第51話 公爵令嬢の復讐 ラッカside
「お前のような顔の令嬢は世の中に腐るほどいる。それに比べ愛するファナは美しい。その上、優しく慎ましやかだ。そんなファナを傷付けたお前には牢が相応しい」
そう言ってサン国の王子、シャールはラッカを牢に入れようと指示を出そうとしていた。
「お待ち下さいっ!それではラッカ様が可哀想ですわっ。処刑なんて私は望みません。せめてっ、ランサール国の側室は駄目ですかっ?今、25人目の側室を探しているそうですわっ!丁度書類もある事ですからサインすれば助けられますわ」
「なんてファナは優しいんだ。そうしよう。代理で俺がサインしてやろう。ではラッカは輿入れまで公爵家で待機するように」
男爵家令嬢のファナは王子の影に隠れてニヤニヤしている。
「これは陛下もご存知なのでしょうか?」
「いや、後で報告するつもりだ」
「… 了承しました。では失礼します」
なんて酷い茶番なのかしら。
冤罪も良い所だわ。
私はすぐさま公爵家へ帰り、父へ報告をすると父は鬼の形相で王宮へと向かった。生憎、陛下は辺境伯領へ視察に出ていたため1月は帰って来れないという。
わざわざ王子達はその日を選んだのね。
1週間後、ランサール国から公爵邸に手紙が届いた。『ラッカ・レイニードを側室とするが、罪を犯すような令嬢には侍女を許可出来ぬ。最低限の荷物を纏めたらランサール国の後宮へ入るように』と。
公爵家全ての者達が憤りを隠せないでいたわ。もちろん私も。
悔しい。
何故私がこんな目に遭わないといけないの?
私は美しく無いから?
美しくなりたい。全てを見返してやりたい。
はらはらと自室で涙を流していると、母がそっと教えてくれた。魔女様の事を。私はすぐに従者を連れて魔女様の家へと向かったわ。父が用意してくれた対価を持って。
恐れていた森も何とか魔物に遭わずに抜ける事が出来たわ。森に佇む1軒の小屋。魔女様はローブを着て出かけようとしていたのかしら?嫌な顔一つせずに出迎えてくれたわ。
美しくなりたいと願い、対価を渡すと魔女様は上機嫌になり薬を用意してくれた。魔女様は鼻歌を歌いながら頭の先から足の先まで薬を塗ってくれる。
痛い。皮膚が引っ張られ、焼けそうに熱くて気を抜けばのたうち回ってしまいそうなほど。
驚いた事に暫くすると痛みはぱたりと止み、魔女様は呪文を唱えて完成だと鏡を見せてくれたわ。
…これが本当に私?
確かに、ベースは私なの。
何処をどう取っても。けれど、今まで見てきた私とは違う人物が鏡に映っている。
魔女様の魔力のおかげで少しばかり好意を持ってくれるの?魔女様には感謝しか無いわ。
私は魔女様にお礼を言って邸に急いで帰るわ。目を覚ました従者も護衛も私を見るなり顔を赤らめてしまっている。
邸では既に荷造りが終わっていた。
私が帰ってくると邸の者達全てが出迎えて母も父も変わった私に驚いてはいたけれど、涙を流していたわ。父は陛下が王宮へ帰ったらすぐにランサール国から帰れるように手配してもらうと強い口調で言っている。
「お父様、私、覚悟は決まりました。お母様、全て魔女様のおかげですわ。最後に一つだけ良いでしょうか?」
本来なら罪人には許されない事だけれど、出立前に王子に会い一矢報いたいと願い出た。父も母も頷き、父は権力を振り翳して宰相、王子とファナの前に私は立つ事が許された。最初で最後の我儘。
「ラッカ・レイニード公爵令嬢がお見えになりました」
騎士はそう告げて扉が開かれる。
そこには陛下以外の宰相や大臣が揃い、王子とファナもその中にいた。皆、私を見て驚き、目を見開いてい動けないでいる。ある者は顔を赤らめ、ある者は女神だと膝をつき始めた。
その中で王子は顔を真っ赤に染め上げ、無言で私の前まで歩いて来てエスコートをしようとする始末。
