第181話 覆面の知り合い
鬼柳ちゃんはなにか不穏な物を感じ取ったかのようだった。それは探偵の勘って奴なのだろうか。女の勘だと言ってた頃よりはずいぶんとマシになったように思える。
ただ、こと探偵に関しちゃぼくも黙っちゃいられない。一家言ある身だ。出し抜かれたままなのは癇にも障ろうというもの。
それに遅ればせながらではあるけれど、ぼくの黒幕の勘が調べろ、調べろと、やかましいほど耳元でささやいて止まらない。
だったら従ってみようか。男の勘に。
調べるのなら早いほうがいい。有耶無耶にしてはぐらかしてはおいたけど、面倒見の良すぎる鬼柳ちゃんのことだ。その内にきっと手を出さずにはいられなくなる。
解決されちゃう前に、かき乱さないと。
謎の使命感を胸に秘めて、ぼくは謎を追い求めて奔走していく。ピラミッドのメンバー達にはそれとなく話を聞いてまわり、落ちた感覚のあるひとを探していった。
いったい誰から崩れはじめたのかと探っていくと、不思議なことがわかってきた。中心に近いほど落ちた感覚が強いらしい。そこから逆算していったなら、最初に崩れたであろう位置が浮き彫りになってくる。
崩れたのは、ピラミッドを担う中心点。
そこには屈強な細マッチョたちが集められているはずだった。そしてまわりのひとの意見も参照してみると、どうやら崩れだしたのはひとりじゃなさそうな雰囲気だ。ひとりかふたり。あるいはさんにんか。
奇しくも彼らは縦のラインに位置した。
もしも彼らが、
「せーの」
と息を合わせて力を抜いたとするならば崩壊を招くのなんて容易いこと。
ピラミッドは意図的に壊せるのだ。
度重なる失敗に土台となりつづけてきた彼らが腹を立てていたのは、火を見るよりも明らかだったじゃないか。もしあれが、ただの事故なんかじゃないのだとしたら。
先生の補助がなくなってしまう居残り練習で、明確な敵意をもって行われた攻撃だったとするならばだ。彼らが攻撃のターゲットにしたのは、その上段に位置していたぼくや佐野くんだったということになる。
いや、より高い位置にいた。槍玉にあげられていた佐野くんの方になるのだろう。
──ゾクリとする。
彼らの狙い通りなのかはわからないけど佐野くんは負傷した。その代わりに新たなメンバーが入ってピラミッドが完成する。
チームが一丸となるために、完成を求めるあまり。非力だった佐野くんは邪魔者となって排除されてしまったんじゃないか。それを得意とするひとの手によって、ただ得意じゃなかったというだけの理由で。
そうだとしたらあんまりじゃないか。
得意なことを得意がるのは好きにしたらいい。天狗になればいいし、たとえ仙人になっても構いやしない。ぼくらは羨むし、すごいなあと手だって叩こうじゃないか。
でもだからといって、出来ないひとをバカにしてもいいわけじゃない。ましてや実力行使で排除してしまおうだなんてのは。それはちょっとばかしちがうじゃないか、と運動出来ない代表であるぼくは思う。
これはどうやら放っておけないようだ。
真相を探る身体には自然と熱がこもる。はて、佐野くん本人は何かを知っているのだろうかなと彼の様子をうかがってみることにした。彼のいるクラスを探して、廊下の窓沿いをこそこそと移動していると。
ガラリと教室のドアが開き、中から突如現れた覆面レスラーがぼくに言ってくる。
「お、怪しいやつめ。何者だ」
「それはぼくのセリフだと思うな」
なんで学校に野生の覆面レスラーがいるんだよとオロオロしていたら、
「わかんない? ほらぼくだよ、ぼく」
と覆面を指さしている。
「うん、わかんない。覆面だもの」
覆面の知り合いはいなかった気がする。制服に覆面というおかしな格好。それでもどことなく見覚えのあるぽっちゃり体型。レスラーは覆面を外そうとするけれども、上手くいかないようで助けを求めてきた。
ふぅむ、怪しい奴め。何者なんだい。
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