第2話
優也のおじさんは車やバイクの修理工場をしていた。 おじさんはいつも他の従業員が帰った後も一人で作業していた。一度おじさんに聞いたことがあった。
何故いつも遅くまで一人で仕事をしているのか。おじさんは答えた。
「少しでも作業が進んでると明日あいつらが来たときに楽だろ?その分ゆっくりしてもらいたいんだよ。」
そんな事したらおじさんがきつくないの?と聞いてみた。おじさんは「おじさんは家が上だからすぐに帰れるけれど、あいつらはわざわざ遠くからおじさんを訪ねて来てくれたんだよ。」「疲れて帰る方が辛いからな。少しでも早く帰して家でゆっくりしてもらいたい。」
「まぁ、正樹みたいにすぐバイクで走りに行く奴もいるけどな」とおじさんは笑いながら言った。
正樹とは優也の8歳年上の兄的存在だった。優也は幼い頃この家に来たから従業員からは可愛がられていた。3年前にここにきた正樹とはすぐに仲良くなった
優也の父親の兄。おじさん夫婦には子供がなく一人になった優也をすぐ引き取った。養子にすることも考えたがあえてしなかった。あくまで優也は弟の子供。
産まれてきたことをとても喜びとても可愛がった。実の子のように。自分たちもこんな子が欲しかった。その思いは叶わなかったが・・・
幼稚園の休みにはいつも預かった。何処かへ連れて行くわけでもなかったが、家に子供がいる生活を楽しみたかった。優也もおじさん夫婦によく馴染み家ん帰りたくないとわがままを言った事もあった。
そして,弟夫婦の事故死。
優也はまだ4歳だったが親が死んでしまった事はわかっていた。もう二度と抱きしめてはもらえない事を。
「優也,今日からここで暮らすんだ。」
「もう家には帰らないよ。わかるな。」
優也は黙って頷いた。いつもは休みが終わると両親が迎えに来る。それがもうない。ずっとここで暮らす。
部屋を用意していてくれていた。一人部屋にいると思わず泣き出してしまった。「お家に帰りたい。帰りたい。」 廊下で優也の泣き声を聞いていたおじさんは
「今の内に沢山泣いておけ。涙が枯れるまで泣いておけ。」そう心で思い,工場へ戻った。
工場の従業員にはいつもどおりに接してくれるように頼んでいた。親の死を忘れることはないがいつまでも悲しんでばかりではいられない。まだ4歳の優也にはわからないだろうが決して一人ではないと言う事を感じて欲しかった
1週間 1ヵ月と過ぎ従業員達からからかわれたり,叱られたりし優也も泣いたり笑ったり拗ねたりと少しずつではあるがいつもの日々の生活に戻りつつあった。
「ゆうや~」 正樹が呼んだ。優也は笑顔で駆け寄った。「ま~ちゃん」優也はま・さ・き・と上手く呼べず「ま~ちゃん」と呼んでいた。その為か工場内でも皆から「ま~ちゃん」
と呼ばれるようになってしまった。
「ゆうま~、いい加減まさ兄って呼べよ!」
「お前が呼ぶからおやっさん達まで呼んでるじゃねぇかよ!」
呼ばれて喜んでいた優也は叱られて泣きべそになりながら「ま~ちゃん」と呼んだ。工場内は笑いに包まれた。
その様子を見ていたおじさんは頷いていた。優也を正樹に任せてみようか と・・・・
改めて言うことでもないなとは思いながらも・・
優也 小学校入学。
おじさん夫婦に加え正樹も式に来ていた。校門で4人写真を撮った。どこにでもある家族写真の様に。本当の家族の様な笑顔で。
優也には兄弟もおらず正樹にも居なかった。お互いに兄弟のように接していた。時には仕事の邪魔をし正樹に叱られ拗ねて部屋に戻り海を見るのだった。海を見ると心が落ち着き、素直に正樹に謝る事も出来た。又正樹の方も素直に謝る優也が可愛かった。
正樹は近くではなかったのでバイクで通勤していた。昼休みにはいつも磨いていたので、他の従業員からからかわれていたが、とても大事なバイクなので綺麗にしておきたかった。この頃になると自分で整備も出来るようになっていた。
優也もいつか乗ってみたいと思うようになった。正樹に
