第2話 謎が深まる日曜日
土曜日は人目を避け無事にコンビニで食料を調達し、ほぼ家で過ごしたアリス。
そして訪れる日曜日。
油断はしてはいけない、アリスは一人で電車に乗らなければならないうえに人気がたくさんいるところに行かなければならないのだ。リスクはあるものの朱音というもしかすると天理よりも謎があるかもしれない人物を探るチャンスでもある。
電車の乗り方は未来に教わったが切符はどうやって入手したのか見ていなかったため切符の買い方がわからないアリス。
第一試練、アリスは切符の入手方法を人に聞かなければならない。コミュニケーション能力皆無のアリスに対しては大きな試練だ。
朱音を探るのを諦めるかしかし、迷っていたアリス。そんな時駅員がアリスに声をかけてきた。
「どうされましたか?」
「ぁ…ぁの…え…」
「迷子ですか?」
「け…けん…」
「剣?」
駅員も戸惑っている。そんな時、アリスは目的地の書かれた地図の看板を見つけたためその目的地を指さす。
「あ、そこの駅に行きたいんですか?120円です」
券を入手するためにお金が必要だったのか、と驚きを隠せないアリス。千円を渡し、お釣りをもらい切符を入手するが…
第二試練、右側からくる電車と左側からくる電車どちらに乗ればいいのかわからない。反対側にも同じホームがある。もし逆方向に行ってしまったら?
電車が来た、しかし乗ってもいいのだろうか、もし逆側だった場合どうなるのだろうか。
いかにも怪しい動きをしていたのが目立ったのか先ほどとは違う駅員が話しかけてくる。
「乗らないんですか?」
前までは未来や朱音がついていたからわかったもののアリス自体駅の知識が全くない。アリスは切符を見せてみた。
「その駅でしたらあちら側のホームになります」
危うく逆の行先の電車に乗るところを何とかしのいだ。逆側のホームにいき、電車が来るのを待つ。
電車が止まって扉が開いたが乗っても大丈夫なのだろうか?アリスの後ろ側に人がいるのに驚いてその反動でアリスはその電車に乗ってしまった。
次の目的地はアリスの目指している駅と同じ目的地の場所だった。無事に電車に乗れることができたのだ。電車の中は人が多く、端っこに身を隠すようにして乗り駅に到着。ようやく朱音がいる場所に近くなってきた。あとは歩くだけ。切符を通し駅から脱出し路地裏を伝いながらその場所にたどり着いた。
チェス、将棋は初心者でも無料と書かれていた。
「僕を初心者だと侮るなよ」
そんなことを言いながら地図通り進み将棋同好会にやってくる。思ったより数が多い。この人ごみの中から朱音を探し出さなければならない。すると後ろから声をかけられた。
「おや、新人の方ですか?」
「ぁ…えと…その…」
「試しに対局してみますか?」
アリスは首を横に振る。知らない人物と対局すると途中で話しかけられる可能性があるからだ。
「ぁ…あの…」
「どうしました?将棋をするのは初めての方ですか?」
「ぁ…あか…あか…」
「ん?」
「あか…ね…」
「え?朱音?もしかして新谷朱音さんの知り合いですか?」
こくりとアリスは頷く。その男性は驚いたような表情だ。他の人物も集まってきた。
「なんかあったの?え?この人朱音さんの知り合い?マジで?君お名前なんて言うのかな?」
「ぁ…アリ…ス…」
「アリスちゃん?ん~なんか朱音さんから聞いた覚えがある名前な気がするんだよなぁ、勝負する?」
「あかねと…」
「朱音さんと勝負したいの?」
こくりと頷くアリス。
「朱音さんの知り合いってことは相当強いんじゃないか?今対局してるからちょっと待っててな」
アリスは椅子に座らせられた。
数分後、見知った女性が驚いた様子で声をかけてくる。
「え?アリスちゃん!?」
そう、朱音だ。今は朱音とアリスの近くに人気はない。
「ようやくあえたよ朱音、天理から聞いたよ、ここにいるってね。それにしても大変だね電車というものは」
「アリスちゃんあたしと勝負しに来たとか?」
「当り前じゃないか、僕を舐めないほうがいいよ」
アリスは自信に満ち溢れている。
