Vanquish!

けにい

序幕~あるいは、ひとつの決闘の顛末

 歓声。

 びりびりと震える空気の中に、熱い情動と冷たい殺気が混ざり合う。

 王立スタンディア学院。国内でも最高峰と名高い霊符決闘士ヴァンキッシャー養成機関として名高い学院である。

 その学院内に建てられた戦闘訓練のための決闘場――その場の空気はいま、対峙する2人の霊符決闘士ヴァンキッシャーと、それを囲む観衆たちによって激しく熱を帯びていた。

「わたくしの手番ですわ! ドロー!」

 決闘場に立つ選手の一人、クラウディア・リフダーは山札からカードを引き、手札へと加えた。

 そして、顔を上げながら戦場へと視線を移す。

「……さあ、どう出る。クラウディア!」

 クラウディアの向けた視線の先。召喚獣たちが並ぶフィールドを挟んだ向こう側で、彼女の対戦相手である霊符決闘士ヴァンキッシャー、ノア・バーシュダンが不敵に笑った。

 ノア・バーシュダンは平民の娘である。

 であるにもかかわらず、本来であれば貴族や騎士の家系の、その中でも身に宿した魔力の強い選ばれた者のみが門をくぐることを許されるこの王立スタンディア学園に、特例的な措置として入学を許可された特待生なのだ。

 いまここで繰り広げられている決闘の原因は、その特例的な入学という措置に憤ったクラウディアが彼女に敵対的な想いを抱いたことであった。

「平民如きがよくもまあそこまで思い上がれたものですわね……。いいでしょう。その身の程を思い知らせて差し上げますわ!」

 柳眉を逆立て、クラウディアは不快感も露わに唸る。

 ――なんて不愉快な女!

 クラウディアは憤る。いま目の前にいるこの蒙昧な平民女は、本来なら名門であるこの学院に近づくことさえ許されない下賤の者だ。それが、霊符戦ヴァンキッシュの腕に覚えがあるというだけで入学を許され、あまつさえ成績優秀で友人にも恵まれ教師たちにも可愛がられているなど――!

「このわたくしが……許しませんッ!」

 そのような、"まるで物語の主役のような立場"!

 そこに立つべきは、わたくし! 才と美と気品を兼ね備え高貴な家柄に生まれついたこのわたくしこそが、物語の主役に相応しい!

 クラウディアはその胸中に暗い炎にも似た情動を燃やしながら、引いたカードを繰る。

「リソースフェイズ! わたくしは手札から銀属性のカードをリソースエリアに加えますわよ。続けてメイン!」

 そして、クラウディアは盤面にカードを配した。


 ――『Vanquish/霊符決闘ヴァンキッシュ』。

 この世界において300年の歴史を持つ決闘様式である。

 魔獣や英雄、魔法マジック。あるいは大地の持つ気脈。強力な霊素マナを込められた魔法道具マジックアイテム――そうした様々な事象の情報を読み込み生成された霊符カードを自らのものとし、それらを合わせた50枚以上の山札デッキを作り上げた上でルールに則って対戦する――駒とカードという差はあれど、いわば戦術盤チェスに似た盤上遊戯だ。これを行う者たちのことを、霊符決闘士ヴァンキッシャーと呼ぶ。

 この世界における『Vanquish』は、単なる遊戯ではない。

 この戦いは、文字通りの決闘なのだ。現在のこのダマヤフ大陸においては、かつて繰り返された血で血を洗う凄惨な争いが繰り返された歴史を顧み、この『Vanquish』での戦いによる代理戦争を紛争の解決手段として用いている。

 そのため、強い才能を持つ霊符決闘士ヴァンキッシャーは多くの場合王国騎士として登用される。その中でも実質的な戦争と言える国家戦に出場する資格をもつ上位騎士へと上り詰めた霊符決闘士ヴァンキッシャーには、王国における高い地位と名誉が約束されるのだ。


 クラウディア・リフダーは王都にほど近い領地を任されるリフダー男爵の愛娘であり、歌劇や叙事詩に記された英雄譚を夢見た少女である。

 父であるクローダス・リフダー男爵もまた国王より直々に叙勲を受けた上位騎士であり、国内でも指折りの霊符決闘士ヴァンキッシャーの一人だ。

 そうして育った彼女が父と同じ上位騎士への叙勲を夢見て、国内でも最高峰の養成機関であると謳われる王立スタンディア学院への入学を志したのも当然のことであった。

 しかし、学院への入学を果たした彼女の前に起きたのは信じがたい出来事だったのだ。

 ――ノア・バーシュダン。……ノア・バーシュダン! あのにっくき平民娘!

