三話


 「緩ッ……緩!!」


 先刻から継続している妙に浅い、僅かな隙間から出ている様な荒い呼吸。

 強く眉頭を下げ、目頭に筋目を作りながら、苦しそうに、苦しそうに、涙が頬を伝い零れていく緩。

 「い、医者だ」コールボタンを押した筈が、震える手では定められず僕の顔が歪む。

 不意に病室が静寂に包み込まれた。

 えっ……。

 やけに胸騒ぎがし、直ぐに振り返ると、コールボタンを必死に、激しく連打してから「緩ッ」と駆け寄る。

 息をしていない。


「緩ッ……ねぇ……僕は、何をしたらいい?」


 圧迫を掛けようとする手は、胸に添えるだけだった。

 

 僕は間違ってたのかな?

 君を守りたかった、願いを叶えたかった。

 僕はさ、ただ君に笑って欲しかった。


「ねぇ……緩……ごめんな」


 嬉しかったんだ。

 僕もずっと独りだったから。暗闇でずっとずっと淋しかったから。

 あの病室で僕は生まれ緩に出会った時、僕だと思った。

 僕を救いたかったんだ。


「僕は君のマジシャンなんかじゃない」


 君の願いは叶えたくない。叶えられない。

 魔法には代償がある。ミモザの花で空腹。

 君の命を掛ければ、きっと僕は。

 それでもいい。

 ノンを守りたい。

 

 月明かりに似た淡い光の粒を纏い、魔法を掛けた。

 僕の体が透けてー…君にはもう触れられない。


「お、願いだ……いか……ないでー…」


 お腹が空いたな。

 僕は今どんな顔をしてるかな?まだ、涙が零れていても、きっとー…。

 僅かに空いている唇に、唇を触れる様に息を吹き込む。


「ー…生きて……」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る