シナイ関係

姫野 まりえ

第1  きっかけとなった夜のお店

「まりえちゃん、もう少し派手なドレスないの?」

「ヘアセットしてもらってきて!」


慣れない私は地味なレンタルドレスと整わない巻髪で出勤していた。

不慣れではあったが、このお店が2軒目である。


以前働いていた、「キャバクラ」ではバニーガールとして接客はなかった。

ドリンクを運んだり、客を案内したりする仕事。


…のはずだったが。


60分5,000円のそのお店は、蓋を開けてみるとそこは「セクキャバ」だった。

お触りあってのキャバクラ。

広いホールは暗く、爆音が鳴り響く。

カーテンで仕切られた個室空間では、中で何が行われているかわからない…


おしぼりを大量に頼まれたり、ドリンクを出しに行くと女の子が客の膝の上に座っている。何をしているかなんて誰でもわかる。


客の前では甘えた声、待機場所は汚いロッカーであぐらをかき床に座る、そんな子たちが沢山いるキャバクラだった。


女って怖い‥


指名客が入ると、派手にマイクで名前を呼ばれる仕組みだが、週末ともなると人手が足りない。


「バニーガールまりえちゃーーーーん!VIPまでよろしくぅ!!」


同じバニー仲間と顔を見合わせて不機嫌そうに行く私。


ウサギ狩り。


そう呼んでいた。ホステスよりも安い時給なのに接客をさせられる。


「VIPだからサービスよろしく~!」


そんな事を言ってくる黒服を睨みながら私は向かった。


安いキャバクラの客層は言うまでもない。


VIPといえど客単価なんて知れている。

お酒を飲まされ、もはや出来上がった若めの酔っぱらいが絡んでくる。

先に席についていた女の子もかなり出来上がっていた。


「ねぇーバニーちゃんもこっち来てよ~」


膝の上をポンポンと叩く。愛想笑いをしながらやんわり断る私。


「座るだけでいいからさ~」


強引に腕を掴まれ、乗せられる私。そして後ろから抱きしめたその手は、少しずつ上に‥


脇腹からいやらしくソフトに触り服越しに‥


下から重さと大きさを確認するように胸を揉み始める。


「おっきいね~何カップ??」


165cm、53kg、Fカップの私はお店の中でも決して痩せてはいなかった。

ただ、昔から胸を目当てに声をかけてくる男性は多かった。


そしてその手がどんどん服の中へ入っていく。

キャミソールをまくり、少しずつ今度はブラの上から包み込む手。


「だめですよぉ~」


そう言いながらもその時ふと、あまり嫌じゃない自分に気づいた・・・・

中心部には近づかないその手つきは私の心を弄ぶように慣れていた。



知らない人に後ろから胸を揉まれる…なんかエロい…


そんな気持ちになりながらも、その日は忙しく、すぐにまた別のテーブルへ呼ばれたのでそこから先は何もなかった。


黒服のもとへ戻り「すごい触られたんですけど!!!」とあえて嫌そうに話す私に


「いいじゃん‼!!減るわけじゃないんだし~!!


…でも何か減るよね…」


ボソッと言ったその一言に黒服の温かみを感じた。


仕事が終わるのが朝の2時だったので、いつも漫喫で友達と朝まで過ごし、本業であるOLの仕事へそのまま向かった。


そう、お金が欲しかった。


月給15万の給料では満足できない。そんな欲と好奇心から私は掛け持ちを始めた。

バニーガールの時給は2,000円。今思うとあれで2,000円は安かったなと。

ただこれが1500万のきっかけの一つであるとその時は全く思ってもみなかった。








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