第4話:転生錬金術師は強さに気付く
「あ、あの……危ないところを助けていただき、ありがとうございました! 私、リリミア・セルヴィアーナって言います。冒険者にはなりたてで……」
ペコリと頭を下げる少女。ご丁寧に名前まで名乗るとは。
俺も丁寧な対応を心がけないとな。
「どういたしまして。俺は佐藤慎也って名前だよ」
「サトウシンヤ?」
俺の名前は日本語でしか表現できないからか、リリミアが拙い発音で聞き返してきた。
「呼びにくいならシンヤでもなんでも」
「わかりました! じゃあシンヤって呼びますね〜!」
「それなら俺もリリミアって呼べばいいか?」
「はい、それで大丈夫です!」
初対面の相手と話すのが苦手な俺でも、リリミアとはそれなりに打ち解けて話せている。
というか、久しぶりにちゃんと人と話した気がするな……。
今思えば、仕事では業務連絡しかしていなかった気がする。
「そ、それにしてもシンヤはすごいですね! もしかして有名な冒険者なのですか⁉︎」
「いや、普通の一般人……っていうか、今はプータローかな」
「ぷーたろー? よくわからないですが、強そうですね……!」
ちょっと笑いそうになった。
しかし今の俺は会社員時代と違って、本当になんの肩書きもない。
自由ではあるが、こうして名乗るときにちょっと肩身が狭いな……。
「冒険者にはちょっと興味があったけど、さっき出会った冒険者にお前は向いてないってはっきり言われちゃってな」
「ええええええ⁉︎ な、なんでですか⁉︎ そんなに強いのに……」
リリミアはなぜかめちゃくちゃ驚いていた。
さっきのは相手が弱かっただけで、特別なことは何もしていないはずなのだが……?
「そうでもないらしいぞ。俺のジョブが錬金術師だから向いてないとかで……」
「れ、錬金術師……なるほど? で、でもそれだとなんであんなに強いのでしょう……ますますわからなくなってきました……」
「やっぱり錬金術師は弱いのか?」
「そうですね……そもそも現代に錬金術師の方がいること自体に驚きます。神話の時代に存在した最弱職……戦わせても、支援させても、何をさせても使えない……と言われていますから。人類の進化の過程で錬金術師が生まれることはなくなったと聞いていたのですが……」
神話、最弱。
……さっきの冒険者もそんなことを言ってたっけ。
「おそらく、現代の錬金術師はシンヤが世界で唯一だと思います……!」
「そんなに珍しいのか……」
しかし、その話はちょっとおかしいな。
「もしその話が本当なら、さっきのおっさん冒険者は最弱の錬金術師より使えない無能ということにならないか?」
「ええ、なのでシンヤが錬金術師であることに驚いているのです……」
なるほど、そういうことか。
「あの冒険者は、カール・ルズブリーと言って、かつてこの村では最強と言われた人でした」
「え、そんなに強かったのか……?」
「さすがにベテランの域に来てしまったので全盛期ほどではなくなっていますが、それでも強い人です」
「そんな冒険者があんなことしてたとはな……」
てっきり冒険者の中でも雑魚中の雑魚だと思っていただけに、驚きは大きい。
「昔から素行は悪くて、私以外にも色々な女の子に乱暴してると聞いています。なので注意していたのですが、無理やり路地裏に連れてこられて……」
「さっきの一件で反省してくれるといいんだけどな」
「そうですね。そうだと良いのですが……」
リリミアの反応的には、あれだけでは反省せずにまたやらかす——か。
また遭遇することがあったら、ちゃんと教育しておいた方が良さそうだな。
「にしても、それだけ強い冒険者を倒せたってことは……もしかすると俺も冒険者になれるかもしれないってことだよな?」
「もしかしなくてもそうですよ⁉︎」
リリミアに呆れられたような目を向けられた。
「あの……ちょっと失礼ですけど……もしかしてシンヤって常識に問題があるのではないでしょうか……? 神話の話も普通の人なら知ってますからね……」
「……だと思う」
この世界で来てからまだ一時間ほどなので、ほとんど何もわからない。
わからないところを聞くことすらできないほどには何もわかっていない。
勉強とかでよくある、わからないところを挙げてみろと言われてもそれがわからないのとかなり似ている。
「そういえば、リリミアはもう誰かとパーティを組んでるのか?」
「いえ、誰とも……です。私、鍛冶師なのでジョブが悪くて組んでくれる人がいなくて……カールは例外ですけど……」
「そうか、ならちょうどよかった! 俺と一緒にパーティを組んでくれないか?」
「えええええええ⁉︎」
「リリミアの話通りなら結構俺も戦えるみたいだしさ。嫌だったら嫌でいいけど……」
「私なんて見合わないですよ! シンヤならもっと強いパーティ……Sランクパーティ……いや、勇者パーティでもいけますって⁉︎」
「なんかそういうの面倒くさそうだし……。俺は常識がよくわからないからさ……。リリミアにもっと教えてほしいんだ。……頼む」
というより、現状他に聞けそうな人がいないというのも大きかったりする。
リリミアとは初対面でもスラスラ話せるし、理想的な人だった。
ちなみにリリミアは美少女だが、俺はさっきの輩のように下心があるわけではない。
「そんなの……ダメなわけないですよ⁉︎ やっぱり一人は危険ですし、それに……シンヤなら私にとっても願ったり叶ったりですし」
なぜか、顔を赤らめるリリミア。
でもこんなにすぐに決めてくれて、しかも受け入れてくれるなんて……。
なんでも言ってみるもんなんだな……。
「おお……ありがとな。よろしく」
俺は、右手を差し出す。
リリミアは俺の手を取り——
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
と微笑んだ。
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