信用はしてないけどちょっとの時間なら大丈夫だけど…」

「はい、のれんを中に入れたから大丈夫よぉ。」

「じゃ、準備はよいかなぁ?4月27日(木)天気晴れ、今日は、久しぶりに駅前にある食堂あきの小町に来ました。しょうが焼き定食を食べた、とても美味しいかった。メンチカツをサービスされて満足でした。」

「えぇ?嘘!日記帳に文字が浮かんできた。すごい!」

「なぁ、本当だろ?」

「本当だぁ!すごい、すごい!あき、この日記帳欲しいなぁ?」

「でも、毎日は書けないでしょ?」

「できるもん。やれるもん。」

「でもねぇ…。毎日書かないと寿命がなくなるという厄介なモノ何だよぉ。大丈夫かなぁ…。」

「やってみる?」

「あき、やる、やる!日記帳を書きたい!」

「なら、テルさん、もらっても良いかなぁ?」

「もちろんですよぉ。あき、良かったなぁ。」

「有難う。テルさん。」

「あき、良かったわねぇ?今日から日記を書き始めてごらん?」

「うん、わかった。あれぇ?さっき書いた文字が消えたけど…」

「それはなぁ。持ち主が変わったからだよぉ。いけねぇ、まだ、配達の途中だった。仙台に行かなきゃな。悪いなぁ、もう行くなぁ。じゃ、女将さん、あきちゃん。またなぁ。」


それから、数時間もしないうちにテルさんが乗ったトラックがガードレールにぶつかって亡くなったのだった。

これが最初の不幸の始まりとはその時は解らなかったのだが…

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