第五話 チュートリアル

相手の得物は槍。


剣やナイフの範囲を超え、広いリーチからの攻撃を得意とする。


対して俺のアドヴァンテージは多様性だ。


ナイフといった近接、銃等の遠距離も十分に戦える。




 見る限り、得意のナイフのリーチ内に入る前に槍の致命傷を貰う可能性が高いだろう。


故に、最初に取るべき選択は…




 「相手に近づかせない遠距離!」




 右手に持っていたナイフを手放し、拳銃へと戦略を変える。




 バンバンバン!


 すかさず槍男に向けて放つが…




 「甘ちゃんオタンコナス!」




 いずれも最小限の体捌きで避けられてしまう。




  ガシャン!




 避けられた先にあった光を放つ魔石にあたり、パラパラと砕け光源を失う。




 「おいおい。後で弁償してもらうからな~。とっ!」




 「生憎無一文なんでな!」




 不味い…もう詰めてきた。




 回避しろ!




 槍男の突きが鳩尾めがけて放たれる。


 ナイフ創造!


 完全に避けることは不可能、だから逸らして避ける!




カキンッ!




まだ来る!二突き目!


今度は頭部…




「頭部は凌がれるから~ここ!」




フェイント!?




 「ガッ!?」




 警戒した頭部へのガードも空しく軌道を変え、突きではなく、槍の腹で殴る動作へと変えられる。




 咄嗟に腕を割り込ませ、致命傷を避けることができたが...




ドガシャン!




 攻撃の重みに耐えきれず、壁まで突き飛ばされてしまう。




 「ハーハー...畜生、完全に戦闘慣れしてやがる。」




 いや…弱音を吐くな。今、俺は相手の攻めを避けようとしている。


 防戦一方では活路も開くに開けない。


 今はこいつを打ち倒すことが勝利条件だ。


 奴から石を奪うためには倒すしかないのだ。簡単に盗ませてくれるような相手ではない。




 集中…




 「まだまだこれからだよなー!」




 「もう少し待ってくれたら嬉しいんだけどなあ!」




 既に弾切れを起こしていた銃を捨て、新たに生み出す。




 バンバンバンバンバン!




 ガシャン!ガシャン!




 3




 やっぱり銃弾は躱されるか...


 対槍戦において、ひたすらあの広いリーチで戦われると不利な状態が続いてしまう。


 だからこそ、その範囲外で戦おうとしていたのだが、相手に飛び道具は有効ではない...


 槍の技術は相手の方が勝る。技術で俺が負けないのはナイフさばき...


 やるしかない!


 相手の範囲を抜け出し、ナイフの間合いに持っていく!




 来る!




 シュアキンッ!




 槍の軌道を下に逸らし、足で踏みつける。相手の連撃を防いだ!


 もう逃がさない!




 槍は一定の距離を保っていなければ、連撃は不可能!




 槍男の首筋に向けてナイフを走らせる。




 が




 「それも十秒前に予習済みだ。」




 カキンッ!


 何か固いものに当たった音がした。


 確かにナイフは首を切ったはずだった。


 しかし、刃物で切れるはずの槍男の首は恐るべき強度を誇っていた。


 歪に曲がった刃がその異常性の証拠となって表れていた。




 不味い!




 即座に槍を手放し、がら空きの俺の腹にめがけて、拳を繰り出してくる。




 「おーーらよ!!」




 ズシリ…




 重たい一撃が降りかかる。


 力の方向を軽減しないと…




 ドガシャーン!


 成すべくもなくそのまま固い壁に打ち付けられる。




 「ガッ…」




 頭からぶつからないでよかった…


 幸い意識は落ちてない。




 「グッ…おえ、ハーハー…クソッ…」




 やばい死ぬ


 体が上手く動かない。内臓が逆転したような気持ち悪さを覚え、世界が反転している。




ナイフの斬撃が通らなかったことはでかい。異世界の獣人は全員ハルクか何かなのか?


 俺の攻撃が一切通用しないことはあいつをもう倒すことは…




 「もう終わりだろ。観念聖徳ボーイズタイミングベルトしてさ。こっち側付けよ…ん?」




 槍男の腕に流れる血。


 俺は殴られ飛ばされる瞬間、咄嗟にナイフを奴の腕に突き刺していたのだ。




 「おー大したぶりキングなしょらるカミングスーンじゃねえか。あの状況で攻撃をくらわしているとはな。こいつは見えなかったぜ。」




 『魔力は体内を循環して身体能力を強化させる』




 カイネはそう言っていた。




 それなら、奴は元から首の筋肉が厚かったのではなく、魔力により一部集中強化をしていたというわけか?