 それこそが、クラウディア・リフダーとノア・バーシュダンの邂逅であった。

 ノアは入学前に行われた適性検査で王国始まって以来の魔力計測値を叩き出し、それまで誰も見たことがなかった強力なカードを繰り、そして入学初日にいけ好かない上級生を霊符決闘ヴァンキッシュで叩きのめしたのである。それも、クラウディアの目の前で。

 鮮やかであった。強かであった。勇猛であった。聡明であった。そして何より、華麗であった。

 まさに叙事詩に語られる英雄のように現れた――平民の女!

 彼女の目の前で繰り広げられたのは、かつての彼女が夢中で読み進めた英雄譚の始まりそのものだ。この世界そのものが彼女のために誂えられた物語の舞台なのではないか、とさえクラウディアは思った。

 それが許せなかった。

 憤っていた。妬んでいた。嘆いていた。

 ――どうして、こんな平民風情が! ……わたくしではなく!!

 その感情が爆発するまでにさほど時間は必要ではなかった。

 かくして、彼女たちの学園生活が幕を開けてからおよそ一か月後――クラウディアは、ノアへと霊符決闘ヴァンキッシュを申し込んだのである。

 ノアはその申し込みを快諾し、そうして2人の決闘が開催されるはこびとなったのだ。

 かくして物語は冒頭へと繋がり――戦場へと、戻る。


「メインフェイズ! わたくしは銀を含む8コストを支払い、手札からユニットを召喚いたしますわ!」

 クラウディアは、リソースエリアのカード8枚を[行動済タップ]状態にすることでリソースを生み出し、そして得た8点を支払うことで手札からユニットカードを投げ放った。

 放たれたカードは決闘場の床面へと突き立つ。そしてじゅうぶんなリソースを注がれた霊符は、秘められた力を解放するのである!

「起ちなさい! 美しき我が戦乙女……祝福セイクリッド騎士姫プリンセスナイト・アルテミア!」


祝福セイクリッド騎士姫プリンセスナイト・アルテミア』

 ユニット/属性:銀/コスト:8/パワー:9000/《剣姫》《英雄》

【条件発動】相手のユニットかマジックの効果によって自分の《英雄》ユニットが破壊されるとき、自分は手札を1枚破棄することでその破壊を無効化して[未行動アンタップ]で場に残す。更に、破棄したカードが《英雄》なら、自分は相手の場のユニットを1体選び、破壊する。

【条件発動】このユニットがブロックしたバトル中、このユニットのパワー+4000。

【常時発動】このユニットは、相手バトルフェイズ中、[行動済タップ]でもコスト5以下の相手ユニットのアタックをブロックできる。


 マナ・リソースの燐光を払いながら、クラウディアの切り札が戦場に立つ。

 白銀に煌めく鎧に身を包み、その手に輝く盾と長槍を携えた麗しの戦乙女である! マナ・リソースによって構成された幻像イメージが、美しく光った。

「おーっほほほ! さあ、ご覧あそばせ! これぞわたくしの切り札、アルテミアですわ!」

『おお……ッ!』

『す、すっげえ! あんな強いユニット、はじめて見たぜ!』

『さすがクラウディア様ですわ!』

『なんてお美しい……』

 あがる歓声! ある者はそのカードパワーに熱狂し、ある者はその神々しいまでの美しさに息を呑む。

 霊符決闘ヴァンキッシュにおいて、強力なカードを扱うにはプレイヤー自身に相応の能力が要求される。いかに強力なカードを手にしたところで、プレイヤーがそのカードへと必要なだけのエネルギーを注ぎ込むことができなければ、そこに描かれた英雄は戦場に現れることができないのだ。クラウディアの繰り出したアルテミアはコスト8という膨大なリソースを要求し、しかも強力な3つの能力を備えたまさに伝説級のユニットだ。これを使役するには相応の魔力量が要求される。