「いいよ、勝負しよっかー」
「いつまで油断できるかな?」
「飛車とか角落としたほうがいいかな?」
「何を言っているんだ、平手に決まっているじゃないか」
「わかったよ、アリスちゃん先手でいいよ」
「まだ舐めているようだね、振り駒くらい知っているよ」
アリスは正々堂々と戦いたいようだ。アリスは平等を好む。結果アリスは先手となった。
こうしてアリスと朱音の対局は始まった。
新人も来たことで若干対局に注目されるアリスと朱音。
戦いは動き出す。
朱音は楽しそうに言う。
「ふぅんなるほどねー、相振り飛車か」
朱音は王を動かすとアリスも同じ方向に玉を動かした。朱音は何かに気づいたかのようにもともとあった飛車の位置を動かした。真ん中に動かした。中飛車だ。真ん中に飛車が居座り攻める戦法。
それに対し同じくアリスは中飛車で対抗。
次に朱音は妙な動きに出た。朱音は矢倉という囲いで王を完全に守っていたにもかかわらず王をまた同じ方向に動かし守りから一旦抜けた。
対しアリスは銀冠という囲い。アリスもなぜか囲いから一旦抜けた。朱音は何かを理解した。朱音が王を戻すとアリスも王を戻す。朱音が居飛車に移行すると、アリスは相振り飛車に移行する。
「ちょっとアリスちゃんのことわかっちゃったかも」
「どういうことだい?対局中は静かにするのがマナーだよ」
「あたしが勝ってから教えてあげる」
完全に勝った気でアリスを舐めている朱音をどう攻めるかアリスは考えていた。
「攻めてこないの?」
「全く、対局中に私語は厳禁だというのに」
「別に公式戦じゃないんだからそんなに身構えなくても大丈夫だよ」
「そうやって話しかけて僕の思考を探る気だね?」
「大丈夫、もう読めたから」
生意気な、とでも言いたそうな表情でアリスは勝負を続けるがアリスも相当生意気である。
戦況は変わらない、そう朱音はアリスを読んだのだ。朱音が攻めに転じない限りアリスは攻めることはなくアリスは必ず飛車と玉を朱音と同じ縦のマスに置く。向かい飛車、そして王同士絶対に正面にいる。
アリスの思考を完全に読んだ朱音は攻めに転じる。もちろん最初は守るものの少しずつアリスの攻め駒が総崩れ。アリスは攻めに転じる以前に守ることで精いっぱいとなり朱音の飛車角銀桂を利用した総攻撃により守りは崩れアリスは朱音に敗北した。
「くっ…悔しいが僕の負けだ…」
そんなアリスに朱音は異常な瞳を向ける。それは憐みでもなければ呆れでもない、未来に対する親友に向けるそれとも違う、黒龍、明智、さくらに向ける目でもない。
しかしたまにその異常な瞳は天理にだけは最近になって向けられることがアリスはうすうす気づいていた。その瞳を天理ではなくアリス、自分自身に向けられた。その瞳の意味は朱音にしか理解できないだろう。
「その戦い方、何としても相手と同じ立場にいたい、分かるよアリスちゃん。あたしとアリスちゃんは思考が似てるかもね。欲しいなー」
その意味深な言葉の裏に隠された朱音の真理にアリスは気づかない。
「未来もね、一応将棋はできるし何度かあたしと戦ってるよ、一度も負けたことないけどね」
「僕を打ち負かすくらいだからね君は」
「未来は親友だし、でも天理ちゃんとアリスちゃん、二人の戦い方はあたしに興味を抱かせた。強さ弱さは関係ない。あたしはただ欲しい、その思考が、そしてその思考を持っている天理ちゃんとアリスちゃん自体をね」
「何が言いたいんだい?」
「あたしは絶対に手に入れるからね、忘れないでね」
アリスには何のことだかわからなかったがアリスと天理に異常なまでの何かを抱えていることは理解した。
「頑張るといいさ」
「二人ならもっとあたしを楽しませてくれる。何も得られない勝利で勝ち上がっても正直つまらないだけだからね」
朱音は将棋同好会の人物達を見ながら言っている。
「僕と戦っても何も得られないさ、何せ僕の創ったゲームで僕自身が敗北しているのだからね」
「それほど興味を抱かせたゲームを創ったアリスちゃん、そのゲームすら勝ち上がる天理ちゃん、あたしとしては得られるものしかないけどなー」