「婚約者でも無い王子様にエスコートは頼めませんわ。宰相様、私はそこの男爵令嬢のファナに冤罪をかけられ、今から私はランサール国へと侍女を付ける事も出来ずに1人嫁ぎに行きます。
罪を着せられ、私、とても悲しくて無念ですわ。私は何もしていないのに。殿下、私は25番目の側室として後宮から生涯出る事はもう叶わないでしょう。では行って参ります。どうぞお幸せに」
「待ってくれ!!」
私は呼び止められ、殿下に抱きつかれそうになったのをサッと躱し、馬車へと乗り込むとランサール国へと向かった。
私はランサール国までしっかりと騎士達に守られて到着する事が出来た。ファナのあの悔しそうな顔、それに殿下は私を見惚れていた。
最後に見れてすっきりしたわ。
もう思い残す事は無いわ。
後は、後宮で生涯静かに暮らして行くのね。
私はランサール国に到着し、謁見室で夫となるダナン殿下と会う予定となっている。謁見室には既にランサール国の陛下と王妃様がおり、挨拶を済ませた。
「先程、サン国の宰相からの知らせを受けた。冤罪であったとはな。妃教育も済んでいると聞いておる。将来の王妃として我が国で迎えよう」
「ラッカと言いましたわね。こんなに美しいご令嬢を手放すなんてサン国はどうなっているのでしょうね?返してくれって言われても絶対返さないわ!これから義娘として宜しくね」
陛下にも王妃様にも受け入れられたようでホッとする。
「有り難き幸せです」
私がそう答えていると扉が勢いよく開かれた。
「父上!俺は罪人など娶りはしない!追い返してく、れ…?」
私は振り返ると声の主と目が合った。
「こらっ、サムル!ラッカ嬢は罪人では無い。冤罪をかけられたのだ。サン国からも書状がきておる。こんなに素晴らしい令嬢は何処にもおらんのだぞ?帰国させても良いのじゃな?」
私は礼をする。
「サムル殿下、お初にお目に掛かります。私、ラッカ・レイニードと申します。第25側室として婚姻後は後宮で誰にも会わず、ひっそりと暮らして行く予定だと聞きましたが、帰国してもよろしいでしょうか」
サムル殿下は顔を真っ赤にして震えているわ。相当に嫌われているのかしら。そう思ったのも束の間。
サムル様はびっくりするほどの速さで私の側まで歩み寄るとガッと私の手を取った。私はびっくりして震えていると、
「…美しき姫。まるで女神が降臨したかのようだ。帰国は許さぬ。一目惚れだ。私の唯一の妃となって欲しい」
「… お褒めいただき有難う御座います。嬉しいですわ」
「父上!盛大に式を挙げたい。ラッカの美しさを国民に知らしめたい。我が寵姫を」
陛下ははははと笑いながら了承した。
1ヶ月過ぎた頃、サン国の陛下から私の婚姻の取り消しやラッカの帰国を望むと使者が来ていたけれど、ランサール国の陛下もサムル殿下も拒否したの。
そして本来なら25番目の側室は婚姻届のみのはずだけれど、私は盛大な結婚式を挙げてもらい、国民へのお披露目もあったわ。
父と母はランサール国で大事にされていると知り、泣いていたわ。側室達は私が寵姫となった事で争いを辞め、下賜される形で後宮を去っていった。
ラッカ王妃は3男2女と子供を産んでもサムル殿下の寵愛は冷めず、生涯幸せな王妃として後々語られる事になる。
サン国の王子?彼は王太子になる事なく辺境の地に幽閉となったわ。瑕疵の無い令嬢を罪人に仕立て国外に追放した罪で。
ファナはサン国で処刑となるはずだったけれど、サムル殿下の意向でランサール国へと連れて来られ、拷問後、市中引き回し、公開処刑となった。
魔女様、有難う。
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