サウダージ
はじめてリコに会ったコーヒーショップ。
リコはチョコのかかったクロワッサンをかじっている。
ぼくはコーヒーを一口だけすする。
「さびしーって言ったの」
「電話切る前にね。よく聞こえなかったけど」
「きっとさびしいんだよ。すごく疲れてる顔してた。
きれいな人なのに」
「見たの」
「見たよ。トイレから戻ってくるとき」
「そう」今度はぼくがため息をつく。
「わかるよ。きっと大変なんだよ。
そんなときキーちゃんに会って思い出したんだよ」
「何を」
「幸せなときもあったんだよね」
「リコちゃんはあるの。そんなとき」
「ないよ。あたしは」
何でずっと近くにいなかったのかな。
そう、きっとぼくが悪いんだよね。
遠ざかっちゃったのはぼくのせいかも。
「大丈夫。きっと見つかるよ」
リコがぼくのほうを向いて明るい声で言う。
「何が」
「その人をさびしくなくしてくれる人」
「そうかなあ」
「キーちゃんじゃなくちゃダメなの」
「そんなことはないけどさ」
リコはすっかりおなか一杯になった様子。
今日も外は暑くなりそう。
店の中にはボサノバが流れている。
いや、違うなあ。これはカルトーラの遅いサンバ。
サウダージ。
「ごちそうさま。またごはんおごってね」
リコは走り出しそうなくらい元気にぼくから離れていく。
ぼくはリコを見送ったあと、
ゆっくりとした足どりで階段を上がる。
そして電車にゆられて仕事に向かう。
いつものように。
サウダージ 阿紋 @amon-1968
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます