新型コブタ・ウイルスをめぐる冒険

笹胆 竜之介(ささぎも りんのすけ)

第1話 それは船の漂着からはじまった

 深い紺色と穏やかな波が広がる海を、ずっと東に進んでいくと明るい緑色に覆われた小さな島があります。この島は、とっても小さい島なのですが、なぜか「大ブタ島」と呼ばれています。この狭く小さい大ブタ島にある町では、たくさんのブタの住民がひしめき合って暮らしていました。

大ブタ島の南端にある岬に、木造の小さなブタ小屋が建っています。このブタ小屋には、3匹の兄弟のブタが住んでいました。一番の年上の兄さんブタのトン太郎は成績優秀で、いつもブタの学校で一番の成績をとるほど頭がよく、先生たちからとても高く評価されていました。つぎに2番目のお兄さんブタのトン次郎はスポーツ万能で運動会で走れば、いつも一等賞で大活躍でした。ところが3番目の弟ブタの、ブタノスケは勉強が大嫌いな上に、いたずらばっかりしていたので、いつも先生たちから叱られてばっかりでした。

 そんなある日のこと、大ブタ島に一隻の貨物船が漂着しました。

同じ日の夕方に3匹のブタの兄弟がテレビのマンガを見ていると、突然、マンガの画面が消えて「臨時ニュース」の画面に切り替わりました。ブタの兄弟たちは、なにがあったんだろうかとテレビの画面を食い入るように見つめました。

「臨時ニュースです。今日のお昼まえに、大ブタ島の西にある砂浜に一隻の貨物船が漂着し、船には12匹の痩せこけた乗組員のブタたちがのっていました。この乗組員のブタらに40度ぐらいの発熱が確認できたため、ブタ第一病院に緊急入院をさせたうえで検査をしたところ、ブタの乗組員12人全員から、新型コブタ・ウイルスが検出されました。このとても危険な新型コブタ・ウイルスに効く薬やワクチンは、いまのところ存在しません。なので明日から島じゅうの学校は休校になります。いまテレビをご覧のみなさん、このウイルスは大変危険なウイルスなので絶対に不要不急の外出はさけてください」

 するとテレビに国際ノーブタル賞のブタ生理学・医学賞の受賞者でトンキョウ大学ブタ医学部教授のヤマブタ教授が出てきました。

「みなさん、この危険な新型コブタ・ウイルスに対して、もし私たちが何も対策をしない場合には、この島でもウイルスの感染が広がって半分以上の住民のブタたちが死ぬことになるでしょう。困ったことに新型コブタ・ウイルスには、まだ有効な薬やワクチンがないので、みなさんの命を守るため、そして感染拡大を防止するため、いますぐマスクをつけてください」

するとテレビを見ていたトン太郎兄さんは青ざめた顔をして言いました。

「ブタノスケ、いますぐマスクを買いにいくんだ!」


島の商店街にある薬局では、マスクを買い求めるブタたちで長い行列ができていました。ブタノスケは三時間も列に並んでいましたが、結局マスクは売り切れになってしまい買うことはできませんでした。

「兄さんたち、おこるだろうな」とブタノスケはつぶやきました。


ブタノスケがブタ小屋に戻ると、トン太郎兄さんもトン次郎兄さんも、しっかりとマスクをつけていました。

「あれ?兄さんたち、どこでマスクを手に入れたんだい?」

「役場から送ってきたんだ。ブタノスケの分もあるぞ」とトン次郎兄さんはブタノスケに青い袋に入った白いガーゼのマスクを手渡しました。

「このビニールのカーテンも役場から送られてきたんだ。感染対策になるらしいよ」

そう話をしながら今度はトン太郎兄さんが透明なビニールのカーテンを袋から取り出してブタノスケに見せてくれました。それを見たブタノスケは『こんなカーテンを部屋につけたら風通しが悪くなりそうでイヤだな』と思いましたが、兄さんたちに話すのはやめておきました。

 それからテレビには、あのトンキョウ大学のヤマブタ教授が出てきていました。

「みなさん、いま急速な感染拡大が続いている新型コブタ・ウイルスは、たとえ無症状であっても感染する恐ろしいウイルスです。感染者数は遂にブタ1万匹を超えました。しかも発病した場合、とても重い後遺症を残す恐ろしい病気であることが確認されています。だから絶対に油断をしてはいけません。外出のときはもちろんのこと、家の中や食事中にも、しっかりとマスクをして、日常の会話も控えめにして徹底的に感染対策をおこなってください」

するとテレビのニュースの司会者がヤマブタ教授に質問をしました。

「先生、どうしたら新型コブタ・ウイルスの感染拡大を抑え込むことができるのですか?」「新型コブタ・ウイルスの感染拡大に対する唯一の解決方法はワクチン以外にありません。でも、みなさん安心してください。ウイルスに打ち勝つことができる強力な切り札であるワクチンが、もうすぐ完成します。みんさんがワクチンの注射を打てば、この感染拡大にストップをかけることができるのです。とにかくワクチンを打つことが大事なのです」

するとテレビの司会者は、いかにも真剣そうな顔つきをつくってから深くうなずきました。 

このテレビのニュースのヤマブタ教授の話を聞きながら、ふとブタノスケは思いました。

『まわりで、あまり新型コブタ・ウイルスに感染した、という話を聞かないなぁ』と。

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