その19 心が折れた

 化学療法は2クールで終わる予定だったのですが、もう少しやってみることに。

 後に聞いた話ですが、先生はいろんな文献や症例を調べてより有効な治療法を模索してくださっていたようです。

 稀な病気なのでこれ!、といった治療法が確立されてないんですよね。

 今度の薬剤は「アドリアマイシン」と「イホマイド」。

 これをMAXの6割の量で。

 イホマイドは稀にイホマイド脳症というのがでるらしいです。

 痙攣したり錯乱したりするそうな。

 これに効くのがメチレンブルーという色素。

 顕微鏡で観察するために細胞を染めたり、あとはお魚を飼っている人が使ってたりするそうです。

 しかし、なぜ効くのかはわからない。

 作用機序が不明な薬を使うので、また同意書にサイン。

 どーんとやってくれ、と判子をバーンと押しました。


 あとイホマイドの副作用としては出血性膀胱炎があるそうです。

 水分補給が重要とのことなんでお茶のみまくってました。

 

 慣れてきたこともあるかもしれませんが、特にしんどくなかったですね。

 白血球がちょっと下がったくらい。

 食欲も普通にありました。

 

 そんなとある日。

 ふと心が折れました。

 義足が出来上がってから、厳しかったリハビリはますます厳しくなりました。

 リハビリの先生は割りと物事をきつく言うタイプの方で、一方の私はあんまりきつく言われるのは苦手。

 その日のリハビリはあまりうまくいかず、先生にもきつく言われて落ち込んでました。

 

 ――あの先生もういやだー!

 

 そんな風に思っちゃったのです。

 看護師さんにリハビリの先生を変えて!と訴えてしまいました。

「あの先生、言い方きついからねぇ」

 と看護師さん。

 主治医の先生もこられました。

「T先生(リハの先生)は義足のリハビリはこの病院ではピカイチなんだけど無理かなぁ」

 なんやかんやあってリハの先生と話し合うことに。

 結果、リハビリがきついのは仕方ないこと。

 でも、ぽんぽん言われてイラついたら溜め込まずにその場でいうこと、となり、リハビリの先生の交代はなしに。

「おれ、絶対代わる気なかったもんな」

 後にリハビリの先生はそう仰ってました。


 その頃が一番リハビリきつかったです。

 もともとあまり運動神経がいいほうではなかったので筋肉の動かし方とかいまひとつ下手。

 体重も義足側にかけるのが怖く、まっすぐ歩いているつもりでも健足側に頼りがち。

 杖だけで歩くなんてとんでもねぇ。

 平行棒につかまって歩くのが精一杯でした。

 先生に言われてることは分かるんだけど、実際にはできない。

 本当にじれったかったです。

 合間合間に化学療法もあり、その間はリハビリ中止なので復帰したらまた一からやりなおし、みたいな感じで。

 

 でもリハビリは基本的には好きでした。

 日によって時間が違うので、毎朝看護師さんにリハビリの時間を確認して、時間が近づいてきたらジャージに着替えて準備万端。

 今日こそは、と思いつつうまくいかなかったり、思ったよりうまくいったり。

 そんな日々を過ごしていました。

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