第12話 話の真意
「えっと…え? あの、申し訳ありませんが、もう一度お聞きしてもよろしいですか?」
「つまりね、ルルが君に会いたいと言って、一人で騒いでいるのだよ」
聞き間違いを疑ったが、そうじゃなかったみたいだ。…どういう事だろうか。もう一度、先程キャメル伯爵が話していた情報を思い浮かべてみる。
『ルルの移送が来週に決まった』、これはいい、大丈夫だ。思ってより時間かかったんだな、とは思うがちゃんと理解できる。
『ルルが、君に会うまで動かない、会えなければ今すぐ死んでやると騒ぎ、どうにも手を焼いている』……んん? 正直言って、意味が分からない。いや言葉の意味は理解するが、あの彼女が、僕に、会いたいって? 会わなければ死ぬ?? え、何で? 何のために??
僕は混乱した。ルル伯爵令嬢が騒いでまで僕に会いたがるなんて、婚約者であった時期でさえなかったのだ。本気で死ぬつもりは皆無だろうけど、今更、僕に何の用があるのだろうか…。
「まぁ、普通に考えて困るわよね。今更会いたいと騒ぐだなんて…恥知らずもいいところだわ。オマケに死んでやると言いつつ、食事は普段通りしっかり食べているようですし」
「デザートに甘いケーキを出せとの要求もあるくらい本人は元気だからな。狂言であることは確かだが、移送中に暴れられても従者達が困るからね。このまま放置して大人しくしない場合は、睡眠薬で眠らせて強制的に移送する予定だった……が」
キャメル伯爵と夫人の視線がライラに向かう。視線を集めたライラは軽く頷くと口を開いた。
「私が一度ルーベンの意見も聞くべきだと、貴方に連絡を取る事を提案したの」
「僕の意見を?」
もしかしてバーナー伯爵家としてルル伯爵令嬢の移送方法について、意見を求められているのだろうか。だが、キャメル伯爵家とは婚約破棄による賠償金もとっくに支払われていて、バーナー伯爵家はキャメル伯爵家とはもう関わる気が無いのだ。関わりがあるのは個人的にライラとライの友人である僕だけだが、両家の間に遺恨を残すような個人的事情を挟む気は無い。なので、我が家としてはルル伯爵令嬢の事に関しては、全てキャメル伯爵家の裁量に任す形で終わっている。
一応、そう伝えてみたが、そうではないと言われた。
「もうあの子の我儘を聞くつもりは私にも無いわ。だから会って欲しい訳ではないの。むしろ、会わなくていいとさえ思ってる。でもね、ルーベンにとって本当にそれでいいのかなって思うと…」
「難しく考えなくていいんだ。家の為でもアレの為でもなくて、ルーの為に会う選択肢があってもいいんじゃないかって事さ。破棄の手続きの時も一切会ってなかったんだろ? ルーの心残りにならないように、会ってしっかり決別した方がルーの為になるんじゃないか…俺とライラはそう思ったから、一度ルー自身に聞いてみようって話になったんだ」
「二人とも…」
大事な友人二人の優しい想いに、僕の胸はジンとした。正直に言えば彼女への想いはもう僕の内から消えたと思っているけど、本人との別れの言葉もなくこのまま会わずに終わるのは違うのかもしれない。今は良くても、いつか過去を振り返る時に後悔がないように、その機会を二人が…いや、キャメル伯爵家が提供してくれたのだ。
「当然だが、面会するのが嫌なら断ってくれて構わない。あの子の我儘を叶える義理も義務もすでに、当家にはないのでね」
次いで言われたキャメル伯爵の言葉で、今回の話の意味を全部理解した。現時点ですでに、彼女は貴族籍から除名されているのだろう。伯爵令嬢ではなくなったルルがどれだけ騒ごうが移送する事も決定事項。睡眠薬での移送も本気なのだ。
つまりルルの会いたい云々の騒ぎは建前に過ぎず、本当にこの話は僕の為だけに用意されたモノ。ライラとライの意見もあっただろうけど、もしかしたら僕にとって義理の両親となったはずのキャメル伯爵夫妻も同じ考えだったのかもしれない。ルルと婚約者だった間も、破棄の手続きの時も、キャメル伯爵夫妻は僕の事を良く気遣ってくれていたから。
返事は早い方がいい。僕はいくつか確認したい事を尋ね納得すると、ルルに会う事を決めた。
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