「勝ち上がっているのは君も同じじゃないか、天理に警戒していたがもしかすると君は天理以上の存在なのかもしれない」
「そんなことはないよー、天理ちゃんはあたしにないものを持ってるからねー」
「君を侮っていた、天理と同じく警戒しなければ」
「あたしが一番警戒するのは天理ちゃん、そしてアリスちゃんかな、同時に欲しい人物に変わりはないからねー」
「ここにきて君を探ろうとしたがむしろ君への謎が深まったな、少しはプレイヤーのことを理解しておきたかったが僕は君の戦い方を見学させてもらうよ、何か得られるかもしれない」
「いいよー、アリスちゃんは対局しないの?」
「僕の目的は君だ朱音、しかし第三者となり傍観者となって君の対局で探らせてもらう」
「別にそれで暇じゃないならいいけどねー」
アリスは朱音と他の人物との対局を見て朱音を探ることにしたが結論から言えばアリスでは朱音をつかめなかった。
「もう夕方だよ、せっかく来たのにあたしと一戦しかしてないじゃん」
「僕は元から君を探るために来たからね、目的は君とのその一戦さ、実力は理解した、まるでここにいる人物の中で一番強いように思えたね」
「さぁ、どうかな」
朱音は小悪魔的な笑みを浮かべ濁すように言う。アリスは朱音が将棋同好会で一番強い人物であることを知らないまま朱音とともに駅へと向かい帰るのであった。
「そうだ朱音、時間はあるかい?」
「あるけどどうしたの?」
「僕もみんなの言うお店に行きたいんだ、一人じゃ怖かったからね」
「いいよー、一緒にいこっか」
アリスと朱音は大きな店に到着する。
「ここでいいかな?いろいろあると思うけど」
アリスは驚愕している。
「なんだこれは、コンビニより安いじゃないか、それにドリンクの量もこれなら大きな方を買えてしまうじゃないか」
「何か奢ろっか?」
「いや、大丈夫さ、貸りを作りたくないしこれなら豪華な夕食ができそうだ」
アリスは満足げに店の食品やドリンクを必要最低限のものを買うと朱音とともにレジに行くのだった。それから駅に向かうアリスと朱音であった。
「ふぅ、駅というのは疲れるね、助かったよ朱音」
「大丈夫大丈夫、あたしはまだ駅先なんだけどアリスちゃんは一人で平気?」
「問題ないよ、朱音とコンビニではなくお店にも寄れて今日は少し豪華な夕食もできて寄る必要もないことだしね」
「ならいいけど気を付けてねー?」
「もちろんさ」
アリスは路地裏を選び家に向かうのだった。
「店か、僕の家の近くにもそれなりの店があればね…コンビニよりは人が多いけど」
何とか人目を避け家に到着するアリス。気づけば夜。アリスからしてみれば豪華な食事をとり、普段は500ml、しかし今回は1.5リットルのドリンクのため水分的にも余裕が生まれ朱音との対局で少しは頭をリフレッシュできたアリスである。
「朱音か…天理は赤が好きでチェスが上手くテニス部に所属している。あとは何の関心も示さない、それはさくらにも僕にも、僕のゲームにも、あとのことは全く読めない。それに対して朱音。未来と親友であり明るい性格、人と話すのは好きそうだ。僕とは大違いだ。僕はあの一局で確信した。天理がチェスが上手いように朱音は将棋に関しては相当な実力者と、そしてバドミントン部か…テニスとバドミントンも似ているように思える。何か天理と似ている」
新たな脅威、朱音の存在、天理と似ているようで似ていない。
「それに僕に向けたあの瞳、まるで天理と僕を執着するかのようなそんな発言。何としても自分のものにするかのような、僕が未来、天理、朱音を警戒しているように朱音は僕と天理を警戒している?今回は朱音を探り切れなかった、ゲームの参加者は主催者として把握する必要がある。そしてもう一人、いずれこの三人を凌駕するかもしれない人物、さくら、今度は彼女を探ろうか」
アリスはさくらを探り切れるのか。
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