第5話

「早くお連れしろ!」


「は、はい!!!」


 王は慌てた様子で部下に指示をしていた。


 その部下に連れられるがまま会議室へと向かった。


「こ、ここが会議室です」


「そうか。ご苦労だった」


「失礼します」


 慌てた様子で会議室を去っていった。そこまで魔王が恐ろしいのか。


「シキ、お前も席に座れ」


 こちらが優位なのだから、これくらい許されるだろう。それに、一番強いのはシキなのだ。実際にここに座ることには問題は無い。


「いえ、あくまでメイドですので」


 シキのようなメイドがいるか、と言いたいが、ちゃんとメイドではあるので黙っていることにした。


 そして待つこと数分、装いが変わった王がやってきた。


「お待たせした」


 服によって気合を入れてきたのか、それともこの時間の間に覚悟を決めてきたのか。真相は分からないが先程とは打って変わって落ち着いていた。


「うむ。では始めようか」


「分かった」


「まず大前提として要求するのが、この国で虐げられている魔族の全開放だ」


 これが無いと話が始まらない。そもそも戦争を起こそうとしたきっかけだからな。


「全開放か?それではこの国に対する打撃が大きすぎる」


「この国に対する打撃の過多が嫌か。ならばこの国全てを焦土にしてしまうだけだが」


 そんな理由で許すはずがないだろう。馬鹿か。


「……飲むしかないか。期限はいつまでだ?」


「一週間後。これ以上の引き延ばしは許さない」


「善処しよう」


「では次に入ろう。領土の割譲だ」


「領土か?」


「そうだ。とは言っても貰うのは街ではなくこの国の領土に広がっている自然の一部だがな」


「それだけなのか?」


「ああ。人間の住んでいる領地を奪い取った所で面倒なだけだ」


 わざわざ人間を支配して仕事を増やすのも面倒だしな。そもそも四天王だけでは仕事が回らないだろう。


 それよりも、自然に生きる必要のある魔族の領地を獲得する方が有用だ。


 魔族の領地も人族と同様に開拓と発展を繰り返している。生活を豊かにするために必要だからな。


 大体の魔族にとってこれは有益なのだが、一部の自然の力への依存度が高い魔物にとっては必ずしも利益にならないのだ。


 今後の発展の為にも、そういった土地は是が非でも手に入れたい。


「分かった。具体的にはどの場所になる?」


「シキ、地図を頼む」


「分かりました」


 シキが机の上にこの大陸が乗っている巨大な地図を開いた。


「大まかに言えばこのあたりとこのあたりとこのあたりだ」


 指したのは活火山と海辺と大陸一の高さを誇る山。


 どれも人工的に作ることが不可能なものだ。


「そこであれば問題はない。特に経済活動の拠点というわけではないからな」


「なら決定だな」


「うむ」


「そして次は、我々と貿易を行うこと」


「貿易か?」


「ああ。我々魔族は人間との国交が存在しない。そのため何もかもを我らの領地から手に入れねばならなかった。しかし、この国と貿易が出来るのであればその問題も解決するだろう」


「我が許したとしても国民が素直に応じるとは思えんが。特に王都に近い者であれば」


「それに関しては時間をかけて友好関係を結んでいけばどうにかなるであろう」


 実際に魔族側になった人間の街もあるのだ。そこを利用していけばそう難しい問題ではない。


「自信があるのであれば構わない。すぐに許可証を発行する」


「頼んだぞ。そして最後に。この国は我々魔族の国の傘下に収まり、敵対しないこと。そしてその事実は誰にも公表しないように」


 これがバレると大陸外から色々来て面倒だからな。


「これに関しては敗戦国だから受け入れるしかない。当然だ」


「では、これで終了だ。これからよろしく頼むぞ、サンドラ」


「よろしく頼む」


 俺はシキと共に魔王城へと帰った。


「ふう、どうにかなったな」


「魔王様にしてはよくやりましたね。褒めてあげましょう」


「絶対馬鹿にしているよね?」


「いえいえ、目上の人ですから敬意を払っていますよ、私よりも弱い魔王様」


 敬意を払っている相手に絶対つかない枕詞だよ……


「とりあえず結果を話に行きましょうか」


 俺はシキに連れられ、四天王に今回の説明をさせられた。シキが勇者達を倒したという事実は伏せていたが。


「やるじゃねえか!」


「妥当な結果だな……」


 すっかり元通りになった四天王たちが喜んでいた。


 これで魔族は安泰だな。私の代にやり遂げられてよかった。


「というわけで、我々魔族は次のステップに進み必要があるという結論になったそうです」


 突然シキが言い出した。あの、シキさん!?


「——」


 喋ろうと思ったが何故か声が出ない。シキを見るとウインクしてきた。こいつ……


「それは世界の征服です」


「この間それは冗談とか言っていなかったか?」


 当然の指摘をするサラ。


「あれは目標に現実性を持たせるためですね。こんな大陸の一部しか持っていない国が世界征服なんて不可能に見えるじゃないですか」


「確かにそうだな。一つの国ですら征服していないのに世界征服なんぞ大言壮語にも程があるからな」


 勝手に納得している……!違う、違うんだ!


 今度は身振り手振りで何か主張しようと思ったけれど、体も思うように動かない。


「勇者を倒してしまった今、魔王に匹敵する存在は皆無だろうしね」


 勝手に喋らされてる????


「とのことです。実際、魔王様単独で征服が出来る国も一定数ありますし」


「そんなもんなのか」


「ええ。あの国は勇者がいるのとここ魔族領が近いから武力をある程度確保していたから普通の国よりは強めですしね」


「魔族はこの大陸外にもいるにはいるんですが、一つ一つの数はかなり少なくて国を挙げて対策する必要は無さそうですものね」


 ディーネが補足してくれた。けど違う、戦う方針に何で乗り気なんだ!


「そういうことです。一応アレスの国王には口止めをしていますが、貿易などを開始する以上他の国に知れ渡るのは時間の問題です。大陸を征服して奴隷となっていた魔族を開放しただけでは魔族の安全性なんて確保されていないんですよ!」


 しれっと俺の考えをディスられた。


「そうだな。戦争という手段を取ってしまった以上、和解の解決策も取れないから妥当ではあろう。だが、策はあるのか?」


 フィードは冷静に反応する。


「勿論」


「まずは島国から攻めていこうかと考えています。理由は単純明快で情報の伝達が遅いこと。そして島国という都合上戦闘の拠点にした場合戦闘が楽というものがあります」


 人間同士の戦争だったら分からないが、強大な魔法を比較的容易に使えるとなる魔族にとっては、開けていて移動に制限のある海は魔族に有利だ。


 とは言ってもそれはあくまで海の上同士だった場合で、陸地から離れてこなかった場合は嵐等の天候による影響を一方的に受けるだけの戦いになるのだが……


「そのため今回は私が最初から前線に出て戦う予定だ」


 また勝手に喋れされたよってえっ……


「範囲魔法の射程に関しては魔王様がトップですからね。基本的に海から一人で戦うことになります」


「じゃあ俺らはどうなるんだ?」


 サラが口を挟んだ。ただ問題はそこじゃないでしょ。


「私たちの居ないこの国を守ってもらいます。滅ぼすのではなく支配するのであれば戦力はこれ以上必要ありません」


 シキがそう言い切った。国を二人だけで攻め落とすってマジすか……?


「ということで行ってきます」


 私はシキの転送魔法によってどこかに連行されていった。

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