転生したけどこの旅にはチートも無双もハーレムもないだろう

@ASINU

第一話 ハローワールド

親愛なる高橋へ


お元気ですか、私は元気にやっていきたいつもりです。


突然ですが、お知らせしたいことがあります。






 現在、私は異世界におります。  




 驚くのも無理はありません。私が鬱になっていた時、あなたは言ってくれましたね。


 「異世界に行くために死ぬって意外とありじゃね」と。鬱病な人にいうセリフとして、正気を疑いますが、ひとまず置いておきます。


 まさか、本当にトラックに引かれて亡くなるとは思ってもみませんでした。


 人生何が起こるか分からないものですね。見事な伏線回収です。


 その上で現状を聞いてください。






現在、私は牢屋におります。  全裸で








 前置きはなく、ただ自然と、まるで元からそこにいたかのように、俺は異世界に転移していた。




 転移前の記憶はあやふやだ。自分の状態を確認するための知覚が遅れる。


 何故、ここが異世界だというのが分かっているのかは謎だが、俺の直感がそう告げている。


 ん? 誰か人がいるようだ。






 「あの~すいません~ここってどこか教えてもらってよろしいでしょうか~。ちょっと頭ぶつけて記憶がなくて~」




 ふむ。これくらい及び腰に言えば、問題ないだろう。初見の人には下から行く。それが俺の流儀!




 「ん?なんかよんだK...ど、どこから入った変質者―――!?」




 おっと言語がしっかり通じたのは朗報だ。


 ん?失礼な奴だな?こいつ、確かにいきなり声をかけては驚くのも無理はないのだが、そこまで言われたら傷つくぞ。




 他に変なことと言ったら、全裸なだけで...全裸?






 「いや、冷静に考えればこんなところにいる変質者は奴隷しかあるまい。侵入を許したとしたら最悪の場合殺されてしまうし...うん...牢屋にぶち込んでおくか」




 なんか不穏なこと言ってる。




 「いや、ちょっと待ってくださいよ。我、人間っすよ。ひとまず、人権っていうものを持っているというか~。正直、監禁しておいて、国家権力が許さないというか~。というか、牢屋はいいのでひとまず服着させてほしいというか~。いいんすか?ここで、俺を襲って?後々後悔しますよ?多分...だからこっち寄るんじゃねーーーーー!」




 「じんけん?  こっかけんりょく?何を言っているかは分らんが、とっとと捕まれ変質者! 私はまだ死ぬわけにはいかん!」




 「一回のミスで死ぬって、どんな職場だよ!労働基準法学んでから、就職考えとけ! つーか、俊足のコルバルトと呼ばれた俺を捕まえられると思tt...ぶほ!?」




 瞬時、突如俺を襲った正体不明の攻撃、なるほどこれが異世界か。一筋縄ではいかないようだ。




 「こいつ、壁にぶつかって自滅しやがった...」




 意識を失う瞬間、同情の目で見られた気がするが、気のせいだろう。








 どうやら捕らえられてしまったようだ。


 冷たい床が意識を覚醒させてくれる。




 「あーー痛って...野郎、次あったとき覚えてろよ...ん?」




 ふと、同居人の存在に気付く。みすぼらしい格好をしている。そういえば、あの男は俺のことを{奴隷}と勘違いしていた。ここは、奴隷達の牢屋か?




 布一枚に体をくるみ、頭に犬のような耳をはやし、尻尾が...




 尻尾だ。


 俗に獣人と呼ばれる存在がそこにいた。


 牢屋にぶち込まれてテンション大暴落であったが、さすがは、異世界期待は裏切らない。


 先ずはコミュニケーションとして、モフ...じゃなかった対話をしないと...




 「えと...名前聞いていいかな?」




 言語の違いという問題があるかもしれないが、さっきの男は俺と同じ言語を発していた。だから大丈夫のはずだ。




 「...」




 これは種族によって扱える言語が違うパターンだったか、だが、何かを伝えようとしてしていることは伝わるはずだ。交友を深められれば、モフれるかもしれない。レッツ異種間コミュニケーション。




 「あの~あなたのこと聞いていいですかね~。後、この世界のこともよくわからなくて、いきなりこんな所に飛ばされて~できれば教えてもらえるとありがたいのですが~。というかその耳、本物ですか?見入るの初めてで付け根とかめちゃくちゃ気になってるんすけど、もしかして、つけ耳とか?それはそれで何の問題もないんですけど、もし動くというなら僕的にポイント高めなんですけどね~はい  おっと話がそれてしまいましたね。この世界って魔法とか魔術とか存在するのでしょうか?  僕の前回いた世界にはそれらがなかった気がするのですが...ちょっとあやふやで~教えてほしいかな~って、炎扱ったり、泥沼作ったり、波動弾打ったり、憧れてるっていruka.....グホッ!?」




 なんか拳が飛んできた。悪くない...