 このカードを場に出し幻像化イマジナイズさせたということは、クラウディアがそれだけの資質を持っているという証拠である。これほど強力なユニットを展開できるのは、現役の王国騎士でもそう多くはないだろう。ここに立つアルテミアの姿だけで、観衆はクラウディアの実力を理解せざるをえなかった。

「アルテミア……たしか、『月光戦記』の主役だったよね」

 その中にあって、対峙するノアはただ冷静であった。

「まあ。ご存じでしたの?」

「たしか、500人の敵に囲まれた城をわずか10騎の手勢とともに朝まで守り通した……って逸話が有名だったよね。学院の図書館で読んだよ」

 霊符決闘ヴァンキッシュに用いられるカードに描かれたものの多くは、この世界に存在する、あるいはかつて存在したものの模倣コピーだ。その中でも、物語や叙事詩に語られる英雄譚の登場人物は特に人気が高く、多くの霊符決闘士ヴァンキッシャーが使いたがる。

 いまこの戦場にクラウディアが展開したアルテミアも、そうした物語をベースとしてクラウディアが創り上げた切り札であった。

「その通り。……そして、このユニットのもつ能力はまさにその再現! これこそ盤上にてわたくしが紡ぐ伝説ですわ!」

「伝説……いいね、そういうの。カッコいいなあ」

「ふん。おだてたところで何も出ませんわ。……わたくしはここでターンエンド!」

 ここでクラウディアは手番ターンを終える。

 アルテミアがもつのは、相手による破壊能力の無効化と、相手の攻撃を防ぐ際にパワーが上昇パンプする能力である。特に後者の能力で強化したアルテミアのパワーは13000にも達する。それはまさに無敵の城砦であると言えるだろう。すなわち、その仕事はアタッカーではないのだ。

 クラウディアの戦術は、アルテミアによって敵の攻勢を止めて稼いだ時間で更なる《英雄》ユニットを展開し、勝利ゲームエンドへと持ち込むスタイルであった。

「じゃあ、私のターンだね! 行こう、みんな!」

『がうっ!』

『ぐるるる!』

 ターンエンドの宣言によって、手番ターンはノアへと移る。にぃ、と口の端を吊り上げて笑うノアに、盤上の竜たちが声を返した。

「リブート! それからドロー!」

 暗い感情に身を焦がすクラウディアとは対照的に、ノアは屈託ない笑顔でカードをさばく。

 リブートフェイズ。前のターンで[行動済タップ]になったカードを[未行動アンタップ]状態へと戻し、続くドローフェイズで山札からカードを引く。それから、カードを使用するために必要となるリソースを置くリソースエリアへとカードを加えることのできるリソースフェイズを経て、盤面の配置を進めるメインフェイズへとターンは流れてゆく。

 癖毛混じりの赤毛を揺らし、ノアはその手札より1枚のカードを引き抜いた。

「メインフェイズ! 私は赤を含む5コストを支払って、手札からマジック『星降りの日』を使うよ!」


『星降りの日』

 マジック/属性:赤/コスト:5

『自分は山札からコスト8以下の《煌竜》のユニットカードを1枚まで探し、相手に見せてから手札に加え、その後、山札をシャッフルする』

『【追加コスト:自分の場のコスト5以上の《煌竜》1体をトラッシュに置く】このカードの効果発揮後、追加コストを払うことで、このカードの効果で手札に加えたユニットをコストを支払わず召喚する』


 掲げられたカードは決闘場の天蓋に夜の空を映し出す! 星満ちる空の幻像イメージの中で、流れ落ちた光がノアの手の中へと滑り込んだ!

