第2話
それから数日して現れたのが、司祭の衣装をまとった明らかに身分が高いと思われる、えらく整った容姿の男性だった。
国の中央にある教会総本部から来たといい、田舎者からしたら雲の上のような存在のお人だった。
この田舎には農夫ばかりなので、男と言うのはゴツイじゃがいもみたいな見た目が当たり前と思っていた私は、最初この人を見たときに、あまりに肌が美しく手も白魚のように白く綺麗だったから、男か女か性別すら分からなかったくらいだ。
そして、生まれて初めて聞くなんかすごそうな肩書を名乗り始めたので、私は危うく失神しかけた。
でも明らかに平民(の最底辺)と分かる私にも、その人は丁寧な口調で話してくれたので、やっぱり聖職者はみんな人間ができているなあと心の中で感心していた。
おじいちゃん神父はどうしてこの人を呼んだんだろうか?この天上人がお金を貸してくれるのか???と疑問いっぱいだったが、話を聞くとそうではなかった。
教会本部で破格の仕事があるから引き受けてくれないか?という人材募集のお話だった。おじいちゃんお仕事斡旋してくれたみたい。
イヤイヤ、働いてお金貯めるとかそんな時間的余裕はねえんですよと言いかけたが、男性はそれを見越したかのように、報酬の話を先にしてきた。
報酬を聞くととんでもない額で、これならクソ親父の借金どころか、末の弟まで全員学校に行かせてやって成人するまで食べるに困らないくらいの金額だった。
なんでこんな田舎者の小娘にそんな仕事を紹介してくれるのかと不信感いっぱいだったが、どうやらその仕事の条件に当てはまる人物がなかなかいなくて困っていたらしい。
アッシュグレーの髪に青い目で、身長が五尺くらいの若い女性。そしてなんらかの魔法を使える属性を持っていることが条件だった。
魔法の力は女神様からのギフトと呼ばれ、力の強さと属性はそれぞれだが、持って生まれる人はそれほど珍しくない。
なんでもいいならいくらでも見つかりそうな気がするが、案外なかなか条件に合う人物が見つからなくて困っていたそうだ。
そんな時、見た目が合致していて、その上癒しの力という珍しい属性を持った私が見つかったので、連絡を受けた司祭様は急いで駆けつけてきたそうだ。
癒しの力と言ったって子供だましみたいなモンですよ?と言ったのだが、それでも条件にぴったり当てはまっているらしく、最初に提示された報酬に上乗せして、私がいない間の家族の生活と安全を保障してくれるとまで言ってくれた。
ここまで好条件を提示されて引き受けない理由がない。
あまりのおいしい話に、疑いを持ちつつも私はこの仕事を引き受けてしまったのだ。
***
契約書を交わしてから、ようやく詳しい仕事内容を詳しく説明してもらえた。
まあ、要は『聖女様の替え玉』をやるお仕事だった。うん。だいたい察した。
この国では女神アーセラ信仰が国教とされていて、その女神のお言葉を聞くことができるという聖女が存在している。聖女様は前任の聖女がご逝去されると、次の聖女様が生まれるといわれている。
今代の聖女様は、今年で十五歳になる。ようやく公務に就ける年齢となり、聖都でのお披露目を終えた後、国中の教会を訪れる予定になっていたのだが……。
なんか聖女様、世話係の男とイイ仲になっちゃって、十五になったんだから結婚すると言い出し、周囲の反対を押し切り本当に結婚してしまったらしい。
それはまあいいのだが(良くはないが)、結婚したんだから新婚旅行に行くと言って、勝手に船を手配し海外旅行に行ってしまった。
でもどうやら本当の理由は、この後控えている『国中にある教会を巡礼する』仕事が嫌で逃げ出した、ということだそうです、ハイ。
僻地まで悪路を馬車でゴトゴトなんて無理無理無理と叫びまくった聖女様を誰も止められず、新婚なんだからハネムーンに行くんだもんと言ってゴリ押ししたそうだ。
イヤイヤ、そこは仕事なんだから頑張れよ!と至極真っ当な注意を教会側もしたようだが、生まれた時から聖女として上げ膳据え膳チヤホヤチヤホヤされて育った聖女様は、信じられないくらいわがままっ子に育ってしまったそうだ。
昔は教会の権力が強く、新たな聖女様の育成は教会で経典にそって正しく行われていたそうだが、今代の王は旧態依然とした国の在り方を改革していくと称して、聖女様の育成もやり方を勝手に変えてしまい、結果出来上がったのが今のわがままっ子らしい。
誰かに行動を制限されるなんてまっぴらごめんだ、そんな仕事知ったこっちゃないと言い残し、彼女を支持する取り巻き達と共に旅立っていってしまった。……とその総本部からいらした男性は憂いを含んだ表情で語った。
もうね、どっから突っ込んだらいいのやら。
王様って馬鹿なのかな?
子どもの躾を誰もしなかったのかな?
つーか聖女様の生活費全般は国民の血税から成り立っているってのに、聖女の仕事をしないでどうする。そしてそれを誰も窘められなくてどうする。
逃げ出す聖女様を中央の偉い人は誰も止められなかったのは馬鹿としか言いようがない。
心の中で偉い人たちを罵倒しまくったが、そんなことはおくびにも出さずに契約条件についてだけ聞くことに専念した。
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