第67話 悪魔の依頼 ベリアル

 俺は人間達が言う所の悪魔。人間の悲嘆、増悪、激怒、恐怖等の負の感情を栄養として生きている。死神とはまたちょっと違う。死神は人の死を何処からか嗅ぎつけて魂を捕獲していく。悪魔は人が生きている間から関与し、死後もその魂の扱う。


解放するかどうかは悪魔の気分次第。


 俺はやせ細ってはいるが、ギョロギョロと目に焼き付けるように周りを見ていた人間に目を付けた。その人間はどうやら貴族の庶子らしい。母が死に貴族であった父が子供を引き取った。その庶子は案の定、義母や腹違いの兄弟から虐められていた。


小説や歌劇にはよく出てくる内容だな。物語なら庶子は真っすぐに育ち、良い相手と出会い、結婚して幸せな家庭を築くといった感じだが、実際は違う。壮絶な苛めにより心を歪ませ、その人間は深く家族を恨んでいる。負の感情が他の人間とは比べ物にならない。


こんな良い餌は中々いないな。


俺はそっとその人間に囁く。『復讐がしたくないか?』と。喜んで魂を捧げる事を誓った。馬鹿な人間だ。


 そうして俺は契約をし、復讐を始めた。なに、それは簡単な事だ。ちょっと馬車に乗った所で馬を脅かしたり、毎晩ゴーストのような姿で徘徊し、気を狂わせたりするだけだ。ちょっとした事で人間はすぐに死に至る。脆い存在だな。


そうしている内に気が付いた。この契約した人間は自分を陥れてきた周囲の人間が死ぬたびに狂喜している事を。最初はそれほど恨みが募っていたのだろうと思っていた。


復讐をしていくうちにこいつも壊れているんだなと。人間の身でこれほど罪を犯せばまず神の下へはいけない。復讐は行った。


後は魂を回収するだけになった。


「人間よ、契約を果たすときがきた。その命、いただこう」

「おい、悪魔。俺は恨むやつ全てに復讐をした。満足だ。死んでも構わない。だが、気になる事があるんだ。お前の側で人間の欲望を見ていたい」

「そうか。面白いな。よし、ただの気まぐれだが少しなら俺の側にいることを許してやろう」


そうして魔女に頼み、痛い出費ではあったが薬を得た。そして俺はその人間の元へ行き、薬を差し出す。


「さぁ、用意してやったぞ。飲むか、このまま死ぬか選べ」


すると何の迷いもなくそいつは薬を飲んだ。本当に変わったやつだ。薬を飲むと人間の身体は死ぬ。そうして身体から浮かび上がった魂を取り出すと、その魂は小さな悪魔の形をしていた。話す事は出来ないらしく、キーキーと騒ぐ。


 そうして俺は相棒と呼び、少しの間連れて回った。どうやら相棒は元人間だったせいか人間の機微に鋭く、意気揚々と俺の仕事を見つけてくる。そうして人間の落ちていく様を見ては腹を抱えて笑っている。悪魔より悪魔だな。


これはこれで面白かった。


だが、そう長くは続かないのが世の常。当然の事ながら悪魔達が集まる会議でバレてしまった。まぁ、隠すこともしていなかったからな。俺はみっちりと叱られたさ。悪魔なんて好き勝手に生きているようなもんだから叱られた程度だが。


「おい相棒、お前は罰として天界に行く事になった。本来なら地獄行き決定だったが、神の下で全て浄化されるらしいぞ。じゃぁな」


本来なら神は魂に直接関与することはないらしいが、事態を重く見た神は直接この魂の汚れを浄化すると通達があった。相棒は楽しいものが見られた、思い残すことはないと筆談し、一筋の光と共に消えていった。


あいつの事だいつの間にか天使見習いとして人間の世界に帰ってきそうだな。

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