第3話 ロード国の姫 ライアンside
ロード国では一騒ぎあった。王女ローゼリア様が部屋から出てこない。侍女が心配して部屋に入るとベッドの脇で倒れていたようだ。どれだけ声を掛けても揺すっても目を覚さない。
国中の治療師や聖女を呼び、治癒魔法や呪い等の解呪、解毒魔法を思いつく限り掛けて貰ったのにも関わらず、だ。
妖精姫と称される程の美しいローゼリア様は今年21歳。ローゼリア様の強い希望で侯爵家であり、騎士団の副官である俺の所へと降嫁が決まった矢先の出来事だった。
少しずつだが眠っているローゼリア様は弱ってきている様子。なんとか、我が妻となる姫を助けたい。その想いで伝承となっている魔女の話を信じ、魔女の森へ向かう事にした。
本来、何人たりとも魔女の森へ入る事は許されない。そして森には魔獣が多く住み、帰らぬ者も多いと聞く。陛下の願いもあり、俺は親の心配を振り切って魔女の森へと踏み入った。
俺はいつ遭遇するか分からない魔獣にドキドキしながらも姫を助けたいという思いで進んでいった。魔獣は不思議と遭遇する事なく魔女の家へとたどり着いた。扉をノックすると、
「はぁい」
と若い女の声がした後、出て来たのはレースアイマスクをした絶世の美女だった。目を隠しているにも関わらず魔女の美しさに驚きを隠せない。
俺は部屋の中へ案内される時に彼女の足に気付く。蛇だ。魔物か?周りを見渡すが、特に俺を殺そうとする気配はない。
やはり噂通りの神なのか?不思議に思いながらも再び大蛇のような尾を見つめていると、
「ふふっ。私の足が気になるの?」
と笑われてしまった。彼女は気にしていないようだ。俺は王女を助けて欲しいと魔女に願うが、魔女は俺を見て微笑っている。
対価としてお金より素材だと言う魔女。その素材はとても貴重な物だった。ローゼリア様のために。
王宮に帰り陛下にすぐさま話をすると、俺を含めたドラゴン討伐隊が結成された。
ラミアの涙は宝物庫に保管されていたようだ。虹の花についてはドラゴンの住処に咲いているらしい。
俺はすぐさま部下と共にドラゴンの住処へと向かった。ドラゴンの中でも1番弱いとされているグリーンドラゴンの住処に着くと、ドラゴンは何かを感じたのかこちらへ攻撃をしてきた。ドラゴンは火を吐き、尻尾で叩きつけ容赦の無い攻撃をしてきた。
俺は必死に部下達を庇いながらドラゴンを斬りつける。やっとの事で倒した時には俺の右目も左指も無くなっていた。
他の騎士達も怪我をしているが聖女の治癒で完治する程度のようだ。王宮に戻り、聖女の魔法で他の騎士達は回復したが、俺だけは欠損したままだ。
このままだと騎士団の副官も降りなければならないだろう。
覚悟は決めている。
魔女エキドナ様に診てもらうために素材を持ち、魔女の森へ再び入る。エキドナ様は前回と同じように迎え入れてくれた。
彼女は俺の姿を見て
「・・・あらあら。まぁ、座りなさい。こんな怪我をするまで頑張っちゃって。仕方のないコね。王女様は貴方の何かしらね?聖女は治してくれなかったの?」
そんな言葉を掛けてくれた。騎士達の命を掛けてまで降嫁するローゼリア様を目覚めさせる意味。俺の中で気持ちが揺らいだ瞬間だった。
エキドナ様は俺の揺らいだ気持ちを感じたのか、俺の膝の上に座ると視線を外させないように顔を持ち、ジッと見ている。
レースアイマスク越しに見える蒼眼が何かを探るように。
じっと見つめるその姿は俺の心を鷲掴みにして動けなくさせる。
エキドナ様の顔が近づいてくる。柔らかな感触。痺れるような甘美な口付け。
今までそういった経験はして来たはずだが、その記憶すら忘れさせてしまうほどの深い口付けに酔いしれてしまう。
もっと、もっと、と。
口付けをしている間にエキドナ様は俺の目に何かを入れた。
その瞬間、我に返る。
俺にはローゼリア様がいるんだ。キスの甘美な余韻に浸りながらもエキドナ様の身体を離す。
エキドナ様は魅惑的な笑みを浮かべると俺の身体はふわりと持ち上げられてベッドへ運ばれてしまう。気付いた時には
「ライアン、おはよう。目覚めはどう?」
とエキドナ様は微笑んでいた。どうやら意識を失っていたようだ。エキドナ様に言われて初めて気付く。
・・・視覚が戻っている。
両手を見つめると、指も戻っている。目を瞬いても指を動かしてみても違和感なく動いている。エキドナ様は義眼と義指だと言っていた。
エキドナ様は俺の女神ではないだろうか。王女様を目覚めさせる道具も魔獣退治のための粉も用意してくれていた。エキドナ様には敵わない。俺の全てを捧げても良いとさえ思ってしまう。俺はエキドナ様に深々と頭を下げて王宮へと戻った。
エキドナ様の読み通り、ローゼリア様の部屋に天井の隅に魔獣は擬態して居たようだ。粉をかけるとあっさりと落ちてきた。落ちてきた所をしっかりと仕留める。
ローゼリア様は魔獣に心を少しずつ食われていたらしい。エキドナ様が用意してくれた心の欠片をローゼリア様の胸に当てるとスッと体内に消えたと同時にローゼリア様が目を覚ました。
「おはよう?私の部屋に集まって何の用?早く出て行って頂戴」
騎士や侍女の歓声とは違い、ローゼリア様は不機嫌な様子だった。
「ああ、待って。ライアン、貴方額に怪我をしているわ。右目も青い。私、貴方の顔が気に入ってお父様に無理矢理婚約させてもらったのに。残念だわ」
侍女や騎士達はフォローをしてくれている。が、ローゼリア様は不満な様子を隠そうともしない。
・・・あぁ。
俺は間違えてしまったのだろうか。
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妖精についてなのですが、ここでは妖精は姿は美しいが自分本意に行動する事が多く、時に意地悪だったり、いたずらをしたりする。という風に人間達は理解しています。
王女は妖精姫と二つ名で呼ばれている事から、言わずもがな。
騎士は、純朴すぎましたね。
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