第184話 彼らの協力

 威風堂々、胸を張り和島くんは件の三人と対峙する。ぼくは覆面を被って、男子トイレの中をこそこそとのぞき込んでいた。だれかが言っていたな。真逆の存在だと。


 ふぅむ、的を射ていた。


 ぼくと真逆の存在は、それを探偵と呼んでいいものかと悩む推理を話しはじめる。


「きみたちが佐野くんを落として事故を起こした張本人だな。あれ、わざとだろ?」


 三人は口々に否定するけれど和島くんはまったく動じない。確信を持っているのか力強く言いきった。


「ぼくは見ていたんだ。間違いはないぞ。落とされた佐野くん自身も目にしている。きみらの上の段で真面目に取り組んでいた生徒なら、他にも目撃者がいるはずだぞ」


 きっと痛いところを突かれたのだろう。三人はお互いの顔を見合わせている。かくいうぼくも痛いところを突かれた。目撃者になりそこねた身としては、耳が痛い。


「いいか。もう二度とあんな真似するんじゃないぞ。先生にはぼくから話しておく」


 くるりと踵を返す和島くんに、

「ちょっと待てよ」

 と声がかかる。


 三人は口を揃えて騒ぎ立てた。


「ああ、するしかなかったんだ。むしろ、俺たちに感謝してほしいくらいだ」


「あのまま練習を続けたところでピラミッドは完成しなかった。佐野には無理だ」


「本番まで日数もない。お陰で成功しただろ。完成しなくても良いって言うのか?」


 ふぅむと唸った。彼らの言い分も一理ある。経緯はどうあれど、ピラミッドの完成という一面に対しては結果を出している。倫理観を度外視しすぎてはいるけれども。


「そんな勝手なこと──」

 と言い返す和島くんも言葉に詰まった。


「佐野だって自分でわかってるからよ。何も言ってこないんじゃねえの?」


 はて、いったいどうする気なんだろう。話し合いが盛り上がってきた隙をついて、ぼくは中の個室へとカサカサ移動した。


「だからと言ってきみらのしたことは認められるものじゃない。先生には報告する」


「なあ、だから待てってば。良いのか? 俺らまで抜けちゃったらピラミッドはもう絶対に完成することはないんだぜ」


「みんなの今までの努力もパアだな」


 個室に入ったものだから和島くん以外は誰の声かわからなくなっちゃったけれど、追い詰められていることだけはわかった。ふぅむ、どうしたものかなと頭を悩ます。


 ぼくより先に、和島くんが答えを出す。


「──いや、それでも正しくはないんだ」

 と残し、去っていっているのだろうか。


 遠くへ呼びかけるような声がした。


「先生も信じねえよ。俺らは認めねえし、佐野も、まわりも言うはずがねえからよ」


 まあ、確かにねと思う。その事故が故意なのかどうかは判断がむずかしいものだ。犯人の自供でもあれば別なんだけどさ、とスマホの録音アプリをそっと停止させた。


 和島くんは手ぶらで来て、手ぶらで帰っていったのだろう。それはもったいない。ぼくのように抜け目なく、こそこそとしてなきゃダメだったね。とは思うもののだ。


 これをどうしようかとスマホを眺める。


 証拠としてはこれで十分。犯人の自供、動機、新たな脅し、の豪華三点セットだ。和島くんの証言と合わされば、罪を逃れることはまず不可能となるだろう。


 だけどその場合、彼らが言っていたように人間ピラミッドの建設は未完成のままで終わることになる。ピラミッドの完成には彼ら三人の協力が必要不可欠なのである。


 ここまでの努力を無下にするのも忍びない。どうにか協力を仰げないものかな。悶々としていると三人の愚痴が聞こえた。


「なんだよアイツ、調子乗ってんな」


「むかつくよな」


 苛立ちを隠せないのだろう。何かを蹴るような音もする。ぼくが身を縮こまらせると、ぞくりと冷たい声がした。


「──落としちまうか」


 ごくりと息を呑む。


「あいつピラミッドのてっぺんだろ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る