家庭教師が美形すぎて勉強が手につきません

茜カナコ

第1話

「お嬢様、今日は家庭教師の先生がいらっしゃいますから準備しておいて下さい」

「はい、真理恵さん」

 私の家は、両親とも医者をしている。二人とも忙しいので、私の身の回りの世話や家事は家政婦の真理恵さんにお願いしている。


 今日は、初めて家庭教師が来る日だ。

 なんでもT大生らしい。それ以上の情報は無かった。

「ピンポーン」

「あら、いらっしゃったようですよ」

「私、部屋で待ちますね」


 真理恵さんが玄関に行った。

 私は自分の部屋に戻った。

「こんにちは、家庭教師で来た東洋司です」

「よろしくおねがいします。お嬢様の部屋は二階の階段脇です」

 真理恵さんはそう言って、東さんを私の部屋に案内した。

「お嬢様、東先生がいらっしゃいました」

「はいってください」


 私は緊張していた。小学校から女子校育ちで男性に免疫なんて無かった。

「こんにちは、東です。よろしくおねがいします。沖田遙香さん」

「遙香って呼んで下さい」

「じゃあ、遙香さん、全国模試の問題と解答を見せて下さい」

「はい」

 私は焦った。それは東先生があんまり美形で、すらりとしていて芸能人みたいだったから。

「うん、悪くないですね」

「良かった」

「復習ノートを出して下さい」

「復習ノートですか?」

 私は困ってしまった。今まで予習にばかり力を入れていたからだ。


 東先生は、復習ノートの説明をした。

「間違えた問題だけを書き出したノートです」

「ごめんなさい、作ってません」

 東先生は優しく微笑んだ。

「それなら今日から作りましょう。勉強は効率良くするのが大事ですからね」

「はい」

 私は素直に頷いた。


 それから先生は、間違えた数式を新しいノートに書き出させて、問題の考え方を教えてくれた。先生の教え方は丁寧でわかりやすかった。

「遙香さんは、基礎はできているようなので、予備校だけでも十分合格を狙えると思いますよ」

「でも、一人で勉強してるとどうしても行き詰まってしまうことがあるんです」

「それなら、週に一回、2時間程度という約束で家庭教師を引き受けていますから、そのときに聞いて下さい」

「はい、わかりました」


「先生。T大って楽しいですか?」

 先生はきょとんとした顔をした後、嬉しそうに言った。

「楽しいですよ、大学ではAIの研究室に出入りしていますが、最先端の知識や機器に触れることができますからね」

 私は黙ってしまった。先生の笑顔がとびっきり可愛かったから。


「私は、お医者さんになるよう親に言われてるから医学部しか考えてませんが、楽しいのかな?」

「きっと刺激的な毎日になりますよ」

「はい」

 先生は、残り時間に赤本をやらせた。

「きちんと時間を計って、時間が余ったら見直しをして下さい。本番の試験での見直しの練習も重要ですからね」

「はい、先生」


 先生は真面目だった。

「先生、彼女とか居るんですか?」

「いませんが、高校生は相手にしませんよ」

「そんなこと、言ってません」

 私は顔が赤くなるのを感じた。あしらいなれている感じだ。


「そろそろ時間なので、僕は帰ります」

「ありがとうございました。わかりやすかったです」

「分からない問題は、復習ノートにまとめて下さい」

「はい」


 私は先生に会える月曜日の午後が、楽しみになった。

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