「……出ましたわね、そちらの必殺カード! ですがわたくしはあなたの手は既に読み切っていますのよ!」

 だが、その手は読んでいたとばかりにクラウディアは笑う。

「わたくしは既にあなたの戦いを研究していましてよ、ノア・バーシュダン! あなたはそのマジックによって手札にエースユニットを加えて攻勢に出るのでしょう。そして、あなたの切り札は『太陽竜プロミネンス』! アタック時にパワー8000以下のユニットを2体破壊することで[未行動アンタップ]になる能力をもつコスト7・パワー10000の《煌竜》ですわ!」

「……わお、よく調べてくれてる!」

 そう――クラウディアはこの戦いに備え、ノアの手の内を調べ上げていたのだ。

 ノアの扱うデッキの傾向はアタック時能力や相手のユニットの破壊を得意とする赤が強く、彼女の故郷で語られる神話の存在であるという《煌竜》をメインとしたデッキを用いる。

 その中でも、ノアの切り札といえるカードのひとつが『太陽竜プロミネンス』だ。入学式の一件以来、ノアはこのカードで既にいくつもの戦いを制していた。

「ですが、その破壊能力はこのわたくしのアルテミアの前では無力ですわ! そしてブロック時に13000までパワーが上昇するアルテミアならば、あなたのプロミネンスを返り討ちにできますのよ!」

『そうか! [行動済タップ]でもブロックができる能力があるのに敢えてアタックしなかったのは切り札を警戒していたんだ!』

『なるほどですわね……。たしかにクラウディア様のアルテミアがコスト7のプロミネンスを迎え撃つためには、アルテミアが[未行動アンタップ]でなくてはいけませんわ』

『それだけじゃないぞ。アルテミアの能力なら、プロミネンスの破壊能力を無効化できる……。破壊を無効化されたら、プロミネンスは[未行動アンタップ]になれないんだ!』

『まさに完封ってワケか……えぐいテを使うぜ、あのご令嬢!』

 ――だからこそ、クラウディアはそれを叩きのめすためにアルテミアを主軸としたデッキを構築し、この戦いに挑んだのだ。アルテミアの能力によってノアの切り札であるプロミネンスを完封し、そして勝利するために!

「おーっほほほほ! 万事休す、ですわね〜!」

 アルテミアが戦場に立った時点で、自分の勝利は決まっている。そう確信しながら、クラウディアは高笑いした。

「……ううん。まだだよ」

 しかし――ノア・バーシュダンは笑った。

「たしかにプロミネンスは私の切り札。……だけど、私の見据える決着までの道筋は、それだけじゃないッ!」

「……なんですって!?」

 ノアの見せた不敵な笑みに、クラウディアは叫んだ。

 そして、ノアは『星降りの日』によって手札に加えるカードをクラウディアへと見せる!


『太陽神竜ソラリス』

 ユニット/属性:赤/コスト:8/パワー:11000/《煌竜》

【常時発動】このユニットは、相手の場のユニット1体を指定してアタックできる。([行動済タップ]状態のユニットも指定できる)。

【条件発動】このユニットが相手のユニットを指定してバトルしたとき、そのバトル中、このユニットのパワー+3000し、そのバトル終了時、このユニットとバトルしていたユニットが場を離れていたなら、相手に1ダメージ。


「た、太陽神竜ぅっ!?」

『なんですの、あのカード!?』

『プロミネンスじゃないのか!?』

 観衆がざわめき、クラウディアが悲鳴めいた叫び声をあげた。

「これが……わたしのもうひとつの切り札! わたしは『星降りの日』の追加コストとして、フレイ・ドラグーンをトラッシュへ!」

 ノアは続けて『星降りの日』の追加コストを支払う! 盤上のユニットカードをトラッシュへと置くことで、『星降りの日』の更なる効果を発動したのだ!

 すなわち――『コストを支払わず召喚する』!

「天照らす陽光よ。その光を束ね、ここに神なる姿を示せ! 太陽神竜ソラリス、召喚!」

 しゅ、ッ! 鋭く投げ放たれたカードが決闘場のフィールドへと突き立った! そしてカードへとマナ・リソースが注がれる。そうしてそこから立ち上がる幻像イメージは――光り輝く4対の翼をもち、雄々しくも神々しく白い躯体を輝かせた太陽神竜ソラリスの威容である!

