第13話 面会前の打ち合わせ


 早速、面会の為のキャメル伯爵家との打ち合わせに入る。

 ルルと面会すると決めた日付は、彼女が移送される当日の午前にした。面会が終われば同じ馬車で屋敷に帰らずそのまま予定地まで移送されるそうだ。僕に会う為のただの移動用の馬車だと思っているだろうから、きっと帰りも彼女は素直に乗り込むだろう。万が一、乗り込む前に気付いて暴れても、屈強な護衛――実際は監視とルル捕獲係――達を移送用馬車に付けるし、睡眠薬を盛ったお菓子も用意するそうだ。


 面会する場所は、今ルルが隔離されているだろうキャメル伯爵家の離れではなく、ライと遊び酒を呑み交わしたあの侯爵家の別荘だ。これは僕が用意してもらえるよう頼んだ事だった。あの別荘は結婚祝いとしてライの物となる事を、僕は本人から聞いて知っていたので。ライは僕の思惑を理解したらしく、あっさり許可してくれた。僕が面会する場所にあそこ選んだのは訳がある。流石は侯爵家と言うか、あの別荘には特殊な部屋があるのだ。今回、彼女と面会するに当たって、僕はその特殊な部屋と隣室を借りたかった。


 会う事を決めたが、始めから僕はルルと二人きりで会うつもりはなかった。目に見える牽制役として、我が家の護衛も出来る男性従者二人と女性従者一人を連れて行く予定だ。男性が僕の傍にいるだけで威圧になるし、同性なら何の問題もなくルルに触れられる。万が一、彼女が暴れた場合に備えての布陣さ。それだけでなく、何か会話内容に問題があった場合の証人役も必要と考えていた。相手は平民になったとはいえ、彼女の性格が早々変わる訳じゃない。何の為に僕と会いたいと言っていたのか、その目的が良く分からない為に念には念を入れたかった。

 隣室に僕と従者達とルルが入り、特殊な部屋には証人役になって貰えるようライとキャメル伯爵家の従者に入ってもらうのだ。別荘を借りるだけでなくライ本人も巻き込んで申し訳ない気もしたが、比較的花婿側は時間が空いているようだったのでお願いした。…まぁ、僕がお願いしなくても喜々として証人役に立候補してくれただろうけれど。

 一応キャメル伯爵にルルが僕に会いたがる理由を尋ねてみたが、会いたい、会わせろの一点張りで肝心の理由は一切口にしていないそうだ。謹慎扱いなので罰の一つとして禁止している甘い菓子で釣ってみてもダメだったらしい。これで一言でも僕に謝罪すると言うのであればキャメル伯爵家も最後の情けとして、もっとルルに寄り添った対応をしてくれたと思うのだけれど…、これまでだって彼女は実の両親や姉のライラを見下していた節がある。ルルの実家での振る舞いはライラから聞くだけなので、実際にはもっと酷かった可能性があるな。想像するしかないが、貴族籍の除名よりも前にルルにとってもキャメル伯爵家側にとっても、お互い心情的に家族では無くなっていたのかもしれない。


 それと僕にとって大事な事。あのルル限定孫バカの前伯爵夫妻はどこにいるか、事前に知っておかなければならない。もしもこの面会に邪魔が入るなら間違いなくあの夫妻だろうし、乗り込んで来る可能性も考えていた。まぁ、面会場所の別荘は未だ侯爵家の私有地なので、乗り込んで来たなら不法侵入者として捕まえてもらうけれど。

 キャメル伯爵によれば、ルルより先に王都にあるキャメル伯爵家のセカンドハウスから伯爵領の別宅に移し済みだそうだ。この情報には僕が一番安心したと思う。どんなにルルの事を想った注意でも、彼らにとってはルルに対しての意地悪に映っていたらしく、ルルの婚約者としてふさわしくないと僕はあからさまに嫌われていたし、遠回しに色々と嫌がらせも受けていたので今でもどこか苦手だったから。

 本来はルルの移送後に彼らを移送する予定だったらしいが、孫の結婚式に参加したいと言う前伯爵夫妻を、肝心のライラまごが絶対に参加しないで下さいときっぱり拒否した事が早まった理由だそうだ。因みに、これから移送するルルは彼らとはまた別の所に住処を用意されているらしく、あの夫妻とルルも二度と会うことがないように手配されているとのこと。きっと可愛がっていたルルと会えなくなる事が、彼らにとって一番辛い罰になるのだろうな。



 こうしてキャメル伯爵家との打ち合わせを終え、帰宅して早々に僕の両親にも彼女と最後に会う事を伝えた。母からは笑顔できっちり引導渡してやりなさいと応援され、父からはこっそりと女はウソ泣きが上手なので下手に騙されないよう薫陶を受けた。


 ――この日の夜、以前と同じような昔の夢を見た。ただ、僕の目を見たいと言うルルに、夢の僕は断りを入れて歩き去る。二度と振り返る事もなく、夢は終わった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る