第54話 九尾の里 親方side
「きゃぁぁ!!」
「親方様ぁぁー、お逃げ下さい!!」
私を呼ぶ声と共に怒号と悲鳴が聞こえてくる。
「どうしたのじゃ!?」
私は慌てて屋敷から悲鳴が聞こえる方へと向かうと人間達が仲間を連れ去ろうとしている。私は里を守るために人間へ攻撃を始めた。
人間達は反撃する事なく何故かあっさりと逃げ出して行く。不可思議な行動だ。だがその理由がすぐに分かった。
里の中央へ足を運ぶと魔法陣によって壁に打ち付けられた1匹の九尾の姿。私の次に里を継ぐ娘、サクが人間達によって瀕死の重症を負っている。
…許さぬ。
だが、この魔法陣は普通の魔法陣とは違い、九尾対策がされているようだった。触れると私の魔力を吸う。手を離すとサクの魔力を吸う。何という惨い事を。
残っている里の者を確認し、手当を急ぐ。私は指示を出しながらも急ぎ魔力を魔法陣に流し始める。
「皆のもの、また人間達がくるやもしれん。避難せよ」
「親方様、ですが、親方様は…」
「このままではサクの限界も近い。妾がここに近づく者を許す訳は無い。力の無い者は避難し、5尾以上の者は複数で組を作り、連れ去られた者達を調べあげ報告するのだ。何があるか分からん。まだ手出しはするな」
私はそう里の者に指示を出す。魔力を流し続けてそのまま夜を明かした。
朝早くに1人のローブを深々と被った魔術師がサクの様子を見に来たようだ。私を見るなり口角を上げ魔法で攻撃をしてきたのだ。
「小賢しい」
やはり人間は弱いな。魔力を吸われなければサクもこのようにはならなかったものを。私はサクに魔力をながしながら魔法使いの攻撃を交わしていく。
人間は焦っているようだ。私は次に攻撃される前に人間の首を刎ねる。呆気ない。
この魔法陣はどうやらこの魔法使いが作ったようだな。魔力の痕跡が残っている。普通の陣であれば作成者が死ねば陣もきえるのだが。これは厄介だ。
里の者達の報告を待ち、私は魔女に依頼に出かける。その間は里の者達が交代でサクに魔力を流す事になった。
数日間魔力を流し続けた私は9尾あった尾も3尾まで減っている。見た目も退行してしまった。私の事はいい。早くサクを助けねば。
私は魔女の森へと向かい魔女に協力を願いでた。魔女に対価を渡すとすぐに里へと向かってくれた。
魔女はローブの袂から出した赤黒い粉を魔法陣に吹きかけて陣を破壊した。やはり魔女は魔法陣に詳しいな。
九尾は基本的に魔法陣を使わないから知識も少ない。そのまま彼女は私が教える間も無く人間の村へ向かって行った。サクを村の者に任せて私も後を付いていく。
魔女は人間を追い立てるように家を壊しながら村の中央へと囲んでいく。
私は村に捕らえられた仲間の魔力を感じる1番広い建物へと入っていく。すると、仲間が手足を縛られて狭い部屋に押し込められている。
人間ども、許さん。
仲間を解放してから村の中央へと向かうと、人間達が魔女の恐怖に耐えきれずに叫んでいる。
魔女は村人を残して人間が言っていた国へと転移して行った。
私は魔女から貰った魔石を飲み込む。これだけの人間の命を石に変えても魔力は大して無いのね。ようやく4本目の尻尾が生えた程度。
仲間と共に幻術で残った人間の生命力を奪っていく。すると、突然。目の前が光ったと思えば捕らえられた仲間4人と王子が現れた。
「親方様!ただ今戻りました」
彼女達は涙を流しながら私に膝を突く。魔女に魅了され、動けなくなった王子を捕まえて締め上げながら少しずつ魔力を絞り取っていく事にした。
魔力でジリジリと締め上げていると最後の1人が転移されてきた。
「親方様、只今戻りました」
一緒に転移されてきた男も締め上げようとした時、
「待って下さい。この宰相だけは私達を里へと帰れるように計画し、保護しようとしてくれたのです。どうか慈悲を」
私は宰相をジッと見つめる。
「ふむ。貴様が良心か。… カリン、城の作業が終わるまで面倒を見てやれ」
そう言って里で1番器量の良いカリンを宰相に付ける。魔女の事だ、今頃城の掃除をして帰った頃だろう。
私は共を連れて城へと転移した。
「そこいらに死体が転がっておるな。ケイリン、掃除だ」
得意ではないが魔法を使い浄化していく。王族達のいた所にはいくつもの魔石が転がっていたのでそれを拾い飲み込んでいった。王の私室にはサクから奪って作った魔石も見つかった。
「妾の魔力も回復したな。後はサクの分だ」
城に残った人間を排除した後、一通り掃除して里へと戻る。
「親方様!お帰りなさい!」
避難していた里の者達が帰ってきたようだ。
「待たせたな。これをサクに飲ませてやれ」
そうしてサクも元に戻った。
その後、宰相はこの里で少し暮らしたが、城が気になると言うのでカリン達を共にさせて城へと帰らせた。
もちろん里へ今後一切手を出さぬと約束させて。どうやら宰相は居なくなった王族の代わりに新たな王として国を守る事にしたようだ。
カリン達は人間に扮し、国が落ち着くまでの間宰相の手を貸す事になった。
これからこの国は栄えて行くだろう。
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