第10話
僕は公園に来ていた。
ベンチを一つ占領していた5人くらいの子供達が、一人また一人と姿を消していく。段々と空もオレンジ色になってきた。
警察署に出向いたのは何度だったかもう覚えていない。電話や訪問も含めれば20回は優に超えているだろう。スマホも提出し、今は新たに契約したものを使っている。
僕の部屋で見つかったのはアユミちゃんの遺体だと断定された。頭部はあの廃校の中にあったらしい。
アパートが立ち入り禁止ということもあって実家に戻ろうとも思ったが、思い直して不動産屋を巡ることにした。アユミちゃんの葬儀には参列していない。犯人逮捕まで、というより逮捕されたとしても実家近くをうろつくことはできないかもしれない。
「容疑者はアパート住人の恋人で、その住人と被害者と容疑者が幼馴染」なんて報道されていては、もはや僕を知る人間がいる土地では暮らすことはできない。
竹唐みゆきの過去に何があったのか、僕とアユミちゃんが何をしてしまったのか、確かなことは分からない。けれどもアユミちゃんは死に、僕には呪いがかけられた。
スマホが振動している。杉崎刑事だ。
「何度も本当にすみませんね。大丈夫ですか?」
「いつでも良いです。今は無職ですから。」
「いやあ、明日一緒に喫茶店巡りでもと思いましてね」
「『ついでにまたお話を』ですか?」
「いえいえ、安藤さんは被害者で参考人ですから」
杉崎刑事は最近、この「被害者で参考人」というフレーズをよく使うようになった。それでも僕は未だに被疑者の中の一人でもあるのだろう。
「千川は?」
「安藤さんの彼女さんはまだ足取りが掴めませんねえ」
あるいは共犯と思われているのか。
千川はあの時、3階建ての校舎の屋上から飛び降りた可能性があると聞いた。普通ならけが程度で済む高さではない。だけど彼女はそのまま行方をくらまし続けている。「千川みゆき」という名も、「栄田」という人物も、大学の在籍名簿には記載がなかった。
「安藤さんの言う通り、インターネットを探し回った方が効率が良いのかもしれませんけどね。そうなるともう、どうにも僕は門外漢で」
杉崎刑事は「ははは」と照れ臭そうにした。電話の向こうではぎょろりとした目玉が動いているのだろう。
公園の脇の方から、木々の大きな影が伸びてきている。
「引っ掛かるんですよね」
「何がですか?」
「いえね、安藤さんが部屋に残ってた真壁トオルの血液反応とか、タッパーに入ってた遺体の一部とか、嫌がらせにしては動機がいまいち分からんのですよ」
「……僕だって分かりませんよ」
ベンチに座っていた最後の子供がいなくなった。
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