第三話 フラグ

「お、終わったか?」




 看守室に行ってたカイネが戻ってきたようだ。


 それにしても、やたらと遅かったな...




 「おう、眠らせたし一見しただけじゃバレねえだろ。それと、これ着とけ。」




 小柄な看守が着ていた服を手渡す。


 見た感じカイネと看守の背丈は同じくらいだったし、問題はないだろう。


 脱出をするわけだから、目立たない格好をしなくてはいけない。


 こんな古代ギリシャみたいな恰好じゃ目立ちすぎる。




 「お前の能力で作ることは出来なかったのか?触れたことのある物なら作れるとか言ってたよな?」




「俺もそのことは考えたのだが...お前がいなくなってる間に作った銃が消えたんだ。」




 俺の能力も万能ではないらしい。


 量や質は調べてないから不明だが、銃を作ってから消えるまで約十分。


 数を重ねたら、さらに短くなるかもしれない。


 やれやれ、シンデレラでも三時間くらいは魔法が解かれなかったというのに...


 魔法というには不便なものだ。




 「逃亡中に全裸になったらどうしようもないだろう。まあ公然わいせつ罪で捕まった方が奴隷よりはいいかもしれないけどな~」




 まあ、この世界に刑法と呼ばれるような法律があるのかは知らんが。




 「てなわけで、早く着替えてこい。」




 「え?ああ、そうだな...そうだよな。ばれないようにしなくてはいけないからな...どうやら変な誤解をしていたようだ...」




顔を真っ赤に、尻尾をブンブン振り回している。




かわええ。




 「誤解?どんな誤解をしていたんだ?後学の為に教えてもらえるとありがたいのだが~?」




 勿論、どんな誤解をしていたかは察している。


 しかし、しかしだ。可愛い女の子をからかってしまうのは男子の義務というだろう。


 俺は健全な青少年としてその義務を遂行せねばならない。


 断じて、私情ではない。至上な目的ではあるが。




 「え、えと...その...男と男が結びつくというか...それがお前の趣味というか...性癖というか...えと...gonyogonyo」




 おお...人ってホントに赤くなるもんなんだな。


そもそも、そのネタでトマトになれるって、どんだけうぶなんだ。


 獣人の寿命が人間に比べて、長いのか短いのかは知らんが、見るからに十七...高校生くら いに見える。


 俺の三つ下というわけだ...


 こんな純情なJKって絶滅危惧種だぞ?


 これは煽りがいがある。




 「結びつくってなんスカ?そこ詳しく教えてもらわないと分からないっすけど。もしかして、自分から分からない言葉使っておきながら教えてくれないってことないっすよね?それって相手に失礼ってやつですよne」




 シュン...


風が切れる音がした...


メリ...


 壁が凹む音がした。


 パラパラ...


 後ろの壁が崩れる音がした。




「おい。いい加減にしろ。」




 Oh...なかなか個性的な壁ドンだ。


 すぐ真横の壁が陥没している。てかそのパンチ、顔面に当てようとしてたよね?


 俺が避けてなかったら殺してたよね?




 「全く時間がないというのに...それと、お前もこれに着替えておけ。引継ぎ前の看守の服だろう。看守室にあったものだが、文句は言うまい?」




 「はは...そうっすね...」


 もうカイネを怒らせるのは止めよう...






「それで、ここを脱出するにもどうするんだ?なんか策はあるんだろ?」




 着替えから帰ってきたカイネに尋ねる。




「ああ。そもそも看守に変装したところで、ばれてしまうのは時間の問題だ。ここが見つかれば、即刻、捜査網を貼られ、炙りだされてしまう。」




「えっと、アルテーだったけか?主要国家とか言ってたよな。」




「アルテーは人間側にとっての中心部と言ってもいい。だから、アルテーの周りの国は全て人間の支配下にある。アルテーを奇跡的に逃れたとしても周辺国家で見つかってしまうだろう。今や獣人というだけで処刑対象になってしまうからな...」




 やはりか...人類と他種族の関係は悪いらしい。カイネは人に耳や尻尾とかの獣人たらしめるものを見られただけでアウトなわけだ。少しでも変装を疑われてしまったらおしまいだな。


あれ?つんでね?




「おい、おい。ここから抜け出したとしてもすぐ捕まっちまうなんて、獣人たちの安全地帯ってこの辺にはねえのか?」




「ない。だが、瞬時に行ける方法ならある。ワープ石というのがあってだな。」




ワープ石!


