三時に三時の異世界へ
Phantom Cat
1
いつからなのかは、わからない。
しかし、いつの間にか、毎日三時になると俺に不思議な現象が起こるようになった。
俺がどこにいようが俺の真右に鏡のような平面が現れるのだ。大きさは俺がすっぽり入るくらい。まさに姿見と同じだ。そちらを振り返ると、左右反対の俺が俺を見返している。それは全く鏡と同様に、俺が動くとその動作をそのままなぞる。
俺以外の人にはその鏡平面は見えないらしい。そして、大体一時間くらいするとそれは俺の視界からも消える。だけど見えてる時は邪魔で仕方ない……のだが、最近それの大きさを変えられることが分かった。何のことはない。スマホの画面のように、両手でピンチイン・ピンチアウトすればいいのだ。それでも三センチ角くらいの大きさに縮めるのが限界らしいが、姿見の大きさで視界を遮られるよりは随分マシだ。
それにしても……
これは一体何なのだろう。三時(午前も午後も)になると出現する、というのも謎だが、アインシュタインによればこの世界は四次元時空連続体、ということなのだから、時間と空間に何か関連があってもおかしくない……が、三時になったら俺の真右、即ちクロック・コードで言う三時の方向に現れる、っていうのは……あまりにも出来過ぎているような気もする。
果たして、これは鏡なんだろうか。それとも……別な世界への入り口?
俺はかつて読んだ筒井康隆のジュブナイルSF小説「ミラーマンの時間」を思い出す。この物語の主人公は、午後四時になると家にある鏡に右半身をめり込ませ、左右対称の「ミラーマン」に変身する。ひょっとして……これもそういう類いの物なのか?
その日の午後三時。俺は意を決して、鏡平面の中に右手を突っ込んでみた。
驚いた。
何の抵抗もなく、俺の右手は平面を超えた。それと同時に、左右反対の俺の右手が、俺の手首の位置からぬっとこちらに突き出てきた。
「!」
慌てて俺は右手を引っ込める。平面の中の左右反対の俺も同じようにそうしていた。
……。
そうか。
やはりこれは、別な世界への入り口なのだ。この平面を超えれば、おそらく左右が反転した異世界に行くことになる。そして、それと同時にその異世界にいた左右反対の俺がこの世界にやってくるのだ。
面白い。
俺の目の前の左右反対の俺が、ニヤリとする。もちろん俺もだ。やはり相手も俺自身、考えることも同じのようだ。
次の瞬間。
俺は一気に鏡平面に飛び込んでいった。
---
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます