10

今夜、空に沈もう。


忘れていた想いを思い出したら、

それは何処に向ければいい?

顔も名前も思い出せないのに、

想いだけがリアルに現れる。


大きな木の下を掘り起こし、

土の中に埋めてしまおう。

いつか誰かが見つけ出して、

名前を付けてくれるまで。


見上げる空。

僕の身体溶け出して。

夜空の底に沈殿してゆく。


思い出しさえしなければ、

こんな思いはしなくて済むのに。


埋めた何かが花と咲いて、風に散ってまた廻る。


僕は廻らずに、ずっと底に佇んでいたい。

廻る花を眺めながら。

思い出せない想いを思い描きながら。


あの想いと一緒に、消えてしまえればよかったのに。


けれども春はまたやってきて、

花も人も、

廻る廻る廻る廻る廻る廻る廻る廻る廻る廻る廻る廻る廻る廻る廻る廻る廻る廻る廻る

夜空まで螺旋を描いて。

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