第40話

 9月13日

〈 良いことを思いついた。

 彼女を救って、僕もやりたいことを叶えられる。

 そんな魔法があるはずないって?

 あるんだ、僕が彼女を救えて、僕自身も救える方法。

 そう、僕は神様になろう。

 彼女だけの神様に。

 彼女を救いたい、今はそれが全てだ。

 なんてすばらしいアイデアだろう。

 突拍子もないけれど、これで彼女を救えるのなら

 僕は嘘つきで構わない。


 神様だなんて嘘だ、ただの道化師で嘘つきだ。

 こんなこざかしい真似をして、きっと本物の神様も笑っちゃうだろう。

 嘘つきだと言われて、閻魔様の前に立たされたってかまわない。

 神様になろうなんて、おこがましいと非難されてもいい。

 僕は、残りの人生を、たった一人のために使うことに決めた。

 天国に持っていける、経験と思い出作りのために

 残りの人生を全てかけようと思う。

 すごく、わがままなことだと思う。

 でも、人生を全てかけても、チャレンジする価値があると思うんだ。

 僕と一緒に、最後を生きて欲しい。

 美空くん、どうか、お願いだよ。 〉



 9月14日

〈 僕の願いは、けっこう単純だ。

 たった一人のために人生をかけてみたい。

 そして、その経験と思い出を、全力で人のために使った人生の時間を

 誇りにお持ちながら死んでいきたい。

 わがままかもしれない。

 その人を苦しめるかもしれない。

 でも、だからこそ、僕は人生の全てをかけるよ。


 僕は、死んでしまうから。

 残りの人生は、その人のためだけに生きるんだ。

 たった一人のために全力を尽くすこと。

 一人のために、人生をかけてみるということ。

 それが僕の願いだ。

 誰かのためじゃなく、一人のために、人生を費やしたい。

 その思い出を持って、天国へ行きたい。


 僕は生徒会長で、成績もよくて、先生にも頼りにされている。

 みんなの役に立つことはもう十分した。

 でも、たった一人の人間のために何かをしたことって今までないんだ。

 大事な人のために、その人のためだけに人生の最後を捧げたい。

 死ぬときに持って行けるものは、お金でも名誉でもない。

 思い出と経験だけだ。

 あと三カ月と言われた僕の命。

 短すぎて実感が湧かない。

 君は、僕の願いを叶えてくれるだろうか? 〉



 9月15日

〈 たった一人の人のために残りの人生を捧げる。

 だからこそ、僕の残りの人生をかけて、その人のお願いを叶えていく。

 そんなことができたら

 まるで神様になれたみたいだろうね。

 人の願いを叶えるという経験と思い出は

 天国に持って行くのにふさわしいと僕は思う。

 残り数か月の僕の人生を彼女のお願いを叶えるために使おう。

 僕ができる限り、全部叶えてあげよう。

 君が生きたいと思える君になれるように

 全力で命をかけて応援しよう。


 僕の分まで、彼女が生きられるのなら

 僕はそれができたのなら、満足して死ねる。

 大切な君のために、残りのわずかな人生を捧げるよ。

 僕を神様にさせてよ、美空くん。

 お願いだから。 〉



「先輩……」


 美空は指先で、夕の文字をたどる。視界はいつの間にか滲んで、瞬きをするたびにきれいになった。


 三ヶ月のタイムリミットは、美空ではなくて夕の方だった――。美空はその事実に、今やっと気がついた。


 夕は、残り三ヶ月の寿命を、美空のために使ったのだ。美空の願いを叶えるという、まるで神様の所業のようなことをするために。その経験と思い出を持って、天国へと行くために。


 本当に死ぬはずだったのは自分だと思っていた。しかし、本当に死んでしまうのは、夕だったのだ。


 残りの人生全てをかけて、美空と向き合ってくれた人のことを思いながら、美空はぎゅっと目をつぶった。

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