 そうだ、これまでの会話を聞く限り、魔力を回すことは血液のように自動で回されているわけではない。


 常時使用できるわけではないのだ。それなら、俺の銃弾も避ける必要はなかった…








 さらに、もう一つ考察




 「予知」




 「あ?」




 「それがお前の能力だろ。おかしいと思ってたんだ。まず俺たちの脱出を見抜けるカラクリが謎だった。最初、相手の思考を読む能力を予想してたんだが、それなら出会った段階で殺されていた。根拠はもう一つ、俺のナイフをピンポイントで避けた。正直ショックだったぜ。完全に虚を突いたと思ってたからなー。」




 「正解正解コロンビア&ダークライ。その状態じゃなかったら最高にかっこよかったぜ~。だが、それが分かったところでどうする?全ての攻撃は俺の予知で躱される。近づいたところで重い一撃食らわしてやる。まあよくやった方だとシンキングまいっちんぐダンスだな~。」




 「だが、その予知も限りがあんだろ。」




 それを確かめる。初めての異世界バトルを敗北では飾らせない。




 「来いよ」




 「ハッハー。さいっこうだな!火を出す魔道具は開発されていても愛玩動物はいても壊れない玩具は初めてだぜ!」




 「変な造語付け忘れてんぞ!」




 痛みは消えていた。




 アドレナリンが仕事してる証拠だな。だが、もうしばらく残業しててくれ俺の体!




 銃を右手に




 バン!バン!バン!バン!バン!




 ガシャシャン!




 2




 「頭いかれたのか~?こんなのは当たらねえ!」




 知ってるよ。だからお前じゃねえ。




 そして、俺は初めて武器以外の物を創造する。




 「な!?これは布?視界をふさぐ気か!」




「次に刀の攻撃というわけか…」




 槍男は即座に布を巻き取り、俺の攻撃に備える。


 そう、俺が新たに創造するのは日本刀。




 ガキンッ!




 創造した刀と槍がぶつかり合い、鉄の衝撃が体に伝わる。傷という傷にその振動が伝播し体中が悲鳴を上げる。






 「まさかそんなものまで創造できるとはなあ、ビックラポンのシヲコンブーンってなー!」




 「この相棒は十秒しかもたねえけどなあ!」




 剣は槍に勝ることはFGOで予習済みだ!




 力技では押し切れない。


 それなら、鍔迫り合いは不利…攻めろ




 刀をひたすらに走らせる。体中から真っ赤な鮮血がが飛びさかる。




 頭、胸、胴、切り上げ、突き、袈裟切り…




 しかし、そのいずれも槍男の肌には届かない。


 合わせられた槍のいなしによって応じられてしまう。




 「よっと」




 遂に、刀を払われ、銀の刃が宙に打ち上げられてしまう。




 「終わりだ。」




 そのまま槍男は体を翻し、嘗て拳をめり込ませた所に蹴りを入れる。




 ことは予想済みだ。




 俺は後ろにのけぞらし、敢えて後ろに飛ばされながら、槍男に銃弾を浴びせる。




 そして、天井に向けても




 ガシャン!




 1




 「ハハ、飛ばされながらも殺そうとしてくるか……グッ…なんだと!?」




 槍男の肩にナイフが刺さる。




 布で槍男の視界を覆った時に天井に突き刺しておいたのだ。そして、天井に弾を当てることで刺さっていたナイフが落ちるというピタゴラスイッチだ。


 やっとダメージらしいダメージが入ったな。




 そして、考察が当たったらしい。




 槍男に有効となった攻撃はいずれにせよ奴の視界の範囲外であった。


 腕の裏側に向けた攻撃。奴の視界の外である頭上からの攻撃。


 奴の予知は見ることで予知するのだろう。


故に、奴が見る未来の姿も奴から見た未来しか予知することができないのだろう。


しかし、もう奴が見えない所から虚を突く攻撃は有効とならないだろうな。


 完全に警戒されてしまっているからな、そもそも俺の体にもガタが来ている。


 さっき、刀を手放してしまったのは握力に限界が近づいている証拠だ。




 それならどうするか。




奴の視界の全てを奪えばいい。




 「おい。もう終わらすぞ。」




 左手に握るは閃光弾。


 最後に使ったのはリオレウスを墜落させた時以来か…




 「な!?なにも見えない!これは魔石を!?グワッ目が、目が~!何が起きている!?」




 槍男は両目を覆い、うめき声を上げる。


 完全にムスカ大佐みたいだな。


 恐らくこれから起きるであろう未来に苦しんでいるのだろう。




 予知にもデメリットがついてくるもんなんだな。




 そして銃に残っていた一発を天井に括り付けられている光る魔石に当てる。




 0




 部屋に残る全ての光源が壊され、世界は暗くなる。




 なあ気付いていたか?


 俺が発砲するたびに魔石を破壊していたことに


 創造した刀が隠れやすそうな箱の近くにあるということに




狼は得物の隙を虎視眈々と闇の中で伺っているということに

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