異世界で自分の生き方を見つけます

ゆずもも

転移そして呪い

7月 最悪な出会いと新生活

25歳のリアルと疑問

— 結婚おめでとう!お幸せに! —



自宅でのんびりとアイスコーヒーを飲みながら、もう予測変換に出るくらい打ち慣れた文字を打ち、メッセージアプリで送信する。ここ数年で何度このメッセージを書いただろうか。25歳にもなると周りの友達が結婚する事が多くなってくる。それだけでなく、最近だと「出産しました」という連絡もくるようになってきた。



「はぁ…」


友人が幸せになるのは私も嬉しい。友人に似ている子供の写真を見るのも楽しい。最初の頃はそれだけだったのに、年齢を重ねるにつれ、周りの友人がどんどん結婚していくにつれ、近頃はどうしても素直に嬉しいとか楽しいとか思えなくなってしまう自分がいた。

素直に喜べなくなってしまった自分が醜くて、友人からの幸せ報告があるたびに自己嫌悪に陥ってしまう日常に若干の嫌気がさす。

そんな私の気持ちとは裏腹に、携帯がメッセージの受信を知らせる。



— ありがとう!結婚式に呼ぶから是非来てほしい —

— もちろん!楽しみにしてるね! —



このやりとりも既にお決まりになりつつある。そんなメッセージを送りながら私は大きくため息をついた。



「…結婚…か」


私は昔から見る目がなかった。学生の頃は恋に恋しているタイプで、好きな人は簡単に見つけるのだが、その人が問題だった。私が魅力を感じる人たちはみんなあって、付き合う前に目が覚めることがほとんど…。

恋愛している時間は長くても、彼氏がいる時間はことごとく少ない。何度かは付き合ったこともあるけれど、全て自分からお別れしてしまった。

付き合ってくれた人は相手が悪かったわけではない。お付き合いしてくれた人は皆いい人だった。でも、付き合う前に作ってしまった理想の彼と現実の差に何だか耐えきれなくて、付き合っていることが苦しくなってしまうのだ。

我ながらわがままな性格だと思う。



(というか…社会人になってから恋愛すらしてないし…)


職場に男性はいる。でも一緒に仕事をしていると、なんというか「粗」が見えるのだ。学生の頃ならきっとそこまで気にする事なく相手を好きになっていたかもしれない。けれど『付き合う=結婚を視野に入れる相手』という事を考える年齢になった今、相手の粗ばかりが目についてときめくことすらできなくなっていた。そんな私が合コンの様な集まりで相手を見つけるなんてもってのほかだ…。

相手に色々求めてしまうほど、自分だってでない事を自覚しているのに…自分の事を棚上げるとはまさにこの事だ。

負の感情に陥りそうになり私は誰もいない部屋で1人首を振り思考を強制終了させる。気分を変えようと氷が溶け始めたアイスコーヒーを一口含むと、折り畳みしきの丸テーブルの上に置いてある本の山にふと目がいった。



「…精油の本でも読んで、気分を変えよ」


最近始めた精油の勉強。ネットショッピングでたまたま目に入った精油を入れられるペンダントがとても可愛いくて、一緒に精油も買ったところ思った以上に熱中してしまったのだ。

今や精油の参考書をはじめハーブの参考書、薬草の参考書など精油以外の植物の参考書まで買い集めている。何かに熱中するのはとても好きだ。その事だけを考えていられる。

本を手に取り憂鬱な気持ちを吹き飛ばそうとした時、再び携帯がメッセージの通知を知らせる。心の中で小さくため息をつきながらメッセージアプリを開くと、先程の結婚報告に別の友人のコメントが表示された。



— おめでとう!私も早く彼氏と結婚して幸せになりたいよぉぉ!お幸せに! —



その文章に私は深く息をつく。



「…結婚って…幸せなのかな…」


25歳ともなると、周りにも結婚に関して聞かれる事がある。

結婚してないというと「ごめんね」と気を使う人もいるし、中には「早くいい人見つけて結婚した方がいいわ」と言ってくる人もいる。そう言った言葉を聞くたびに、私はいつも疑問に思うのだ。結婚は本当に幸せなのか?と。結婚しないと幸せではないのか?と…

年齢を重ねてしまうと、こうして自分の好きなことをして過ごすのはダメなのだろうか。私は十分楽しいのに、これは「幸せ」ではないのだろうか?

切り替えようとしていた思考が悪い方向へどんどん向かってしまう。


勉強する気も失せてしまった私は携帯を少し離れた場所にあるクッションの上に放り投げ、丸テーブルに広げた本の山に顔を突っ伏し目を閉じる。

そのまま顔を突っ伏した状態で動かずにいると、突然身体中に不自然な微風を感じた。季節は夏。エアコンをつけているため、窓は開けていない。けれどエアコンとは違う私を取り巻くような風に不審に思い顔を上げると、いつの間にか私を囲うように私の周囲が円を描く様に白く光っていた。



「何っ!」


驚き声を上げると、その声が起爆剤になったかのように微風だった風が突然勢いを強くする。下から上に噴き出すように吹く風はワンレンボブの黒髪を髪の毛一本残すことなく逆立ちさせ、買ったばかりの膝丈ほどの白いワンピースは胸までめくり上がってしまう。異常な風に動揺しながら咄嗟にスカートの裾を押さえ目を細くする。目を開けることすらままならない状況の中、どうにか脱出しようと足に力を入れるとそれを阻むように、今度は光までもが強くなった。

その、スポットライトを直に見たような強い光に耐えきれず、私は硬く目を閉じた。

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