「さあ、バトルフェイズだよ、クラウディア!」

「あ、有り得ませんわ……! こんなカード、わたくしが調べた中には……!」

 狼狽えるクラウディアを尻目に、ノアはフェイズ進行させる。

「うん。だからこの子は秘密にしてたんだ。もうすこし隠し通せると思ってたんだけど……君のカード見てたら、我慢できなくなっちゃった」

 ノアの右眼に赤く光が灯る。フィールドを挟んで対峙するクラウディアには、その光の中におよそ常人では持ち得ない膨大な魔力が渦巻いているのが理解できた。

「行こう、ソラリス! アタックだ! バトル対象としてアルテミアを指定!」

 翼を広げながら飛び立ったソラリスの幻像イメージが光を放つ。雲の切れ間から差す光にも似た光芒がアルテミアを捉えた。その光の道を辿るように、ソラリスがフィールドを駆ける!

「む……、迎え撃ちなさい! アルテミア!」

 一方、悲鳴めいた金切声でクラウディアはアルテミアでのブロック宣言を強要される。アルテミアは一度振り返ってクラウディアへと静かに微笑みを向けると、床面を蹴って飛び出した。

 迸る閃光。陽光を宿す太陽神竜が光の息吹を放ったのだ。アルテミアは手にした盾でその軌道を逸らし致命傷を避けるが、盾は瞬く間に熔け落ちた。だが、盾を捨てながら素早く身を翻したアルテミアはしなやかな体捌きでソラリスのもとへと間合いを詰める。

 ――素の数値だけで比すれば、アルテミアはパワー9000。対し、ソラリスは11000。だが、激突バトルする2体のユニットはともにバトルを条件とするパワー上昇パンプが発生する!

「アルテミアッ!」

 アルテミアは相手のアタックを受けるとき、パワー+4000される。この効果を発揮し、アルテミアのパワーは13000という脅威的な数値に達する。

「いっけぇ、ソラリス!」

 だが、対するソラリスもまたアタック時のパワー上昇パンプが発生する。これによって太陽神竜ソラリスのパワー値は――アルテミアを上回る、14000!

 アルテミアは槍を突き立てた。ソラリスの胸元に亀裂が入り、そこから光が溢れ出る。

 だがソラリスは苦悶しながらも双眸を光らせた。その身に宿した光の力を急速に増大させた。ほんの一瞬で数万℃に達するプラズマ光球と化したソラリスは、その光の中にアルテミアを飲み込み――爆発する!

「あ、あ……! わ、わたくしのアルテミアが!」

 霊符決闘ヴァンキッシュは、常に無慈悲なまでにルールに則った処理が行われる。いかなる想いをもっていたとしても、盤上のルールに則ってバトルに敗北したユニットがその破壊を逃れることは不可能だ。パワー負けしたアルテミアは、その幻像イメージを失ってトラッシュへと送られる。

 ……これはアルテミアの耐性能力の穴である。アルテミアの能力で無効化できる破壊は『効果による破壊』。対して、いまここで起こったのは『バトルの結果による破壊』となる。であるが故に、アルテミアの『“効果による破壊”を無効化する能力』では防ぐことができなかったのだ。ノアはその弱点を読み切り、そこに対応する能力をもつソラリスによってクラウディアの戦術を崩したのである!

「ソラリスの能力はまだ終わってない! バトル終了時、相手のユニットが場にいなくなったため、プレイヤーのライフにダメージだ!」

 追撃! 爆発にたちのぼった噴煙を払いながら、太陽神竜ソラリスはその鋭い双眸でクラウディアを睨む!

「くっ……!!」

 閃光! カードに込められた魔力が光線となり、ソラリスの幻像イメージを通じてクラウディアへと放たれた。衝撃に呻くクラウディアの盤上に、ダメージを示すカードが追加される!

 そして――!

「続いて攻撃! サニーサイド・ドラゴンでアタック! クラウディア、カウンターは!」

「……ございませんわ!」

「なら……これで、とどめだあっ!!」

 アルテミアを失ったクラウディアは、切り札を打ち破られたショックから立ち直ることができず、その後の動きも精彩を欠いた。続く攻防にも対応し切ることができず、そのままノアの攻勢に押し切られてしまう。

「く……くやしいいいいいいいいいッ!!!」

「これで、勝利ヴァンキッシュ!」

 それが、この戦いの結末であった。

 最後のダメージを叩き込まれ、その衝撃に打ちのめされたクラウディアの身体が宙を舞って床に叩きつけられる。

 その一方で、勝者たるノアは拳を掲げながら高らかに勝ち鬨をあげたのであった。

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