「まさ兄、僕にもバイク乗せてくれよ。」とせがんだ。
正樹は笑顔を見せ「その内な」としか言わない。その内っていつだよ?と優也は思っていたが気長に待つことにした。
優也は17歳になっていた。高校生だ。優也はバイクの免許を取っていた。
正樹がとてもバイクを大事にし、バイクの楽しさを話してくれる。小さい頃から色々な車などの修理を見てきたり正樹がバイクを手入れするのを見ていて優也も自然に興味をもち始めた。ずっと免許を取りたい。とおじさんにお願いしていたがなかなか許してもらえなかった。17歳になりやっと許しが貰えた。免許を取ったもののまだ自分のバイクは持っていない。おじさんにバイトをしても良いかと尋ねるもダメだしされ未ださせてはもらえてない。毎月おこずかいを貰ってはいるものの高校生にもなると友達との付き合いもありとてもバイクを買えるほど残らない。優也は正樹にお願いしてみた。おじさんにバイトを許してもらえるように。が やはり答えはおなじだった。
優也は正樹に言った。
「まさ兄のバイクに乗せてくれよ。」
正樹は迷いながらもはっきり言った。
「悪い優也。俺のバイクには誰も乗せない約束で譲って貰ったんだ。誰に貰ったかも言わない約束でな。」
「俺はその約束は絶対に守りたいんだ。」
それ以上優也は頼めなかった。
優也は思った。だからまさ兄はあんなに大事にしているのか。でもちょっとぐらいはわからないのに。とも思っていた。
正樹は正直迷った。あんなに優也がバイクに興味を持っているから少しぐらいは乗せてもいいかな。と しかしすぐにその思いはかき消される。やっぱり駄目だ。大事な約束だ。大事な人との約束だ。その人を裏切るわけにはいかない。
正樹が乗っているバイクは優也のおじさんのものだった。正樹が17歳の時、おじさんから譲り受けたものだった。
おやっさんは俺を信用してくれた。もちろん優也のことも可愛いが、俺を唯一信用してくれた人だから裏切れない。
優也と正樹が又バイクの話で盛り上がっている。優也はバイクが欲しいと言い出した。本当なら乗ってほしくないから免許も先延ばしにしていたがとうとう取ってしまった。
免許があれば今度はバイクが欲しくなるのは当たり前の話だ。だがやはり乗って欲しくないのでバイク購入は許していない。
多分正樹のバイクに乗せろ。とでも言っているのだろうが、正樹は俺との約束を破るやつではないから乗せないだろう。
正直自分自身も乗っていた。一時期はレーサーも目指していた。腕にも自信があった。周りからも勧められた。バイクも自分で改造もした。
バイクの事なら俺に聞けば大概のことはわかるし解決してくれる。とまで言われるくらいだった。バイク一色だったんだ。
あの事故が無ければ今頃は・・・そんな事ばかり考えていた頃も確かにあった。そう、俺はバイクで事故り一人の子供の将来を奪ったんだ。
その日は仕事が休みでずっとバイクをいじっていた。タバコが切れたのでコンビニまで買いに行くと途中だった。夜だったし人も歩いていなかったので、俺は少しスピードを出していた。信号は黄色に変わった。間に合う。そう思った瞬間猫が飛び出してきた。それを避けようとした時右折車とぶつかった。助手席に突っ込んでいた。
何が起きたかもわからないまま俺は気を失っていた。次に目を開けると病室のベットの上だった。顔はかすり傷だったが両足骨折していた。しばらくすると警察の人たちが病室に入ってきた。俺はただ話を聞いていたが又気を失いそうになった。
警察の話だと、俺がぶつかった車の助手席には4歳の男の子が乗っていた。衝撃が激しかったらしく、男の子は命は助かったものの、昏睡状態になっているらしい。父親、母親、妹は怪我はしたが命には別状はなかったらしい。
警察に言われた。君は4歳ノ男の子の未来を奪った。その事を忘れてはいけない。
俺はバイクを辞めた。
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