第93話 真実は残酷だ(sideかすみ)


「んーっ」


 背筋を思い切り伸ばす。

 ポキポキと音が鳴って気持ちいい。

 朝起きてから、動画の編集をしていたら結構時間が経っている。

 時計を見ればもう12時近い。


 そっか、4時間ぐらいぶっ続けてやっていたことになっちゃうのか。


「ご飯でも食べようかなぁ」


 冷蔵庫を見るとなんにもない。

 本当にない。女子力が一切感じられない。


 い、言い訳させて欲しい。誰にかは分からないけど、とにかく言わせてほしい。最近は実家にもどってたり巧の家にいる機会が多かったりして、冷蔵庫には何も入れてないだけだった。普段はあるはず、うん。

 でも料理するのもめんどくさいしなぁ……自分のためにするのって……ねぇ?


「外でるのも面倒臭いけど、ごはん作るよりマシだし買いに行こーと」


 それにしても寒いなぁ。

 巧のいる群馬はもっと寒いのかな?


「わ、雨降ってる」


 冬の雨っていやだなぁ。

 どうせなら雪とかだったら情緒あっていいのに。

 群馬なら雪になのかな?


 でも巧はあんまり雨とか雪とかそう言うの気にしなそう。

 あ、でもウインタースポーツなら興味あるかな?

 スキーとかスノボとか。

 

 でも私どっちも出来ないんだよなぁ。

 エルなら出来るし教えてもらおうかなぁ。それで巧に教えちゃったりして……。巧が出来たらそれはそれで手とり足とり教えて貰ったりして……。

うん控えめに言ってあり。

 

 そんなことを考えながら階段を下りる。

 いつもはイヤホンとかするんだけど今日は生憎と忘れちゃった。


「……うーさむっ」


 巧は今お義母さんに会いに、群馬に行ってるけど、いつ帰ってくるんだろ?

 昨日はおばあちゃんち泊まるとかいってたけど……


 ……でもやっとなのかな。

 やっと一区切り巧の中で付けられるんだ。


 おばさんと仲直りするにしろ、そのまま喧嘩別れにせよ、いずれにしても前に進める。

 でも希望を言うなら、みんな幸せになってほしいかなぁ。事情もあるからそうもいかないんだろうけど、さ。


 私は最近直接会ってないからこそこんなこと思うんだろうけど、巧のお母さんが理由もなく出てくはずないとおもうんだよなぁ。

 それっぽい理由つけてたけど、違ったし。

 何かしら理由があるはずなんだよ……。


そんなことをぼーっと考えていると、ふといつも通る道に違和感を感じた。

 

 近くの公園のベンチでこんな雨の中、ぼーっと座る人がいる。

 その人は雨にも関わらず下を向いたまま微動だにしない。

 まるで雨に打たれても気にしないかのようで。


 まぁ、見て見ぬふりしてもいいんだけど気づいちゃったしなぁ。このまま放置するのもなんかあれだし、傘だけでもあげようかな?


 どうせコンビニで買えばいいし。


 少しの緊張と共に近づいていく。

 それにしても本当に微動だにしない。

 

 下に向いてるから顔も分からない。


 今更ながら不審者とかだったらどうしよう。でもああ。ええいままよ!

  

「あのー……傘いりますか?」


「……」


 返事がない。

 

「あのー」


 とんとん、と肩を置いてみる。

 これで反応なかったら、スルーしよっと。

 なんか幽鬼みたいでこわいし。


 「……ああ、俺にか」


 あれ、この声。

 顔をゆっくりあげれば生気のない眼をした愛しい人の顔。

 

「え、巧くんっ!?」


「……ああかすみか。ごめん突然来ちゃって……」


「い、いやそれは全然いいんだけど、むしろ嬉しいまであるけど…………じゃなくて!とりあえず家いこ!風邪ひいちゃうよ!」


「うん……」


 返事はするけど、巧の返事に感情が感じられない

 手を引っ張てそれでようやく動き出す

 その動きはのろのろとしていて、明らかにいつもの感じじゃない。


 間違いなく何かあった。

 それも多分今までで一番ひどいなにか。


 とりあえず、巧を引っ張って家に連れ込み、そのままシャワーを浴びせる。

 あの様子だときっと、ご飯とかも食べてないかもしれないから、材料をコンビニで揃えて、ついでに私のご飯も買っておく。

 

 でもどれだけのことがあったんだろ。

 あんなに心身ともに衰弱するなんて。


 それも聞かないと。


 家に戻ると、ちょうど巧がシャワーから上がって髪を乾かしていた。

  

 「上がったんだ、コーヒー淹れとくね」


 「ん……ありがとー」

 

 程なくして、巧がリビングに来て、コーヒーを飲む。そこでようやく一息

 

 「ご飯とかは?」


 「ううん大丈夫お腹空いてないから、俺こそごめん急に来て」


 さっきよりかは話せるようになったかな?でも食欲はわかない、と。

 

 「ううん、それよりも来たならピンポンすれば良かったのに、なんなら入ってきても良かったのに〜鍵あるでしょ?」


 巧は困ったように少し笑う。

 あ、これ私を巻き込まないようにする時の笑みだ。


 「なんというか…………ちょっと考えをまとめてた、というか、感情を整理したかったというか」


 なんだか言葉を選んでいる感じがする。

 だから私は思わず巧の身体を抱きしめた。


「うぇっ?」

 

「濁さなくていいよ、何があったの?」


「……っ!?」


 巧は一瞬驚き、観念したかのように身体から力を抜いてもたれかかってくる。


「かすみにはなにも隠せないなぁ」


「何いってるの?当たり前じゃん。どれだけ私が巧を見てきたと思ってるのよ」


「そっか」


「うん、そうだよ」


 そうなんだよ、と。

 私は力いっぱい巧を抱きしめる。

 

「そうだよね、じゃあ俺の話を聞いてよ、まだ何も整理もついてなくて、どうしたらいいのかも分からない俺の取り留めもなく、そしてうちの家族のとてもしょうもない真実を」


「……教えて?」


 叔父さんの言葉を借りるけど……って巧は前置くと

 

「端的に言うと、は病気らしい」


「……病気?」


「そ、病気」


 事も無げに巧は言った。

 ううん違うね、事も無げなんじゃない。何も感じてない言ってるだけだね。

 多分そうしないと心が持たないんだ。だから笑顔を作る。不器用な笑顔を。


「……病気って……なんの?」


 おばさんが出ていくくらいの病気。命に関わるのかな?

 ……ダメだ、全く分からないや。


「がん……とか?」

 

「ううん違う、俺も聞くまでは名前しか聞いたことがなかったんだけどね」


 なんかもうそれだけで嫌な予感がする。

 

「……ALS筋萎縮性側索硬化症って病気らしいよ」


 その病気は知らなかった、本当に詳しいこと何もは分からない。

 でも分かることもある。


 巧の声のトーン、涙が滲むような震え。

 この病気はきっとーー

 

「この病気はさ、根治治療、つまり完治させるための治療法がないんだって、さ」


 ーー希望がない。

でも巧の言葉はまだ終わりじゃなかった。

 絶望の言葉はまだ続く。


「この病気は根治治療がなく、そして……最後には…………」


 はぁ、と1つ息を吐いて、巧は真実を口にする。


「確実に


 巧が知りたかった真実は、どうしようもなく残酷で、誰も幸せになれないそんな酷いものだった。

 


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

25時半。

ごめん悩んで書いたから遅くなった!!


最近展開シリアスになりすぎて頭の悪いラブコメ小説書きたくなってきた。

いやなんなら書いてます。

そのうち出します。

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