 「あっ...すまない つい殺してしまおうかと...」




 「物騒だな!? まあ別にいいよ。てか普通に喋れるんだな。じゃあさっきまでシカトこいてたのって...?」




 「いや、全裸の変質者に話しかけられても答えたくないなって...」




 「悪かったなー!?変質者で!? でもしょうがねえだろ。服なかったんだから!」




 「しかも逃げようとした挙句、壁にぶつかって自滅って...(笑)」




 「あーあーあーあー聞こえない。聞こえない。てか笑うな!」




 あれは敵の魔法なんだ。異世界なんだから、魔法があってしかるだろう。うん。そうに違いない。




 「ところでだ、質問いいか?俺も分からないことだらけなんだ。ここはどこなのか?お前は誰か?なんでこんな辺鄙な所にいるのか。」








 『主要国家アルテー』


 俺たちがいる国がそこらしい。もっと現在地について細かく言うと、国王の居住地、又は行政の中心であるアルタ城の地下だ。




 奴隷売買自体が国の推進商業であるため、国の中心であるアルタ城で売買が行われているらしい。そして、その奴隷達を捕らえているのが、この今いる地下牢屋というわけだ。この世界を知る重要なポイントだな。全く悪趣味な連中もいたものだ。




 「買い手が見つかった奴隷の末路は悲惨なものだ。まあ、基本的に奴隷自体を守るものは無いからな。だから、私も脱走を試んではいるのだが...」


ふと獣人の肌にタトゥーのような赤い痕が目に映る。




 「封じの紋章だ。これがある限り本来の力はほぼ制限される。魔力は勿論、身体能力まで使い物にならん。」




 ほんとだ。俺にも赤い痕が付けられている...ふーん...かっけえやん...




 「なにを間抜け面している。チッ、あんな間抜けなやられ方をしてたから紋章をつけられていないものだと、期待していたのだが...」




 残念そうにこっちを見る。




 「悪かったなぁ 間抜けなやられ方してて、んで..因みに聞くが魔術でいいのか?それってどうやったらできるんだ?」




 「なんでそんな簡単なことを聞くんだ?お前にも持っているはずだぞ?」




 「いやあ、さっき頭打って記憶がとんじまってな。一から全部説明してくれたら助かるのだが」




 「うん?..まあいいか...では頭の中で問い正してみろ。自分の能力について、そしたら答えてくれるはずだ。」




 「なんか適当だなあ。ひょっとして雑な性格?」




 「やっぱ、腕の一本くらい折っておいた方が良かったか?」




 「嘘です。冗談です。すいません。」




 捕まった奴隷とはいっても大人しい性格なわけではないらしい。腕がおられては骨折り損というやつだ。こいつはもう怒らせないようにしよう。




 「全く...そもそも自分の能力が分かったとしても、ここでは使えないぞ。私だって、力さへ戻ればこんな場所すでに...」




 「どうやら、そう悲観することばかりではないようだぜ。」




 そう言った俺の右手には黒い銃が握られていた。初めて行使したせいだろうか、右手が少し痛い。自分の力なのにそうでないようにも感じた。




 「お前、なぜ力を!?紋章の効果が発揮されてないのか!?」




 「いや、体は捕まる前よりもだるいし、発揮されてんだろ。だが、活路は見えたな。


脱走するんだろ?」




 そう言うと俺は獣人に手を伸ばす。




 「なんだそれは?」




 キョトンとした顔をされた。




 「何って握手だろ。同じ目的をもって行動するんだ。当然だろ。それともずっとここにいたいのか?」




 「そういうことか...すまない今まで機会が無くてな、人と握手することなんてな。」




 人と握手する機会がない...か...そういえば、この世界では人類とその他の種族との関係はどうなっているのだろうか。咄嗟に手を出してしまったが、もしかしたらこの子が真に罪を犯しここで捕まっているのなら...


いや...今は考えるべきではないな。






 「カイネだ。よろしく頼む。」




 手と手が交わる。


 一人この世界に落とされた俺に初めてできた仲間。


 さらさらと流れる銀髪、引き締まる。初めて少女の..いや...カイネの顔を見た気がした。。初めて少女の..いや...カイネの顔を見た気がした。そうか、多分俺は不安だったのだ。


 見知らぬ地に落とされ、捕まって、そして一番は一人でいることが。


 握手を通して何かがこみ上げてくる。ただそれはとても暖かいものだった。




 「おい...そろそろ離してくれ...」




 いかんいかん、感傷に浸っている場合ではなかったな。




 「それでは、これからどうする?まず看守の見回り時間の特定が先だよな?」




 「まあ、それもそうなのだが...」




 カイネが困惑した様子でいる。言いたいけど言っていいのか悩んでいるような。




 「どうした?何かついているのか?」




 「付いているというか。ついてないから...服が...」




 「あ」










 灯台下暗しとはこのことだな(≧▽≦)!




 こうして俺の異世界生活は始まったのであった。

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