なんだ、やっと異世界らしくなってきたじゃないか。


案外簡単にいきそうでよかったぜ。




 「それで、その石は何処にあるんだ?早く使っておさらばしようぜ。」




 「それが~今は持ってないんだ。城に侵入して、捕まった時に隠しておいてな...」




 ふ、ふ~ん。まあ城の最下層みたいな所だろ。


 人間の中心となる城にそこまで簡単に侵入できるわけじゃないからな。




 「で、どこに落としたとかはもう分かってるんだろ?早く取りに行こうぜ。誰かに見つかるといけないからな。」




 「城の最奥部だ...」




 「へ?」




 「城の最上階に位置し、一般兵はおろか、上級貴族の一部でしか入ることが許されていない警戒区域だ...」




ちょ、ちょ待てよ。




 「お前!なんてとこに侵入してやがる!普通、最下層のスライムとかがうろついている所で捕まっとけよ!なんで頑張っちゃうんだよ!」




 「仕方ないだろ!ワープ先がそこだったんだから!」




 「そもそも、なんで隠しちゃうんだよ!腹の中にでも、ケツの中にでも隠せたろ!侵入不可能な場所に置いてくんな!」




 「ケツはないだろう!ケツは!仮にも女なのだぞ!もっと上品な言葉を使え!オブラートを使えオブラートを!」




 「残念だったなー。真に男女平等を唄う俺からすれば気遣いなんてないに等しい。寿司に付いている葉っぱみたいななもんだ!とうの昔にどっかの川に捨ててきたわ!」








             ~五分後~






 「おい。五分間俺たちは何をやってたんだ...お前少しは緊張感を持て...」




 「そのままそっくり返してやる。」




 そっくりそのまま返された。




 「はあ。もういいや。ところで、正攻法で行かずにワープ石での方法を選ぶということはそっちの方が勝算はあるんだろ?」




 カイネは大きく頷く。




 「そうだな。ワープ石による転移と言っても、複雑な詠唱や儀式は不要なんだ。私が石に触れるだけで、お前もろともワープできる。そして、一番は早く帰りたい。故郷に残した家族が心配だ。それが私の考える理由だ。」




妥当だな。俺が反対する理由はない。


しかし、カイネはこんな状況でも家族を心配しているのか。


種族は違えど想うことは同じらしい。


家族か...


 思い出せるようで思い出せない。


 異世界に来てから記憶というのがどうも定まらない。


 転移した影響か、それとも一度死亡したからか。


時間が過ぎるほどに大切だった何かが無くなっている。


 否、塗り替えられているそんな気がするのだ。




「おい。何を呆けている。時間がないと言ったはずだぞ。」




 ...そうだな...


今は考え込むときじゃない...


ん?ふと、この地下を照らす明かりが目についた。




あれは石か?




「なあ。この部屋の明かりに使われてる物...あれはなんだ? ただ石が光っているように見えるのだが。」




 「何って魔力で光らしているだけだろう。ああ。説明が必要だったな。この世界で使われている大抵の物は魔力を原動力としている。魔力というのはあらゆる所に存在している。もちろん、私たちの体にもだ。」




 「じゃあ、あの光る石は魔力を光エネルギーに変換している訳か?」




 「その通り。魔力単体では身体能力や肉体強度、又は能力の使用にしか使えない。そこで、生み出されたのが、魔力を他エネルギーに変換するための媒体品だ。他にも火や水、風を出す物等、様々だな。」




 この世界では魔力という万能のエネルギーがあるため、科学が発展しなかったというわけか。


 漫画でよく見られる基本魔術はないが、個人に一つだけ与えられる能力。


 魔力を利用することであらゆるエネルギーに変える製品の発明。


 人間以外の種族の存在。


この三つが異世界の特徴というわけだな。




 「なんにせよ。紋章により身体強化も失われている訳だ。まともにやりあっても勝てる訳がないからな。なるべく戦闘を避けていく必要がある。誰にも見つからないその気概で行くぞ。」




 カイネはそう警告する。


 しかし、簡単に見つかることはないだろう。


能力は失われてもカイネは耳がいい、敵の存在にはすぐに気づくはずだ。




 「いいか。誰にも見つかってはいけないからな。絶対だぞ。絶対だからな。」


おい。三回も言うな。これって完全にフラグたtte...






「なあ。お前らに聞きたいことがあるのだが。」




 突如、この空間に入ってきた敵。




 「「あ」」




間抜けな声を出してしまう二人。




 後でフラグについてカイネに教えてやらねばな...

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