好きになって欲しい
琥珀エン
好きになって欲しい
君と会ったのは、高校一年生の頃。最初はクラスで明るく過ごす君が、あまりにも輝かしいのが、僕の世界には珍しかった。クラスでも人気者の君を、光り物が好きな烏のように、いつしか目で追うようになった。でもたぶん、好きなんて気持ちはそこには無くて。そう思い込みたかった。
いつの間にか僕は、君のそばにいたいと思い始めていた。何故かはわからない。恋って......そう言う不確かな物だろ?
雨がザァザァと降っていたある日。傘も差さずに外で濡れている君を見つけた。視線の先には、クラスでもカッコいいと噂の、学校で人気の先輩。そして隣には彼女と思わしき女子生徒がいた。彼を見つめる君の目の中には、暗く深い闇が確かに存在していた。きっと先輩のことが君は好きなんだな。愛を、恋をしているんだな。ズキッと軋んだ胸に気づかないふりをして、僕は雨に濡れる君をずっと見ていた。
話しかけたかった、抱きしめたかった。好きだって、愛してるって言いたかった。でも年頃の恋愛をするには、僕はずいぶん捻くれていた。
小学校の頃、僕はクラスで大事に育てていた金魚を殺してしまったことがあった。その事件のせいで僕はクラスからいじめられる事になった。金曜日、餌当番だった僕は餌をやり忘れて、月曜日登校した時には、金魚は水の上に浮かんで死んでいた。
真相は、日曜日に水槽の水の入れ替えをしていた先生が、ミスをして殺してしまっていたのだけど。自分のミスにしたく無かった先生が金魚が死んだのは僕のせいだと言って。僕はそれを受け入れた。受け入れたくせに捻くれて、周りを憎んで生きてきたせいで、今更人との関わり方がわからなかった。
君は僕に興味がなかったし、僕は君に話しかけることができなかった。だから、この話はここで終わるはずだった。君は君の人生を、僕は僕の人生を歩いていくはずだったんだ。そこで関わる事なんて無いと思っていたのに。
大人になった僕と君は同じ会社に同期として入って、君と僕は恋をした。お互いが好きになるまでは色々あったけど、お互いが惹かれあって好きあったのは、愛したのは確かだった。
なのに目の前には病院の一室で寝ている君。記憶喪失になったらしい。君が起きている時に僕は会えなかったから、医者から聞いた情報だけど。寝ている君の手を握って、力を込める。涙がいつの間にか流れていたが、泣き声は上げなかった。辛いのは君のはずだから。
どうしたらまた好きになってもらえるかな。どうしたらこの気持ちを伝えられるかな。病院から帰った後もずっとそう考えていた。
でも新しい君が選んだ人は、僕じゃ無かった。あの時の学校で人気者だった先輩。病院の看護師だったらしい。お互いが惹かれ合うように、運命を感じるように親交を深めていった。僕は苦しかったけど、仕方ない。そう思うしか無かった。だってあの時の君はもう居ないんだから。新しい恋人と歩く君は幸せそうだった。不器用な僕は、君の幸せを恨まないように気持ちの整理をする事で精一杯だった。
ありがとう、好きな人。
ありがとう、好きだった人。
君と気持ちが揃った時間は、僕の人生で一番幸せな時間だっただろう。
でも今でも、好きになって欲しい。そう思っているのは悪い事だろうか。
好きになって欲しい 琥珀エン @kohaku-osaru
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます