第66話 悪魔の依頼

 ここ最近は依頼がないのでのんびりと過ごしている。


「カイン、暇よね。何か面白い事はないかしら」

「エイシャ様、ユニコーンが今度いつ森に来るのかと聞かれました」


 カインは偶に私のお使いとして色々な場所に薬を届けてもらっているの。その時に言われたのね。


「そうね、最近は森を荒らすような人間も居ないのだし私が行かなくてもいいんじゃないかしら?」

「エイシャ様が来られる事を首を長くして待っておられるようですが」

「……そうね。今度飼い葉を持ってピクニックにでも出掛けましょうか」


 私はカインとそう話をしながらお茶を飲んでいると、突然結界を突き破るような魔力を感知する。カインもその強い魔力に気づいて頭上を見上げている。


カシャン。


小さく頭上の結界が割れたと感じた所から魔力の塊がジワリと浸食してくるような不快感で眉をひそめた。その魔力は私の向かいにある席に集まっていくとブワリと形を取り出した。

赤髪に一筋の黒い髪。金色の目をした若い風貌をした男が現れた。


「エイシャちゃ~んっ。俺っちだよぉ~。ひっさしぶりぃ~」


私は黙ったままでお茶を飲んでいるとカインは少し驚いたような素振りをしている。


「カイン、結界の外へ投げ捨ててちょうだい」


カインは無言のまま頷くとそこ男の首根っこを捕まえて結界の穴が開いている部分から外へと投げ捨てた。が、煙のようにまた席にブワリと何食わぬ顔で戻ってきた。


「相変わらずだなぁ~」

「ベリアル、悪魔の貴方が何のようかしら?」

「ちょ~っとお願いがあって来たんだよぉ」


男は重力なんて無いかのようにくるりと上下反転し、私を見つめる。


「今回の依頼は何かしら?」

「ちょっとさ~難しいと思うんだけどぉ」

「……あら、ベリアルが持ちかける話に簡単な事なんてあったかしら?」

「う~ん。ないねぇ!!でも今回も君にしか出来ない事なんだよぉ~。早速だけど、魂の状態を長く維持出来るような方法ない?」

「結界があるじゃない」

「魔法を使わない方向で。俺っち~ちょっとの間、その魂を側において置きたいんだよねぇ~」

「あら、貴方が執着を見せるだなんて……。神界にでも魂と一緒に帰る気なのかしら?」

「え~神界に帰ったら速攻で俺っちお尻叩きの刑だよ。神様怒っちゃってるもん」

「いつまでも怒らせてる貴方が悪いわよ。所で魂の状態を維持出来る様な方法だったわね。報酬は?」

「念玉。これでどう?」


ベリアルはニヤリと笑って珠を何処からか取り出してみせた。ビー玉のようなサイズだが、その珠から何やら黒い魔力が漏れ出ている。


この念玉という物は様々な種類の魔法やスキルが貯められている特殊な珠。悪魔のベリアルが報酬と言って渡す物だきっと碌な物ではない。けれど、悪魔が持ち歩く程の物だ。興味が湧かないでもない。


「いいわよぉ。作ってあげても。まだその人間は生きているのよね?」

「うんうん。まだピンピンだよ~。出来れば箱に閉じ込めるような事はしたくないんだよねぇ。連れて歩きたい」

「アクセサリーなのかしら?」

「うーん。それとはちょっと違う感じ?」

「難しいわね」


 私は少し考えた後、鍋に向かう。魂を扱うとなれば普通の薬草では効かない。母から貰った薬品と神界の花。そして地底の血。それを鍋に入れ、魔力で練り込んでいく。流石に流し込む魔力の量が多すぎて一瞬グラリと傾いたけれど、なんとか完成させた。


「ベリアル出来たわよ。欲しいのはこれでしょう?」


私は出来上がった液体を小瓶に入れて見せる。液体は黒々としていてとても美味しそうには見えない。まぁ、飲んでも美味しくないわ。味は加味していないもの。


ベリアルは小瓶をジッと魔眼で見た後、すぐに椅子に座って喜び始めた。


「うんうん。これだよコレコレ~。俺っちはこういうのが欲しかったんだよ~流石エイシャちゃん!!俺っち感動しちゃったよ~。今度ユニコーンの所に行くんでしょ?これあげちゃう。じゃぁ、まったね~」


そう言うと、ベリアルはまた煙のようにブワリと何処かへ消えていった。


テーブルに置かれていたのは小さな木の実。一見普通に見えるこの木の実。絶対何かあるに決まっているわね。私はそう思いながら瓶に木の実を入れて封をする。

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