リムル〜VRな彼女〜

@ramirami

第1話リムルムル

音佐田 内志(おとさた ないし)が俺の名だ。

 これを読んでいるお前に説明しておくと、今年二十一歳になる大学三年生。大学はまあ、特別有名な所じゃない。実家暮らしでコンビニでバイトしている。他には……格別説明することはない。勉強もスポーツも全くできないわけじゃないけど、自慢できる程じゃない。趣味?趣味はディーコネ。え?ディーコネって何って?


『D:connect(ディーコネクト)』


 グリム社が手掛けたオンライン接客サービスで通称ディーコネ。

 街中にあるサイネージにキャラクターのアバターが現れ、デート体験ができるというものだ。

移動した先々のモニターにアバターが映し出されたり、デート時間内は手持ちのタブレットにも映せるため、基本的にはどんな場所でも一緒に行ける。AIとは違って、話すアバターの向こうには実際の人間がいるのだが、キャラクターの絵を通すためか、女性と面と向かって話せない俺みたいなやつでも楽しめている。いや、すげー楽しんでいる。


 俺はこのサービスのヘビーユーザーだ。今までも何人もの子とデートしてきた。そのためにバイトをしているようなものだ。

 ディーコネサイトに行くとその日にデートできる女の子が選べて、自分好みのアバターの子を見つけ、プロフィールを見る。気に入った子がいたら、クリックして待ち合わせ時間を決める。俺の位置情報に合わせて、最寄りのサイネージが切り替わったりしてくれるので場所は自由だ。

 お気に入りの子ができれば指名もできるが、俺は敢えていつも違う子を選び、新たな刺激を求めていた。


「ねえ、内志くん。次はどこ行く?パフはパスタ食べたいな」

「オッケー。お腹も空いたもんな。この近くでパスタっていうと……」

「カトレアってお店に行こうよ」

「カトレア?カトレア、カトレア……っと、これか」

 スマホでパフに言われた店を検索すると、200メートルほど先のパスタ屋が出てきた。

 カトレアより手前にシーゼリヤというイタリアンチェーンの看板が見えた。味も美味いし、お財布的にもそちらの方がありがたかったので俺は

「シーゼリヤもあるけど?」

と言うと、すかさずパフが返した。

「私、カトレアの方がいい」

「あー、わかった」

 こういうことはよくあることだ。女というのは結構好みにうるさい。「なに食べよっか?」とか言う割にこちらが店を言うと、そこじゃないところがいいと言う。買い物をしても、「迷ってるから決めて」と言うくせに「これがいいんじゃない」と言うと「やっぱりこっちにする」とかがしょっちゅうだ。まあ、そこで相手の選択に合わせて喜んであげるのが女を喜ばせる1番のポイントだと俺は心得ている。(まあ、リアルの女性とデートしたことなんてないんだけど)


今日もそうしてパフという背の低い猫耳娘と半日デートを楽しんだ。


「結構金使ったなぁ。今月は控え目にしないとやべえかな」

 そうは言いつつ、翌日にはディーコネサイトを見ている俺、音佐田内志。

「今日は誰にしよっかなっと……おっ」

 一際俺の目を引いたのは、ミントグリーンの前髪で片目が隠れている、ゆるふわロングヘアーの『リムル』というアバターだった。

「おぅ~、可愛いじゃん。どれ、プロフィールは……と」


名前 リムル


プロフィール

ピンクのお花畑のお花畑からきたリムルだムル~

血液型はきゅるるん型で好きなものはかわいいもの全般ムル♪

いっぱいお出かけしたいムルムルムル


「なんか……癖強いな。まあ、普通の子にも飽きてきたし、たまにはいっか」

 そんな軽い気持ちで待ち合わせた新宿へ出かけた。


15時。新宿の駅前のサイネージで待ち合わせ。俺が行くとリムルは既に待っていた。

「あの、こ、こんにちは、はじめましてリムルです」

「あ、どーも。内志です」

「え、えーと、き、今日はどうしましょうか?」

 ずいぶん緊張してるんだな。リムルはプロフィールでみたお花畑な印象とは全然違っていた。やや不安と期待の入り混じった気持ちで待ち合わせに向かった俺はむしろ、そのことで緊張から解放された。にしても可愛いな。その手の子か?


 アバターの選択はテンプレもあるが、多くは自分で手掛けたアバターを使っているようで、グラフィックの出来には個人差がある。が、このリムルは今まであった中でもかなりレベルが高く綺麗で可愛い。


「じゃあ適当にぶらぶらしよっか」

「は、はい」

 俺は馴れた感じで声をかけ、歩き出した。移動中はタブレットにリムルが写っているが『ながら歩き』防止もあって、立ち止まっている時以外はイヤホン越しに会話ができる。(守らずにタブレットで話しながらのやつもいるが、そういうのはマジでよくないからな)

「リムルちゃんはこの辺はよく来るの?」

「その、たまに来るムル」

 おっ、急に語尾がムルになったぞ。

「内志さんは来るムル?

「あ~、そうだね。映画見たりするときとかね」

「どんな映画ムル?」

「最近だと、鬼斬の里とか」

「あれ、面白いよね!……ムル」

 ん?

 いま、なんかキャラ違くなかった……?

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