チークナイト!

「真由 今日練習早めに切り上げてもらえるかしら?」

「あっはい。もちろん。いつも使ってすいません。」

「今日はアレヨ〜ナイト営業!」

マッチャンがゆるふわパーマをフワフワさせてスィングしている。

「チークナイト!」

「はぁ....チーク?ナイト。」


その日来る客来る客にチークナイトの宣伝をするマッチャン。店の外にも看板を。


 私達は、軽めに『泣いてませんか』を練習し、チークナイトの準備を手伝う。

誰かのお誕生日パーティーかっていうキラキラの飾りを持ちマッチャンとぼっちがあっちへ行きこっちへ行き。

「電気はさすがに燃えちゃいますよ?」

「あんらっこまったわね〜じゃ、窓?窓はもういっぱいね」

「僕に巻いときましょうか」

「ちょっとそんな、キャバレーじゃないんですから。今夜は大人のチークナイトよ」

さゆりさんも乗り気なようだ。いつもより心なしか化粧が濃い.....。


 アルコールも出すらしい。喫茶店だけどありなんですね。

常連さんや、商店街のひとも集まる。見慣れないお客さんも。


お酒にマッチャン特製おつまみに、みんな楽しそうにお喋りしている。ぼっちがレコードを物色。

「今はこんなのでいいかな」

今流行らしい日本の歌謡曲を流す。


 いつの間にかカウンターで酔いが回ったマッチャンがステージに。

「皆様本日はようこそ〜チークタイム今から始めますー」

あっ普通に話してるマッチャン.....ただのおじさんみたい。


 自然とDJ役になったぼっちがレコードを替える。

バラードっぽい洋楽だ。


男女一組となりゆらゆら揺れだす。ん?これ何が楽しいのか。

マッチャンが私に耳打ちしてくる。

「ほらねっ三軒先の奥さん、やっぱり八百屋の兄ちゃん目当てよ〜」

マッチャンはオネェというより、噂好きのおばさんみたい。崎山さんみたい。


 さゆりさんもどこかの男性と踊ってる。へぇー素敵。

え?私は目を疑った。

さっきまでギターをいじってたはずの亮さんがどこかのレディと密着して踊ってる.....。

ふと気づくと私の前に手を出す男性が、ぼっち。

ぼっちは優しい。

私はぼっちのお誘いに応えて手を取り人生初のチークダンス。

こ、こ、こんなに、近いんすね。私はおどおどしつつも、近くで踊る人をお手本にした。

ぼっちが私のおしりをキュッと押さえて寄せつける。

ひょえーっっっ。


 そして亮さんと時々目が合う。私は平成から来た私達の今の状況がヘンテコすぎて....おかしくなる。

でも、目の前で亮さんと踊る女性が亮さんの首に手を回すのを見ると、心がチクっとした。


「真由ちゃん ありがとう!僕は幸せ者だよ。真由ちゃんと踊れて」ぼっちが笑っている。


 私は片付けたりと次のチークタイムは見送った。いえ.....逃げた。

さゆりさんが「真由!ラストよー」と手招きしてる。

ぼっちはレコードをかける。


 そして私の手を引くのは見知らぬ兄ちゃん....凄い上目使いの。髪もタイトにぴったりオールバック。これサルサとか始まらない?大丈夫かな。ラテン臭が強烈な腰遣い。


 あれ 亮さんは?さっきの女性がべったりくっついて話し込んでいる。あんな顔して笑うんだ.....。

もしかして、彼女??


 曲が流れだす。

あっこの曲知ってる。メリーのなんだっけ。ジェーンだ!

私は見知らぬ男性とのダンスにどうすればいいか分からず私の手は腰の辺りをワサワサしてる。

傍から見ればかなり変だろう.....。

時々亮さんがこっちを見てる、そして フッって今笑った?!

亮さんは全く記憶がないようだ。

私を知らない亮さんはこの時代に恋人までいる......のかな。


 この時代で私は独りぼっちだ。

私は知らない人にくっつかれながら浮かんでくる涙をこらえた。


 視界に入るゆらゆら揺れるぼっちとマッチャン。ぼっちも心なしか涙を浮かべてる?!

私はぼっちと目を合わせ涙をこらえていたはずが、笑いをこらえる事となった。

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