第21話
「……!プハッ!はっ……え?ここは……」
「あ、気が付いたみたいですよ。じゃあ、裁判を始めましょうか」
意識が戻って、混乱した頭のままキョロキョロと周囲を見回すと、私は木樽の中に詰め込まれていて、頭上から声がしたと思って上を見上げてみると、数人の男女が私を見下ろしていた。
さっきまでいい人だった騎士さんと、頭に飾りが山盛りの店員さんと、鉛筆みたいな黒い被り物をした怪しさ満載の二人が樽の周りに立っていた。
「騎士さん……これどういうことですか?妹さんのお土産はどうするんですか?」
「汚らわしいニセモノが気安く話しかけるな。今からお前の罪状を読み上げ、有罪か無罪かを我々で裁判をする」
「ちょっとまじで何言ってるか分かんないんですけど、多分私が聖女様の代役だってバレたことでこの状況になっているってことで合ってますかね?」
「ドブネズミは己の罪すら理解できないほど頭も悪いのね」
話しかけてみたが、全く会話のキャッチボールが成り立たない。
ただ、司祭様にニセモノだとバレないようにと言われていたのにこの有様だから、ヤッチマッタナーというぼんやり思っていた。
鉛筆ぽい被り物の人がもったいぶった風に巻物をくるくると広げ、書かれた内容を読み上げる。
「この娘は、聖女様の名を騙り、民から金品を巻き上げるという詐欺を働いた。烏滸がましくも貧民が聖女様に成りすまし、あのお方の名誉を著しく傷つけた罪は、非常に重い。よって死罪が相応である。なにが異議のある者は」
「異議なし」
「異議なし」
「異議なし。罪人にはふさわしい死に方を」
なにこの茶番。必要?
私を置いてけぼりで頭上では私の処刑が満場一致で決定したみたいなんですけどどうしたらいいですか?ていうかなんなのこの状況。
「ニセモノを仕立てたあの司祭は罪にならないのですか?」
「あれは聖女様のお気に入りだから手出しはならない。ただ、自分のニセモノは、たとえ教会関係者であっても絶対に許さないとのお言葉を頂いている」
「処刑方法はどうされますか?ご指示はありましたか?」
「罪を浄化するためにも、火あぶりがいいだろう。聖女様は、楽に死なせるなと仰っていたので、苦しみは長いほうがいい」
これ現実かな……?地獄みたいな会話しているけど、これ私に関することなんだよね?現実感のないまま、茫然と上を見上げていると騎士さんと目が合った。
すると、騎士さんは少しかがんで私に話しかけてきた。
「聖女様はね、とても聡明な方だから全て分かっていらしたんだよ。
聖女様がご不在であっても、あの司祭ならば自分の代役を立ててでも巡礼を強行すると予想していらしたんだ。国務に穴をあけるわけにいかないとしつこかったからね。
だから密偵として俺が残されたんだけど、聖女様の仰ったとおりになった。お前はおこがましくも聖女様のお衣装を着て恥ずかしげもなく名を騙って、それを近くで見ていた俺は腹が煮えて仕方がなかったよ。
まあ君は雇われただけだと言うかもしれないが、死に値する不敬なんだからしょうがないよね」
最初から私が連れてこられた時点で、まあ当然だが彼にはニセモノだとバレていた。
すぐにでも捕まえて排除したかったけれど、自分ひとりでは司祭様と魔術師の双子、騎士団長を相手に戦うのは無理だから、この町に近づくまで耐えていた。
さっきの店は、本店が王都にあり、聖女様の好みにあった装飾品を作るために取り巻きの一人が創設した店なのだという。この町にあるのは二号店で、店員は皆聖女様の熱狂的な信者だそうだ。
まあ彼らの信条的には私は死すべしなのだろうが、そもそも司祭様が代役を立ててでもこの巡礼を行わなければならなかった理由を彼らもよく考えるべきだ。結局困るのは、敬愛する聖女様なんだぞ?
「あのさあ……不敬どうこうは一旦置いといて、巡礼の本来の目的をちゃんと考えれば、ここでニセモノを殺すわけにはいかないって分かるよね?聖女様であっても断れなかった重要な公務だから、王様には行ったことにして逃げちゃったんでしょ?
だから苦肉の策で代役を立てたのに、ここで私を殺しちゃったら聖女様が本当は逃げちゃったって王様にばれちゃうよ?そしたらさすがの聖女様も、王様に怒られるんじゃないかな?このまま私が巡礼終わらせて、新婚旅行から帰ってきたホンモノの聖女様とバトンタッチするほうが合理的なんじゃない?私を罰するにしてもその後にしたほうが、賢明だと思うけど」
「よく回る口だな。嘘つきネズミの意見など聞いていない。聖女様が不快に感じられる以上、お前の存在は許されないのだ。もういい、我らの裁判でお前の処刑は決まった。今から刑を執行する」
おおう……そういや会話が通じない系の人だったわ……。
ここで死んじゃうのか私。
家族は大丈夫かなあ。でもさすがに殺されたら司祭様のせいでもあるから、責任感じて最後まで面倒見てくれると信じたい。
ああ、やっぱりうまい話にホイホイ飛びつくんじゃなかった。
若干司祭様を呪いながら家族のことを考えていると、私は樽ごと引きずって行かれ、外に出された。視界が拓けてようやく気付いたが、ここは船の上だった。
周囲に建物は見当たらず、静かな水音と湿った森の匂いがするから、運河を通って町を抜けてきたのだと思う。
すると、さっきの黒い被り物の人が油の入った瓶とマッチを持って再び現れた。
「お前の処刑は、生きたままの火あぶりだ。苦しみぬいて死ぬがいい」
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