1話 まきこむヤツ、巻き込まれる奴等
朝露で湿った空気が日差しに照らされて、草木が輝いて見える。
そんな清々しい程の気持ちの良い朝だというのに、その雰囲気とは真逆の暗い表情の少女が森を速足で移動していた。
「はぁ。ま、撒いた?」
何かから逃げるように茂みに隠れて左右を確認する少女。
少女には似つかわしくない男物ズボン、上着は袖から腰までがモモンガのような飛膜の様な感じになっている。
薄めの生地でフワフワしている可愛らしい服というアンバランスな格好をしている。
身長から見ると十歳前後くらいに見える、艶やかな緑色の長い髪を邪魔にならないようにと、髪を纏めて結っているがサラサラとした髪質で少し開けたポニーテールになっている。
(それがまた良い感じにのアクセントになっている)
無愛想で固い感じの目つきのせいもあるが、それもまた魅力的だ、白く綺麗な肌にスラッとした手足。けれど痩せすぎと言う訳でもない、太ももなんて良い感じに細く締まった肉付き。
(身長に似つかない胸の大きさ、これもまた――うむ、ギャップが良い)
そして、彼女が手にしている武器だが、身長よりも長く大きな大鎌を持っている。
(まったく、人のモノを勝手に……使いこなして居る訳じゃないが、俺さえ使えない武器を扱えてしまうとはな。さすが、俺の嫁になるべき奴だ)
先代の魔王がオーパーツとかいうモノを元にして創り出した銃器なのだが…… 結局、創り出した本人さえ扱えない代物が出来てしまい、恥ずかしいことにお蔵入りしたのだ。
(戦っている姿も可愛かったな)
彼女の姿を観察しているだけなのに、もう色々な想像が止まらない。
「ふ、ぐふふ……おっと!」
慌てて自分を諌めて息を殺す。
◇◆◇◆
――なんでこうなった!?
くそっ! なんなんだよ。
「夢じゃなかったのか……」
大きな溜め息をつき、自身の体を見つめる。
胸を触れば柔らかな感触がする、もちろん揉まれた感覚も。その手さえもが自分の手だと思えないほどに白く華奢である。
数日前までの見慣れていたはずの、鍛えていた肉付きの良い手じゃない。
そして、微妙な違和感が拭えないズボン。ある筈のモノが無い感覚と、ピッチリした下着の感触はどうも気持ちが悪い。魔城から逃げ出す時に全部脱ぎ棄てようとも思ったが、胸は揺れて邪魔になるし不便だ。スカートとパンツだけは絶対に穿かないようと、城中を逃げ回っていた時に分かったことだ。
簡単に纏めると。
==魔王に遣られて数日寝込んでいたらしいのだが、起きたら男から女になっていた。
城から逃げ出そうと魔王やその部下から逃げ出そうとして、数日間は追いかけっこ。
ダメージも抜けて、本気で逃げ出す事に成功した。
そして、今== 遠くまで逃げて、やっとの事で部下達を振り切った。
「……これほどの屈辱、なんだよ男が女になるって!?」
何をどうすればこうなるのか、未だに頭の中が混乱中である。
(まさか魔法でこんな事が出来るとは…… 魔法が凄いのかアイツの技術が凄いのか……)
初めは夢だと思い、なんども寝てみたが起きた時には女の体で、それが変わる事は無い。
「本来、マナは人間や動物には害でしかなく、直接の干渉は出来ないはずなのに」
しかし、魔法という手段以外で僕の体を変えたとは考え難い。
(少しでも解れば元の体に戻れるはず…… あれ? いや、待てよ、どうだろう)
“魔法”で僕を女にしたと言うのは、確実だと思う。
誰でも扱えるような魔術ではなく“大神戦争の遺産”と言われる様な【魔法の力】。未だに謎の多い“魔法”でないと戻れないんじゃないだろうか。
ゾクッと背筋に悪寒が走る。
「ぐふふ――」
殺気というのではなく、体を舐めまわされるような絡みつく視線の場所を急いで探る。
「……そこかっ」
斜め後ろの木を思いっきり蹴り砕く。
「うぉ! のわ~!! いで!?」
木の上から落ちて来たのは、僕をこんな体にした犯人だった。
「つぅ~ぃてぇ。頭から落ちたら死んでいたぞ! 危ないじゃないか」
地面に強く打ちつけた腰を摩りながら魔王が立ち上がる。
「しるか阿呆。ていうかな、そのまま逝け」
いや、いまはそんな事よりもコイツに聞かなきゃならない事が山ほどある。焦る気持ちと、腹立たし気分が混じり合った感情でか、歩み寄る足に力が入ってしまう。
その勢いのままで、胸倉をつかんで引き寄せた。
「おい、僕を元の姿に戻せ。男に戻せ、今すぐにだっ!」
睨みつけてドスを聞かした声でいったのだが、相手はニッコリと微笑んで見せ。平然とした感じで一言、しかも明るい口調で、
「無理♪」
と、頭に来るほどの良い笑顔だった。
「ふ、ふざけんなっ」
「無理なものは無理なんだよ」
「そんなに僕を戻したくないのか!」
「まぁそれもあるけどね。って、言うか九割くらいはそれが理由みたいなもんだけどな。現実的に言っても、本当に無理なんだよね~、あは、あはは」
最初の言葉みたいに、おちょくる様子ではないものの、
真面目な顔で、どこか誤魔化そうとしている様な感じで、そう答えた。
「どういうことだ!?」
「ぐ、ぐるしぃって。死ぬ! 理由言う前に死ぬって」
僕の腕を何度も叩いてくる。
「……すまん」
思わず手に力が入りすぎていた手を慌てて放す。
「げほっ! きっつ」
「わわぁ! こっちに倒れて来るなぁ!」
思わず全力で蹴り飛ばしてしまった。
「ぐぇ!」
真後ろの樹へと体が叩きつけられて、頭も打ったらしく気絶してしまう。
「え、ちょ、ごめん! ……じゃない。気絶してんじゃねぇ!? さっさと起きて説明しろ!」
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