探偵の裏側

第47話 電子の海

リメイク前

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「犯人は貴方だったんですね」 


 傷付いた脚を引きずりながら、息も絶え絶えに、その探偵は真相に辿り着いたようだ。だがしかし、九龍院探偵が指差す先には誰もいない。やはり彼の身体は、まだ回復仕切っていなかったのだ。論理的な推理を出来る状態ではなかったのだろう。


「どこを指差しているんだ、九龍院君。気でも狂ったのかね。大体、素人同然の君の推理は、前から当てにならないと思っていたんだよ」


 彼を快く思っていない君塚警部は、ここぞとばかりに彼を誹謗中傷していく。非協力的な態度もここに極まれりだ。


 誰もが探偵の言動を疑い始めた。彼を心から信用している者など、ここにはいなかったのだ。今まで彼の推理に、想いに、救われて来た者達ですら……。彼が守って来たものとは、いったい何だったのか。


 警部達が探偵を残し、その場を離れようとしたその時、カランと空き缶が転がった。風でも吹いたのだろうか。誰もがそう思った。だがこの探偵、九龍院は不敵に笑っていた。


「逃げるんですか? 透明人間の兵動さん」



「なんだそりゃ」


 思わず声に出してツッコんでしまった。突然の展開についていけず、つづきを読むのを中断した。透明人間が犯人とか、そんな展開ありなのだろうか。


 探偵がなぜそれを見破れたのかは、すこし気になるところだけれどね。気が向いたら、またつづきを読んでみようかな。


 ネット小説のページを閉じ、スマホ片手に電子の海をたどっていく。日課になっている各サイトを巡回していった。動画サイトで新着の確認をし、SNSの返信をそつなくこなし、ふうとひと息ついた。


 スマホは便利なものだなと思う。だいたいの事が、この手のひらサイズの中で出来るんだもんな。知らなかった知識も、最新の情報も持ち運ぶことが出来る。


 ひょっとしたら、ぼくの家の晩ごはんまで調べられるかもしれないね。正確かどうかは別の問題だけれども。


 ブックマークしてあったサイトを開き、パスワードを入力していく。表示されたページは会員制の匿名掲示板だ。


 相手は誰だか分からないが、語られる内容はぼくらの学校の事。ちまたで『学校裏サイト』と呼ばれている物のひとつだ。


 たんなる噂話に過ぎないものもあれば、紛うことなき真実の暴露もある。匿名性からくる、暴力的な言葉でつづられている。中にはライン超えと言ってもいいものも、チラホラ見える。なかなかにやみ深い。


 生徒ひとりひとりが、世界に発信できる通信器を持っているんだからね。情報の秘匿などできるはずもないよ。壁に耳あり障子に目あり。加えて今の時代は、スマホに口ありだね。


 今日ぼくとすれ違ったあの子が、アイツが、書き込んでいるのだろうな。まったく、油断ならない学校生活だね。


 ザッと目を通し終わったころには、もうすっかり夜も更けていた。いい時間なので寝ようかなと思った時、ふと、チャット欄が目についた。


 リアルタイムで会話もできる、チャット欄。こんな時間でも誰かいるのだろうか。軽く目を通して寝ようかなと思い、参加してみた。眠い目をこすりながら、ベッドでごろごろと横たわり、画面をスクロールしていく。


 人は噂話が好きだね。こんな時間でも、数人はここにいるようだった。しばらく傍観し、とくに目新しいこともないかなと思ったところで新しい話題が提示された。はんぶん眠りかけていたぼくの眠気は、いっぺんに吹き飛んでいった。


 おやおや、これは……。



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